風俗店が現役女子大生だらけになっている理由。ソープランドの個室からオンライン授業に参加する嬢も…

風俗嬢、また売春的な行為をする女性の取材を続けてきた中村淳彦氏。この度その長年の取材をまとめた著書『貧困女子の世界』(宝島社)を上梓した。本記事では第二章「女子大生の貧困世界」の中から、学費を払うためソープランドで働き、ソープランドの個室からオンライン授業に参加する札幌在住の未来さん(仮名・20歳)の現実を紹介する。

「大学生なので風俗で働くのは仕方ないです」

2021年2月1日。札幌の気温は氷点下、凍いてつく寒さだが外はまぶしいくらいの晴天だ。オンラインミーティングの画面の向こうにある部屋の窓から、強い自然光が差し込んでいる。松本未来さん(仮名・20歳)は札幌市内にある私立大学2年生。アルバイトでソープ嬢をしている。今は一人暮らしをするマンスリーマンションから配信をしている。

オンラインミーティングはメールで時間を決めて、お互いが接続してつながる。未来さんとは午前11時半からとした。時間どおりにつながって画面に現れた未来さんは、若手女優の清原果耶似、優等生系の美少女だった。筆者は予想以上に清楚でかわいい女の子が現れてため息をついた。

大学生の貧困が社会問題となって、もうだいぶ経つ。

与野党の一部の国会議員たちも大学生たちの貧困を問題視し、なんとかしなければと動いてはいるが、学生たちの過酷な状況が改善される雰囲気はない。大学は毎年、新入生が入学して卒業生が社会に羽ばたいていく。そんな間にも大学に入学した女子学生たちが続々と性風俗に流れる傾向はとどまることはなく、さらに加速している。

画像はイメージです

未来さんは大学紹介のパンフレットに出てくるような清楚な学生らしい風貌で、体育会系の部活に所属し(活動は土日のみ)、語学の研究に取り組んでいる。しかし、学生生活における経済的理由のため、空いた時間のほぼすべてをソープランドの個室で過ごしている。

「高校の卒業式が終わってすぐヘルスで働いて、半年くらい前にソープに移りました。ずっと仕事ばかり。コロナでリモート授業だし、お店と家を行き来しているだけの生活です。キツイこともありますけど、大学生なので仕方ないです」

もうだいぶ前から、風俗店は現役女子大生だらけである。どこの店にもいる。全国的な傾向で、若い女の子を売りにする一般的な風俗店には、必ずといっていいほど現役女子大生が複数在籍している。

彼女たちは狭い個室やラブホテルで、不特定多数の男性を相手に裸になって性行為を行っている。大半が学生生活における経済的理由が要因だ。親からの給付と普通のアルバイト代では大学生活を送るためのお金が足りず、苦渋の選択として性風俗を選択している。性風俗では若さという価値が認められる、労働単価が高い、そして自由な時間に出勤できる、と女子学生にとっては〝メリット〟が大きい。

彼女たちが風俗で働く目的は学生生活の維持のためなので、もはや部活やサークルみたいなものとなっていて、優等生/劣等生、派手/地味、社交的/内向的など、個人の性格や属性が偏ることなく、あらゆるタイプの学生が風俗嬢になっている。

ソープランドの個室でオンライン授業

取材開始早々、未来さんから「大学生なので仕方がないです」と重い言葉を聞かされた。お金がかかる大学進学を選択したのは自分自身、だから風俗店に勤務してカラダを売るのは仕方がない、ということだ。

政府は緊縮財政の一環として「高等教育の受益者負担」の方針を推進している。その方針が弱冠20歳の女の子に自然と身に付いていたことになる。「今、大学は春休みなので週5~6日で出勤しています。14時から閉店の24時まで、ほぼ毎日。稼いだ金額は先月75万円、先々月は50万円くらいかな。

