「胃拡張」と食べ過ぎの違いや食事の注意点について解説!膨満感はありませんか?

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腹部が常に張っている・膨満感が数日経っても消えないことはありませんか?

もしかしたらその症状、食べ過ぎではなく胃拡張によるものかもしれません。

胃拡張が起こると胃の内容物が次の消化器官へと移動していかず、ずっと胃に留まり続けることとなります。

そうなると胃は大きく膨れ上がり、呼吸困難・嘔吐症状を引き起こす他、最悪の場合は胃壁が壊死・死に至ることもある注意が必要な症状です。

この記事では胃拡張の症状・原因・検査方法について解説していきます。

治療方法・食事の注意点についても解説していきますので、ぜひ事前勉強として参考にしてください。

胃拡張の症状や原因

胃拡張とはどのような病気ですか?

胃拡張とは胃の内容物が十二指腸へと移動せず、胃に停滞することによって膨満感が現れる病気です。通常、食べた物は胃に送られた後に胃液により消化され、その後胃の奥にある十二指腸へと蠕動運動によって移動します。
このとき何らかの原因により十二指腸への移動が阻害されると、出口を失った胃の内容物は留まり続けることとなり、胃は限界を超えて膨らんでしまいます。このように胃の内容物が十二指腸へ移動できないために腹部が張る病気が胃拡張です。
なお胃拡張とは症状を表す用語であるため、正式な病名ではありません。

胃拡張の症状について教えてください。

胃拡張になると慢性的に膨満感を覚えるようになる他、以下の症状を伴うことがあります。

腹痛

みぞおち付近の痛み

嘔吐

呼吸困難

脱水症状

胃拡張になると胃の内圧があがるため多量の嘔吐を頻繁に繰り返し、脱水症状に陥ることがあります。食べたら食べた分を嘔吐してしまい、何日も前に食べた物が混じっている様子が見られるのも胃拡張の特徴です。
膨れ上がった胃は他の臓器を圧迫し、場合によっては呼吸困難を引き起こすこともあります。また胃拡張には慢性的に症状を感じる胃拡張の他、急激に症状が発現・進行する急性胃拡張があります。
急性胃拡張は普段腹部の膨満感を自覚していない方でも起こることがあり、死に至ったケースもあるほどです。急性のものではなくても症状を放置した場合、胃壁に穴が開き腹膜炎を併発する可能性があるなど、胃拡張は重篤な病気です。決して軽視できる症状ではありません。

胃拡張の原因を教えてください。

胃拡張の原因は大きく分けると、胃の出口が塞がれることによるもの・胃の動きそのものに支障があることによるものです。胃の出口を塞ぐ要因としては胃ガン・潰瘍の瘢痕・手術痕などが挙げられます。
胃ガンは胃の出口である幽門部にできやすい傾向があり、狭窄が起こることで胃の内容物が十二指腸へ移動するのを阻害します。潰瘍の瘢痕・手術痕などは必ず原因となるわけではありませんが、稀に要因となることがあるようです。胃の動きそのものに支障をきたす要因としては、ストレス・糖尿病などが挙げられます。そもそも、消化管運動を調節する機能を有するのは自律神経です。
ストレス・糖尿病はこの自律神経の働きに大きな影響を与えます。ストレスは自律神経を乱すことで蠕動運動の正常な働きを阻害し、消化管運動障害を引き起こします。糖尿病は消化管神経系に影響を及ぼすことが報告されており、蠕動運動が弱くなる・起こらなくなるなどの運動障害・感覚障害を引き起こすのです。この他、原因不明で胃拡張を発症することもあり、そのような消化管機能不全を機能性ディスペプシアと呼びます。

胃拡張になりやすいのはどのような人ですか?

慢性的にストレスを抱えている方・生活習慣が乱れている方・糖尿病を患っている方は胃拡張になりやすいといえます。先述した通り胃周辺の蠕動運動には自律神経が深く関与しています。
自立神経は日常生活の様々な影響を受けやすく、機能が阻害されると副交感神経が優位となり、必要な場面における筋肉の収縮が起こらなくなってしまうのです。普段から便秘・高血糖・睡眠不足・運動不足などの自覚症状がある方は、自律神経が乱れやすい状態になっているため胃拡張を発症するリスクは高いといえるでしょう。また暴飲・暴食により急性胃拡張が引き起こされたケースもあります。

胃拡張の検査や治療方法

胃拡張の検査方法を教えてください。

胃拡張はレントゲン検査・バリウム検査・CT検査・エコー検査・内視鏡・血液検査などによって検査を行います。バリウム検査・エコー検査などで胃拡張の発症を認めた際には、内視鏡・レントゲン検査で胃拡張の原因を詳しく調べていきます。
また呼吸困難など他の臓器を圧迫している可能性があるときには、CT検査により詳しい解析が可能です。さらに胃拡張には高血糖や肝機能の低下など、裏に重大な病気が潜んでいることもあります。血液検査により多角的に胃拡張の原因を調べていきます。

胃拡張はどのように診断されますか?

