アレクサンダー・ショルツが欧州でなく浦和への移籍を選んだ理由 いつ日本に興味を持った?
浦和レッズ アレクサンダー・ショルツ インタビュー 前編
Jリーグは現在、じつに多くの国から、さまざまな外国籍選手がやってきてプレーするようになった。彼らはなぜ日本でのプレーを選んだのか。日本でのサッカーや、生活をどう感じているのか? 今回は浦和レッズのDFアレクサンダー・ショルツに話を聞いた。以前から日本の社会や文化に好感を抱いていて、浦和からのオファーには即決したという。
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アレクサンダー・ショルツは2年前に浦和へ加入。Jリーグ3シーズン目をプレーしている
常に冷静に戦況を読み、勘どころを心得えた守備で堅陣を支え、奪ったボールは強いパスや巧みなドリブルで攻撃に繋ぎ、試合全体に影響を及ぼす──。
浦和レッズの最終ラインに君臨するアレクサンダー・ショルツは、チームの屋台骨だ。昨シーズンのJリーグベストイレブンには不思議と選出されなかったが、今年5月の浦和のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)2022優勝に大きく貢献したデンマーク人センターバックを、リーグ屈指のディフェンダーと評する声は高い。
それはファンやメディアからだけでなく、同じピッチに立つ仲間もこの30歳に絶大な信頼を寄せていることからもわかる。浦和の守備の中央で彼と"北欧コンビ"を組むノルウェー人センターバックのマリウス・ホイブラーテンは、「(ショルツは)守備者に求められるすべての能力が総じて高い。一見、速そうに見えないかもしれないけど、ここぞという時にはスピード勝負にも負けない。そして何より、あの落ち着きだ。彼が隣にいると本当に安心してプレーできる」と筆者に語った。
そもそもショルツが2021年5月に母国のミッティランから浦和に加入した時、当時のチームメイトだった同胞のキャスパー・ユンカー(現名古屋グランパス)は、「あれほどの実力者が日本に来ることに驚いた」とこちらに打ち明けた。
なにしろショルツは、その直前の2020−21シーズンのデンマーク・スーペルリーガの最優秀選手に選ばれ、チャンピオンズリーグ(CL)では予選を勝ち上がってクラブ史上初の本大会進出に寄与。グループステージでは全6試合にフル出場し、アタランタとリバプールからゴールまで奪っているのだ。当時28歳の良質なディフェンダーなら、欧州でステップアップすることもできたのではないか。
そんな質問からインタビューを始めると、ショルツは柔和な微笑みをたたえながら、落ち着いた口ぶりでこう切り出した。
【浦和からのオファーには即決した】「私は以前から、ヨーロッパ以外の国でプレーしたいと思っていたんだ。そして2019年12月の休暇中に、ベルギー(のロケレン)でプレーしていた時に友だちになったジュニオール・ドゥトラの試合の観戦を兼ねて、日本を訪れた。
それはヴィッセル神戸と清水エスパルスの天皇杯準決勝で、スタンドに座っていた私は『ワオ、これはすばらしい雰囲気だ。最高じゃないか』と感じていた。すると隣にいた友人の母が、『あなたも日本でプレーするべきよ。性格的にも、きっと日本に向いているわ』と言ってくれてね」
それからJリーグのことを気にかけるようになり、何度か欧州と日本の代理人に相談したという。そして2019−20シーズンの国内リーグを制し、翌2020−21シーズンは優勝こそ逃したものの、前述のようにCLで活躍し、リーグ戦の個人賞も獲得した。
「その1年半ほどは、ずっと調子がよかったので、存在感を示せたと思う。私は代表に招集されたことはあるが、試合に出てはいないので、名前を知られることが重要だった。すると浦和からオファーが届いたので、私は即決したよ。長期的なプランとして思い描いていた通りに、物事は進んでいった」
でも彼の周囲には、その選択に驚いた人もいたのではないか。直前のシーズンにCLで2得点したフットボーラーが、欧州でキャリアを高めていくのではなく、極東で新たに冒険を始めるという決断に。
「私は小さな頃から、自分の信じる道を進んできた。もちろん周囲の人に耳を貸すこともあるが、いつも最後は自分で決断してきたんだ。それに私は自分の実力を現実的に捉えていた。欧州はフットボールの中心で、競争が極めて激しい。私は自分自身を"ヨーロッパリーグレベル"と捉えていた。それくらいのクラブに移籍することはできても、もうその上の領域に達するのは難しいと感じていたんだ。
であれば、欧州の似たようなクラブに行くより、以前から興味のあった日本でプレーしたいと思った。この国なら、私の家族が幸せに生活する姿を想像できたしね。それに、ひとつ知っておいてほしいのは、私はデンマークのリーグから来たということ。日本の選手やファンのなかには、欧州はどの国のリーグもJリーグより優れていると思っている人もいるが、デンマークのリーグはJリーグよりレベルが高いわけではない。
また逆に欧州では、日本のリーグのことをちゃんと知っている人が少ないから、年齢を重ねた後に移ってきても活躍できると思っている人が多い。でも実際は違う。そんなに簡単にプレーできるリーグではない。
いずれにせよ、これは私自身の決断だ。それが正しかったことは、すでに証明されている。アジア最大のクラブのひとつで大観衆のサポートを受けながらプレーでき、AFCチャンピオンズリーグまで制することができたのだから。なにより、私はここで大いに楽しんでいるよ」
【欧州よりも日本の社会のほうがしっくりくる】4年前に天皇杯の一戦のスタンドで友だちの母に言われたことは、「完全に正しかった」とショルツは言う。彼の穏やかな性格は、日本とスムーズに調和したようだ。
「外国人のなかには日本の嫌いなところを愚痴にする人もいるけど、私にはそんなものはほとんど思い当たらない。実際、欧州の社会よりも日本の社会のほうが、私にはしっくりくる。日本人は他者を敬い、他のひとに迷惑をかけないようにするけど、それは私も同じだ。個人的に、自分はこちらの文化のほうに親近感を覚えている。それに普段の生活は、クラブのスタッフが手助けしてくれるから、問題は一切ない。選手はフットボールに集中できるから、言い訳は許されないね。
日本は知れば知るほど、興味深い国だ。例えば、外国人のなかには、日本人はユーモアのセンスが希薄だと言う人がいる。でもそれはただ日本のことを知らないだけで、実際はとても面白い人が多い。言葉の問題があるからだと思うが、それさえも私にとってはポジティブなもので、語学を学ぶモチベーションになっている。日本語を習って、微妙なニュアンスまでわかるようになりたい」
それがショルツの本心から出た言葉だということは、インタビューが進むうちにわかるようになっていった。
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アレクサンダー・ショルツ
Alexander Scholz/1992年10月24日生まれ。デンマーク・コペンハーゲン出身。浦和レッズ所属のDF。身長189cm、体重84kg。母国のヴェイレBKでキャリアをスタート。アイスランドのストヤルナンを経て、2012年からベルギーのスポルティング・ロケレン、スタンダール・リエージュ、クラブ・ブルッヘでプレーした。2018年からはデンマークに戻り、FCミッティランで3シーズンプレー。この間CL出場やデンマークリーグのMVPを獲得。2021年シーズンの途中から浦和へ加入し、プレーしている。