去年、お母さんに風俗していることがバレて実家を出て、今は一人暮らしです。親とは半分絶縁みたいな状態なので、学費のほかに生活費が必要になった。もう休みの期間中は限界まで働くしかないです。私立なので学費が年間110万円、残り2年間あって220万円必要で、時間があるときに働いて貯金したいってことでの鬼出勤です」

おそらく彼女が現役ソープ嬢とは誰も思わないだろう。大学では体育会系の部活に所属し、グローバルビジネスの研究をして、文武両道の学生生活を送っている。

大学の授業期間中は土日の部活帰りから閉店まで、休み期間中はほぼすべての時間を風俗店の個室で過ごしている。店から頼まれたときは授業期間中でも出勤し、ソープランドの個室でオンライン授業を受けることもある。

「最初は店舗型ヘルスで働きました。若い子だったら学園系とか、メイドさんのお店とかある。高校3年のとき、国立に落ちたら私立、私立に行ったら風俗やるって決めていました。それまでの男性経験は1人だけです。

経験はほとんどないけど、なんとかなるって自信はありましたね。実際にやってみて、キツイけど、やっぱりお金もらえるのがすごくうれしかった。精神的にもダメージのある仕事でしたけど、お金もらえるっていうのと、お金が貯まる、大学に行くことができるっていうのがすごい、私にとって幸せだった。だから続けています」

店舗型ヘルスでの収入は10分1000円単位。60分コースだったら6000円のバックだったという。すすきのの風俗店はそもそも全体的に客単価が高くないので、女性の報酬も安めに設定されている。未来さんは当事者なので風俗、ソープランド―とサラッと語っているが、実際はかなり厳しい仕事だ。

精液まみれになり1時間6000円の報酬

みなさんに現実を理解してもらうため、彼女が日常的にしているだろう具体的な行為に触れておく。

店舗型ヘルスは、ベッドだけがある3畳程度の狭い個室でサービスを提供する。受付と支払いを済ませた男性客を、女性が個室に招く。指名制度もあり、特定の女性を指名する場合は指名料がかかる。女性は適当に雑談しながら男性客の服を脱がせて、自分も脱いでいく。人によるが、ここで女性は肉体を触られまくる。会って3~5分ほどで男性客も女性も全裸になる。

一緒にシャワー室に入り、女性は男性客の身体を洗う。紳士的な男性、エロモード全開の男性の割合は半々だろうか。シャワーが終わり、一緒に個室に戻り、男性客は仰向けになって女性からキス、男性の身体を舐める全身リップ、陰部を舐める生フェラチオ、店によってはアナル舐めなどをする。盛り上がってきたところで攻守交代し、男性客は陰部を含む女性の肉体を舐めまくり、最後は女性が股間に手を添えて疑似的なセックス(素股)をして射精に導く。女性の手と身体は精液まみれになり、それを洗い流し、また新しい男性客を招く。そんな感じだ。

60分間で1人の男性相手にこれだけのサービスを提供して6000円の報酬である。すすきののような昔ながらの有名な風俗街の店舗型風俗店は、客付きがよく、この行為を1日何度も繰り返す。長時間勤務し、仮に1日8人の男性とこの性行為を繰り返すと、6000円×8人=4万8000円の収入となる。

風俗は完全出来高制の日払いが基本であり、毎日、稼いだお金を店から受け取って帰路につく。未来さんが最初に働いたのは、学園系のヘルス店だった。風俗店は働く女性の年齢や傾向によって細かくジャンル分けがされていて、彼女のような清楚な女性はロリ系、学園系などでニーズがある。

「セーラー服とかブレザーとかを着てました。やっぱりマニアックなお客さんが多くて、正直気持ち悪かった。制服とか好きな人は、みんな40代、50代くらいの方です。親と同じくらいの年齢ですね。ひたすら足だけを舐められたり、パンツの匂いを嗅がれたり、変なプレイをする人もたくさん。

