Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由

浦和レッズ アレクサンダー・ショルツ インタビュー 後編

浦和レッズのアレクサンダー・ショルツは、なぜ安定したプレーができるのか。インタビュー後編ではその秘訣を本人に直撃した。また来日してJリーグ3シーズン目。日本のサッカーについて感じるところも語ってもらった。

前編「ショルツが日本でのプレーを選んだ理由」>>
中編「読書好きなショルツが語る日本文化」>>


アレクサンダー・ショルツが自身のプレーで心掛けていることについて語った

【自身の最大の武器は安定したメンタル】

 インタビューの当日、浦和レッズの練習を終えて取材場所に現れたアレクサンダー・ショルツに、「今日のトレーニングはどうでしたか?」と訊くと、「トレーニングはトレーニングだよ。いつもどおりさ」と返事があった。

 その時はとくに気に留めなかったが、話を続けていくうちに、実はこれも彼の好パフォーマンスの秘訣のひとつだということがわかっていった。

 前編で彼の相棒マリウス・ホイブラーテンの言葉を紹介したように、ショルツはディフェンダーに必要とされる要素をバランス良く備えている選手だ。それは本人も認めるところだが、一番の特長については次のように自己分析する。

「確かに自分はすべてをそれなりに兼備し、これといった弱点がない選手だと思う。ただし、最大の武器は安定したメンタルにあると自覚している。私は長時間、集中力を保つことができ、それによってミスが減る。簡単なエラーはディフェンダーにとって命取りだから。それから、試合の展開を読むことも得意だ。近い未来を正しく予測できれば、スピード自慢の相手にも対応できる。

 つまり私のパフォーマンスの8割くらいは、メンタルによって支えられている。だから、先ほどあなたに今日の練習について訊かれた時、『トレーニングはトレーニングだよ』と答えたんだ。なぜなら、私にとって練習は自分の身体のコンディションを整え、頭をクリアにするためのものだから」

 それは精神と思考のスイッチを、望みどおりに切り替えられるということなのだろうか。

「そうだね。公式戦のない平日に、100%の力を出し尽くすことはない。おそらく多くの選手よりも、出力は低いと思う。私の考えでは、エネルギーは有限だから、出しどころをわきまえたほうがいい。練習ではセーブして、試合でフルスロットルにと」

 ただし、ショルツは試合のピッチでも、実に落ち着いてプレーしているように見える。フットボールをプレーしたことがある人ならとくにわかるはずだが、試合中に湧き上がる様々な感情を抑えて常に冷静に振る舞うことは、言葉にするほど簡単ではない。

 ショルツは続ける。

「確かにそのとおりだが、それは私の性格と経験によるものだと思う。でも試合前には、必ず胃が縮こまるくらい緊張するんだ。ただそれは私にとってネガティブなものではない。緊張によって重圧を感じ、そのプレッシャーによって失敗したくないと考えるようになる。

 選手も人それぞれだから、どんな風に試合に臨むかも千差万別だ。なかにはとにかく楽しむことが重要と考え、リラックスして準備する選手もいるだろう。でも私には、ある程度の緊張が必要なんだ。それによってハングリーでいられる」

【ショルツが感じている日本サッカー】

 第25節終了時点(8月26日)でリーグ最少19失点の浦和の堅守には、阿吽の呼吸で連係するショルツとホイブラーテンの"ノルディック・ペア"の存在が大きい。それぞれの能力の高さもさることながら、デンマーク人とノルウェー人の両者は互いの母国語も大まかに理解できるというのだ。

「言うまでもなく、フットボールをプレーする上で、コミュニケーションはものすごく大事だ。ピッチ上には、行くべきか、止まるべきか、迷う瞬間がいくつもあるが、周囲が的確に声をかければ解決できることが多い。

 その意味で、彼(ホイブラーテン)とはとても良いパートナーシップが築けていると思う。ノルウェー語とデンマーク語は、ノルディック語のなかでも近い言語で、私たちは咄嗟に出てしまう言葉さえもある程度は理解できるんだ。

 おそらくJリーグには、私たちと同じレベルの個人能力を持ったディフェンダーはいるが、我々ほど綿密に連係できるセンターバックのコンビはいないと思う。実際、コミュニケーションは日本のサッカーにもっと必要なもののひとつだ。

 あるいはそれは、大きな声を出すことが良しとされないこの国の文化に起因するものかもしれないけど、フットボールには絶対に欠かせないものだ。だからうちの(マチェイ・スコルザ)監督も、その点を強調している。彼にとって、最終ラインに二人の欧州出身者がいることは、その考えを全体に伝える意味でも役立っていると思う」

 日本サッカーの課題はコミュニケーション以外にもあると、ショルツは言う。

「一番は『有効性』にあると思う。言い換えれば、手数をかけ過ぎてしまうところ。日本人選手の技術や戦術的規律は実に高く、個々の能力にも優れているが、大事な決断をすべき時に、そうしない選手が多い。

 最大の例は、ストライカーがゴール前でシュートを打つべき時に、そうせずにもうひとつパスを選択すること。その瞬間を逃してしまえば、もうチャンスではなくなってしまう。これを改善するには、ミスを犯してもそれを咎められない環境を作る必要があるだろう」

【クラブW杯での楽しみは南米との対戦】

 その日本サッカーのレベルを試す機会が今年12月に訪れる──浦和がアジア王者としてクラブW杯に参戦するのだ。そこではアーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)やカリム・ベンゼマ(アル・イティハド)といった世界のトップストライカーと対戦する可能性もある。だがそれについても、ショルツは彼らしい回答で応じた。

「私が楽しみにしているのは、未知のチームとの対戦だ。欧州の代表クラブよりも、南米の代表クラブと戦ってみたいよ。ビッグネームにはとくに興味がないんだ。昨年、パリ・サンジェルマンが日本に来て浦和と親善試合をしたんだけど、私は体調不良で出場しなかった。

 すると周りの人のなかには、『PSGと対戦できなくて残念だね!』と言ってくる人もいたが、私にはどうでもよかった。フレンドリーマッチでプレーすることに意味を見いだせないし、そこでケガの心配をするくらいなら、出ないほうがマシだよ」

 穏やかながら強い芯を持ち、独自の視座で世界を眺めるスカンジナビア出身の守備者が、これからもアジア王者を支えていく。
(おわり)

アレクサンダー・ショルツ 
Alexander Scholz/1992年10月24日生まれ。デンマーク・コペンハーゲン出身。浦和レッズ所属のDF。身長189cm、体重84kg。母国のヴェイレBKでキャリアをスタート。アイスランドのストヤルナンを経て、2012年からベルギーのスポルティング・ロケレン、スタンダール・リエージュ、クラブ・ブルッヘでプレーした。2018年からはデンマークに戻り、FCミッティランで3シーズンプレー。この間CL出場やデンマークリーグのMVPを獲得。2021年シーズンの途中から浦和へ加入し、プレーしている。