「尿意がないのに尿漏れ」する原因・対処法はご存知ですか?医師が解説!

写真拡大

尿意がないのに尿漏れするとき、身体はどんなサインを発している?Medical DOC監修医が主な原因や考えられる病気・何科へ受診すべきか・対処法などを解説します。気になる症状は迷わず病院を受診してください。

監修医師:
今村 英利(新宿アイランド内科クリニック 院長)

医師、医学博士。2009年新疆医科大学を卒業し、中国医師免許取得。2014年10月に血液悪性腫瘍の研究を志して、神戸大学大学院に入学。2019年3月に医学博士号と日本医師免許を取得。赤穂市民病院、亀田総合病院、新宿アイランド内科クリニック院長などを歴任後、2023年2月いずみホームケアクリニックに常勤として着任。内科全般の疾患を幅広く診療している。

「尿意がないのに尿漏れ」症状で考えられる病気と対処法

尿漏れはQOL(生活の質)を損なう疾患の代表的なものであり、直接生命に関わることは基本的にありませんが尿漏れをきたすと生活の質を大きく損ない、悩まされることになります。そのため、どのような原因で尿漏れをきたすのか正しく知り、対処法を理解することが必要です。

尿意がないのに尿漏れする症状で考えられる原因と対処法

尿漏れの主な原因は女性と男性で異なり、女性では腹圧性尿失禁(SUI)、男性では溢流性尿失禁が多いといわれています。また、高齢者では切迫性尿失禁や複数の原因による複合型尿失禁、糖尿病が原因の神経障害も尿失禁の原因となります。
これらの尿失禁の背景には、肥満や便秘、高血圧などの生活習慣病がかかわっていることも多く、軽い尿漏れの場合には生活習慣の改善や適切な運動により対処することができます。ただ、症状がひどい場合には薬物療法が必要になるため、泌尿器科や婦人科の受診が必要になります。

女性で尿意がないのに尿漏れする症状で考えられる原因と対処法

女性では特に更年期以降で尿漏れをきたす頻度が増え、女性の尿失禁は腹圧性尿失禁(SUI)が多いといわれています。
腹圧性尿失禁の症状の特徴には、咳・くしゃみをしたり、重いものをもったり、走る・階段を上るなど、腹圧がかかる時に尿意を伴わずに尿が漏れる、というものがあります。
腹圧性尿失禁は骨盤底筋のゆるみが原因と言われています。骨盤底筋のゆるみは、加齢や出産を契機に起こるといわれています。また、荷重労働や排便時の強いいきみ、喘息なども骨盤底筋を痛める原因になるといわれています。
すぐにできる処置や、症状の落ち着かせ方は、肥満、便秘などの生活習慣の改善です。また、骨盤底筋体操も効果的です。
尿漏れが良くならない場合には、泌尿器科専門医がいる病院や婦人科を受診するのが良いでしょう。

男性で尿意がないのに尿漏れする症状で考えられる主な原因と対処法

男性の尿失禁は溢流性尿失禁が多いといわれています。
症状の特徴としては排尿時に通常より長く時間がかかったり、強い残尿感があったりすることが多く、尿を出し切ることができないためにトイレに行く回数が増えたり寝ている間に尿漏れを起こしたりします。
溢流性尿失禁の原因には前立腺肥大症が多いといわれています。
前立腺肥大症は肥満や高血圧といった生活習慣との関連が指摘されており、食生活や運動習慣を見直すことは改善に有効です。ただし、残尿感があるからといって腹圧をかけて尿をむりやり出しきることはかえって膀胱や尿道に負担をかけてしまうためやめましょう。
改善しない場合は泌尿器科専門医がいる病院を受診しましょう。