それと会ったばかりなのに何々ちゃん大好きだよ、みたいなことを本気でいってくる人もいました。なにを考えているの、おじさんって。父親くらいの年齢の知らないおじさんに、真剣に冗談ではなく、大好きだよとか、そういうのは精神的にきます」

ヘルスよりソープのほうが楽

清楚でおとなしく、優等生っぽい女の子は中年のいわゆる非モテ層に好かれる傾向がある。一般的に「キモい」と呼ばれがちな中年男性だ。彼らの性処理だけではなく、恋愛対象にもなったりする。また、気が強くない女性や子供に強く出るタイプの男性客も一定数いる。反撃されそうにない女の子は、そのような男性からのハラスメントも受けやすい。非モテ層の中年男性をうまく転がす女子も多いが、ロリ系、学園系で働く女の子たちは同じ風俗の仕事でも、嫌なことや我慢しなければならない場面が多い。

「好き、大好き、付き合ってほしいとか、そのとき未成年の私に本気でいってくるおじさんって、どういう人生歩んだらそうなるのって思いました。毎日、毎日通ってプロポーズしてくる人もいて、親より年上の人から向けられる感情ってなんか変な気持ちになる。怖いし、しんどい。あと、本番強要ばかりっていうのもあって、疲れてしまって大学2年に進級したときにソープに移りました」

すすきののソープランドは有名だ。客の支払いが1万~1万5000円程度の安価な店が繁華街に点在し、老舗の格安ソープ街として全国区の知名度となっている。

「ヘルスよりソープのほうが楽。ヘルスだと本番ないから、口とか手で抜かなきゃならない。だから、体力的にキツい。顎は疲れるし、足が痛くなったり。本当に体力的にキツくて。ソープランドをやってみたらもうすごく楽でした。コンドームつけてヤッちゃえば、あとは相手が頑張ってくれる。だから、卒業までこのままソープで働こうと思っています」

ソープランドは代表的な店舗型風俗で、先ほど伝えた店舗型ヘルスの行為に加えて、マットプレイや本番セックスをする。風営法では〝ソープランド〟と明記されて認められている存在だが、本番提供をするので売春防止法に違反している。

法的にグレーな業態で、ソープ嬢と男性客のセックスは〝自由恋愛〟という建前で「管理売春ではない」ということになっている。また、ソープ嬢が手にするお金は源泉徴収税が引かれない〝地下マネー〟であり、ほとんどの女性は税金を払っていない。

文/中村淳彦 写真/shutterstock

貧困女子の世界

中村淳彦

2023/6/6

880円

288ページ

ISBN:

978-4-299-04392-4

貧困「底なし沼」

会社員 女子大生 シングルマザー 風俗嬢……

「カラダを売れなくなったら死ぬしかない」

一度堕ちたら抜けられない

「貧困スパイラル」

「大学生なので風俗で働くのは仕方ないです」

「上野公園のハトのほうがいいものを食べている」

衝撃のドキュメント!

恋愛経験のない処女が風俗勤務し、女子大生がソープランドの個室でオンライン授業を受け、シングルマザーが「パパ活」で生活費を稼ぐ――止まらない国民の貧困化。最大の「被害者」は若者と女性だ。停滞する賃金、上がり続ける税金と学費。女子大生は風俗で働くことを半ば強制され、単身中年女性はカラダを売っても生活できない状況まで追い込まれた。「貧困女子」という言葉が一般化しておよそ10年。本書は彼女たちの告白に耳を傾け続けてきた著者による記録の集大成である。

停滞する賃金、止まらないインフレ、そして世代間格差――。働いても働いても貧困から脱出できない若年層の女性たち。彼女たちのリアルな現実は、主要メディアではほとんど報道されることはない。未成年売春、ホス狂い、風俗、虐待、奨学金……過酷な境遇にある女性たちの生き様を『東京貧困女子。』などの著書があるノンフィクションライター・中村淳彦氏が活写する。