胃拡張は胃内容物の移動遅延または停滞が認められ、胃が拡張している様子があれば胃拡張と診断されます。
あくまで病名ではなく症状ですので、胃拡張の診断は原因が何であるかは問いません。レントゲン検査などで腹部にガスが溜まっている様子やCT検査で蠕動運動の機能低下が確認されれば胃拡張の診断となります。

治療方法を教えてください。

胃拡張は胃の出口が狭窄することにより起こるものと、蠕動運動の機能低下により起こるものがあり、どちらに属するかによって治療方法は異なります。胃の出口が狭窄することにより起こる胃拡張であれば、狭窄している部分にバイパス手術を施す・腫れの除去など、外科手術を要することもあります。
蠕動運動の機能低下によって起こる胃拡張なら、機能を調節している自律神経を整える必要があり、自律神経を乱す根本的な原因の治療にあたる必要があるでしょう。慢性的にストレスを感じている方であれば、投薬により胃の働きをサポート・改善する治療が行われます。場合によっては抗うつ薬・抗不安薬などの処方が有効なこともあります。
高血糖・糖尿病の方であれば、まずは生活習慣の改善が重要です。食事療法・運動療法を取り入れた規則正しい生活は自律神経を整える効果があり、胃拡張の再発を防ぐ効果があります。しかし急性胃拡張のとき・症状の強いときは、このように時間をかけた治療は困難であり、一刻も早く胃の圧を下げる治療が必要です。
胃にチューブを入れてガスを抜く治療が行われるほか、内視鏡により胃の内容物を除去する治療が行われることもあります。また腹膜炎の併発・胃の破裂が認められれば緊急手術を行います。治療後は絶食が基本であり、退院後も食事管理を続けることが重要です。

胃拡張と食べ過ぎの違いや食事

胃拡張と食べ過ぎの違いを教えてください。

胃拡張も食べ過ぎも、ともに腹部の膨満感を覚えますが、食べ過ぎによる腹部の膨満感が数日間持続することはありません。一般的に食事により摂取した食べ物は2~3日かけて排泄されるとされています。
2~3日の間に食道・胃・十二指腸・小腸・大腸と通過していくわけですから、胃に2~3日以上留まる状態は正常ではありません。また胃拡張・食べ過ぎ、どちらでも他者から見てもわかるほど腹部が膨らむことがありますが、胃拡張はみぞおち辺りの上腹部が張るのが特徴です。
食べ過ぎの場合は中央から下腹部にかけたベルトあたりに膨らみが現れるのが一般的なため、このような違いが胃拡張・食べ過ぎの違いといえるでしょう。

胃拡張になった場合の食事の注意点はありますか?

消化管運動の機能が低下・消失しているときは、食事内容・食べ方・食べる量を体の状態に合わせて適切に選択することが大切です。症状の強いときや医師の指示を受けている際は、無理に食事を摂らず絶食にして様子を見ましょう。
しかし食べられそうなら、少しずつでも食事をするべきです。具体的には消化の良いものをゆっくり・良く噛んで・腹八分目を意識しながら摂取します。主食はお粥・ごはん・うどんなどが良いでしょう。脂身の多い肉・魚は消化の妨げとなるため避けるようにします。
またアルコールや過度の刺激になるものも避けるべきです。食事内容は消化に良いものを、タンパク質・脂質・糖質をバランスよく摂ることを意識して選びましょう。食事の際はゆっくりよく噛んで、胃に負担にならない量を摂取します。量の調節が難しいときは小分けにして食べるのも良いですね。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

胃拡張は誰しも起こる可能性がある症状です。ストレス社会では自律神経・生活習慣の乱れが思わぬ所に影響することがあります。胃拡張もその1つといえるでしょう。初期症状が腹部膨満感であるため重症化するまで気づきにくく、軽視されがちな症状ですがその裏には重篤な病が潜んでいることもあります。
腹部の張りがいつもと違うと感じた際には消化器内科・一般総合内科などを早急に受診するようにしてください。また、ストレスの軽減・生活習慣の改善などは一朝一夕でできるものではありません。
多くの場合、ストレスをなくすことは簡単ではありませんし、生活習慣の改善も周囲の協力がなければ難しいでしょう。長い目で見て、体の不調とうまく付き合っていく工夫が大切です。リラックスが自律神経を整えるともされているので、少しずつ改善していく意識で取り組んでみてください。

編集部まとめ


お腹が張る感覚は、多くの方が経験したことのある症状でしょう。

しかしその裏で、胃拡張という注意が必要な症状が潜んでいるかもしれないことを、ご存知ない方も多かったのではないでしょうか。

食べ過ぎていた後、数日経っても腹部の膨満感が消えない場合は、胃拡張を疑った方が良いかもしれません。

特に暴飲・暴食の心当たりがある場合・嘔吐物に数日前の食べ物が混ざっている場合は胃拡張を引き起こしている可能性が高くなります。

また急性胃拡張を引き起こしている場合は一刻も早く治療を受けるのが重要です。

腹部の膨満感が主症状だと、救急車を呼ぶのを躊躇してしまいがちです。

しかし死に至ったケースもあることから、救急車を呼ぶ必要性があることを念頭におき、いざというときすぐに動けるようにしておきましょう。

参考文献

機能性ディスペプシア(FD)ガイドQ&A(日本消化器病学会ガイドライン)

胃切除後食物停滞による残胃拡張に対する簡易な治療介入インデックスの同定(一般社団法人日本消化器外科学会)

糖尿病神経障害(とうにょうびょうしんけいしょうがい)(厚生労働省)