高齢者で尿意がないのに尿漏れする症状で考えられる主な原因と対処法

高齢者でも同様に女性では腹圧性尿失禁、男性では溢流性尿失禁が多いですが、それに加えて過活動膀胱(OAB)による切迫性尿失禁(UUI)も尿漏れの原因になります。過活動膀胱は主に加齢が原因で、排尿をコントロールしている自律神経系の機能の低下によって起こります。
また、高齢者では機能性尿失禁が特徴的です。アルツハイマー型認知症など認知機能の低下をきたす病気によって尿意を認識できなかったり、トイレの場所を認識できなかったり、身体機能の低下によってトイレに間に合わなかったりすることによって、尿失禁を起こします。
高齢者の尿失禁はオムツなどで対処してしまうことも多いですが、さらに身体機能が衰えてしまいやすいため、安易なオムツの使用はお勧めしません。
高齢者の尿失禁は必ずしも専門的な治療を必要としませんが、重大な病気が隠れている可能性もあるため、一度は泌尿器科での診察を受けることをお勧めします。

20代や10代で尿意がないのに尿漏れする症状で考えられる原因と対処法

10代、20代で尿漏れがおこることはまれですが、場合によっては起こすことがあります。
女性の場合は若年であっても妊娠や肥満などで腹圧性尿失禁を起こす場合があります。通常出産後に改善しますが、しばらくたっても尿漏れが続く場合は病院を受診しましょう。
高校生など10代での尿失禁は日中か夜間かで対処法が異なります。夜間の尿失禁は小児は夜尿症と呼ばれ、ほとんどの場合は病気ではなく発達の問題といわれています。日中の尿失禁の場合は過活動膀胱や尿路感染症、まれに神経因性膀胱(脳・脊髄の病気により)がかかわっている場合があります。
若年の場合はストレスが原因となっていることも多く、ストレスの改善や適切な飲水習慣(寝る前に水を飲まないなど)を身につけましょう。
病院の受診は必要としないことが多いですが、日中も尿失禁を起こす場合や頻繁に起こす場合には泌尿器科を受診しましょう。

すぐに病院へ行くべき「尿意がないのに尿漏れ」に関する症状

ここまでは症状が起きたときの原因と対処法を紹介しました。
応急処置をして症状が落ち着いても放置してはいけない症状がいくつかあります。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。

腹部が膨れ上がっている場合や発熱がある場合は、泌尿器科へ

男性で多い前立腺肥大症は、症状が悪化すると前立腺が尿道を完全にふさいでしまい尿がまったくでない「無尿」という状態になってしまう場合があります。お腹がパンパンに張ってしまう場合には緊急性が高いため急いで病院を受診しましょう。
また、発熱を伴う場合には尿路感染を合併している可能性があるため、その場合も急いで病院を受診しましょう。

受診・予防の目安となる「尿意がないのに尿漏れ」するときのセルフチェック法

・尿の勢いが弱く時間がかかる場合

・一回の尿量が少なく残尿感がある場合

・肥満あるいは肥満気味である場合

・くしゃみや咳をしたときや笑った時に尿漏れがおこりやすい場合

・出産をきっかけに尿漏れをしやすくなった場合

・立ち上がったときや運動したときに尿漏れがおこる場合

「尿意がないのに尿漏れ」症状が特徴的な病気・疾患

ここではMedical DOC監修医が、「尿意がないのに尿漏れ」に関する症状が特徴の病気を紹介します。
どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。

腹圧性尿失禁(SUI)

腹圧性尿失禁は荷物を持ち上げたり、咳やくしゃみなどでお腹に力が入ったときに尿が漏れてしまう疾患です。中年以降の女性に多く、骨盤内臓器を支える骨盤底筋群が緩むことで膀胱頸部が落ち込むことが原因と言われています。
生活における危険因子としては肥満、便秘、飲水過多などがありそれらの改善が尿失禁の改善につながります。また、骨盤底筋を鍛えることによって膀胱頸部の落ち込みを防ぐ骨盤底筋トレーニングも効果があるといわれています。
これらのセルフケアで改善がない場合には泌尿器科や婦人科の受診をお勧めします。

溢流性失禁

溢流性尿失禁は自分で尿を出したいのに出せない場合に、尿が少しずつ漏れてしまう疾患です。尿を出したいのに出せない状態のことを排尿障害といいますが、排尿障害を起こす代表的な疾患は前立腺肥大症で、高齢の男性によくみられます。ほかにも膀胱周囲の臓器の手術後の神経障害で排尿障害を起こす場合にもみられることがあります。
前立腺肥大症は肥満や高血圧、高血糖などの生活習慣病がリスクになるといわれており、生活習慣の改善で予防が期待できますが、基本的にはなってしまった場合は薬物療法や場合によって手術が必要になります。
悪化すると腎機能障害を引き起こす場合があるので、早めに泌尿器科の受診が必要です。

「尿意がないのに尿漏れ」の正しい対処法は?

尿漏れの対処方法は、まず自分がどのタイプの尿漏れなのかを知ることが重要です。
くしゃみや咳をした場合や、重い荷物を持った場合に尿漏れが起きる場合は腹圧性尿失禁の可能性が高いです。肥満や便秘などの生活習慣の改善、骨盤底筋体操などのセルフケアをしっかりと行いましょう。
残尿感が強い場合や、尿の勢いが弱く排尿に時間がかかる場合は溢流性尿失禁の可能性があります。肥満や高血圧などの生活習慣の改善に努めましょう。
軽い尿失禁の場合は吸水ライナーなどの使用もおすすめです。女性の尿漏れの場合には「ハルンケア」などの市販薬、八味地黄丸などの漢方薬なども有効である場合があります。
いずれにせよ市販薬については軽い症状の場合の対症療法にとどめ、症状がひどい場合や自分の尿漏れがどのタイプなのか判断がつかない場合には自己診断せず、きちんと専門医を受診することが重要です。

「尿意がないのに尿漏れ」症状についてよくある質問

ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「尿意がないのに尿漏れ」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

尿意がないのに尿漏れしてしまうのは治りますか?

今村 英利 医師

原因によっては完治が難しい場合がありますが、生活習慣の改善、適切な薬物療法で症状が改善する場合も多いです。

尿意がないのに尿漏れするのは糖尿病が原因でしょうか。

今村 英利 医師

糖尿病が進行すると神経障害によって膀胱がうまく収縮しなくなり神経因性膀胱による尿意の消失、尿漏れが引き起こされることがあります。しかし糖尿病だからといって神経が原因による尿漏れとは限りませんので、まずは主治医の先生に相談してみてください。

尿意がないのに起きる女性の尿漏れはどんな治療法がありますか?

今村 英利 医師

腹圧性尿失禁の場合は、まずは肥満の改善や骨盤底筋訓練などの保存的治療が試みられますが、改善しない場合、または症状が重度の場合は手術の適応になる場合があります。

ストレスが原因で尿意がないのに尿漏れすることはありますか?

今村 英利 医師

ストレスによって自律神経が異常を起こし頻尿になったり、膀胱炎を繰り返したりすることによって膀胱が尿を貯めておく力が弱くなり尿漏れの原因になることがあります。

まとめ

一言で尿漏れといっても、男性と女性では原因や対処法が大きく異なります。尿漏れは基本的には命にかかわらないことが多いですが、QOL(生活の質)を大きく落としたり、中には重大な病気が隠れていることも多いため、症状がひどい場合には一度専門医を受診することをお勧めします。

「尿意がないのに尿漏れ」症状で考えられる病気

「尿意がないのに尿漏れ」から医師が考えられる病気は7個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

泌尿器科の病気

腹圧性尿失禁過活動膀胱前立腺肥大症

内科の病気

糖尿病

脳神経内科、脳神経外科の病気

認知症脳卒中神経因性膀胱

加齢や重症の疾患があるとみられやすい症状といえます。

「尿意がないのに尿漏れ」に似ている症状・関連する症状

「尿意がないのに尿漏れ」と関連している、似ている症状は4個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

頻尿

残尿感

尿意切迫感

多尿

「尿意がないのに尿漏れ」の症状の他にこれらの症状がある場合でも「腹圧性尿失禁」「過活動膀胱」「前立腺肥大症」「糖尿病」「認知症」「脳卒中」「神経因性膀胱」などの疾患の可能性が考えられます。症状にお困りの際には、早めに医療機関を受診しましょう。

【参考文献】
・女性下部尿路症状診療ガイドライン(日本泌尿器科学会)
・前立腺肥大症診療ガイドライン(日本泌尿器科学会)