チームの成果を引き上げる管理者と、そうでない管理者にはどういった違いがあるのでしょうか(写真:ふじよ/PIXTA)

「日本人の2倍働いて3倍稼ぐ」と言われる外資系管理職だが、どうすれば、そのような働き方ができるのか。また、AI・テクノロジー社会で生き残る管理職の条件とは何か。

このたび、ロングセラー定番書の新版『新 管理職1年目の教科書:外資系マネジャーが必ず成果を上げる36のルール』を刊行した櫻田毅氏が、「2倍働き、チームの成果を最大化」する外資系管理職に共通する、意思決定、部下育成、権限委譲などの仕事のルールについて解説する。

アイデアを出せる人と出せない人の違い

仕事を取り巻く環境が大きく変わっていく時代においては、決まったことを決まった方法で行うだけでは、価値ある商品やサービスを提供し続けていくことはできません。そこで、多くの職場で、アウトプットの質を高めたり仕事に工夫を施したりするための、アイデアを出すことが求められています。


アイデアと言っても、別に0から1を生み出さなくても、既存のもの同士を組み合わせたり、既存のものを別の目的に使ったりすることで十分新しい価値になります。

たとえば2007年に発売されたiPhoneも、ボタンの代わりにタッチパネルを配したことで新しいスタイルの電話として登場しましたが、タッチパネル自体は既に銀行のATMなどで使用されていたように、新しい技術ではありませんでした。

ただ、それでも、次々とアイデアを出して仕事に貢献している人と、なかなかアイデアを出せずに苦労している人がいます。

両者は何が違うのかを考えたときに、普段からどのような思考のスタンスで情報に接しているかが要因の一つだと考えられます。

すなわち、あなたが「評価者」なのか「学習者」なのかです。

アイデアを出そうとするときには必要な情報を入手しようとします。人の話を聞いたり本を読んだり、ネットで検索したりと、方法的には様々です。

その際、「評価者」は、その内容が「使えるか、使えないか」という視点で考えます。

評価者思考と学習者思考の違い

たとえば、部下50人の大企業の課長が、同じような立場の他企業の課長から聞いた部下育成の話を「まさにウチと同じ状況で使える」と思ったとします。しかし、公立高校の校長先生から聞いた若手職員育成の話については、「学校と民間企業は違うから使えない」と考えるでしょう。

「評価者」は、自分の置かれた状況にピッタリと当てはまる正解を手にすることを期待しています。したがって、接した情報に対して、すぐに役に立つものを「使える」と評価して取り入れ、そうでないものを「使えない」と評価して切り捨てるのです。

「使える」と思ってやってみても、うまくいかないと「やっぱり使えない」と再び切り捨てることになります。

「評価者」の思考はアイデアの源泉を自ら制限していることになります。そもそも、これだけ多様化、複雑化している職場環境において、いまの自分にピッタリと当てはまる正解を、誰かが都合よく提供してくれることなどまれだからです。

これに対して「学習者」は、たとえ校長先生の話であっても、「同じ人の育成として、応用できることがあるとすれば何だろうか?」と自分に問いかけます。どのような情報に対しても、そこに内在している本質的な意味や根底にある真理を抽出し、それを自分に適用できる形に変換しようとするのです。

もちろん、参考にできないものもあるでしょうが、「多様性を尊重しながらも、強みを引き出そうとする校長先生のアプローチは参考になる」「教育への使命感に対する職員の温度差をマネジメントする考え方はヒントになる」といった気づきが起きるかもしれません。

常に何か学べることはないかと自問する「学習者」は、「評価者」が気づかない多くの学びを手にすることができるのです。

特に、管理職などの責任ある立場にある人は、自分の思考形態がチームに大きな影響を与えます。そこで、まず自分が「学習者」としての姿勢で仕事をすること、その姿を部下に見せることが大切です。

その上で、部下に対しても、「どうすれば使えるようになるだろうか?」と問いかけながら、「学習者」の思考をチームに広げていくことが大切です。人の脳は、質問されるとそれに答えようとして動き始めるため、部下に新たな気づきが起きやすくなります。

効果的に気づきを起こす「抽象化と具体化」

「学習者」として自問しながら気づきを起こすための効果的なアプローチがあります。

戦後の大阪に、「立ち食いだが安い」というコンセプトが受けて連日大繁盛の寿司店がありました。しかし、殺到する注文に寿司職人の能力が追いつかないことが悩みの種でもありました。注文を聞いてから握ったのではさばききれないため、あらかじめ握った寿司の皿をカウンター上に積み上げておいたとのこと。

ある日、店の経営者である白石義明氏が、見学先のビール工場でベルトコンベアを目にします。次々と流れてくるビール瓶に所定の位置でビールが注入されている様子を見て、「これを何かに使えないだろうか?」と自問します。そして、開発したのが世界初の回転寿司です。

職人が握った寿司を客の席まで運ぶ時間を削減できるだけでなく、握った寿司をベルトコンベアで流して好きなものを取ってもらうという発想の転換によって、大幅な省力化に成功します。1958年に「廻る元禄寿司1号店」をオープンしたときのエピソードです。

そのとき白石義明氏の頭の中で起きたのは、「抽象化と具体化」という思考のプロセスです。

彼が見たのはビール瓶を運ぶベルトコンベアです。そこで、「寿司店とは違うから使えない」とは考えずに、ベルトコンベアの本質を「人が動くのではなく商品を動かす機能」だと抽象化します。この抽象化した本質的な機能を、あらためて「人が動くのではなく寿司を動かす」として寿司店の仕事に具体化したのです。

このように、目にしたもの、聞いた話に対して、「それは、そもそもどういうことなのか?」と、一度、本質を抽象化し、それを、あらためて自分の仕事に具体的に落とし込む思考プロセスは、「学習者」としての発見や気づきを促します。

実に多くの人が評価者の思考で仕事をしている

私たちの周りを見てみると、実に多くの人が「使えるか、使えないか」といった「評価者」の思考で仕事をしていることに気づきます。そのような人を尻目に、「学習者」としての自問の習慣を部下たちと共有することで、発想豊かなチームとして仕事の価値を高めていこうではありませんか。

参考として、評価者と学習者の思考の違いの例を以下に挙げておきます。

◎評価者(評価する)

ウチとは状況が違うので使えない。あの人だからできるので、自分には無理。この点が問題だから役に立たない。すぐに使えないので意味がない。実践的ではないから使えない。

◎学習者(自問する)

ウチとは状況が違うが、ヒントがあるとすれば何だろうか?あの人の話の中で、自分にもできることがあるとすれば何だろうか?問題点もあるが、役に立てる部分は何だろうか?すぐに使えるようにするには、どう工夫すればよいのだろうか?どうすれば実践で使えるようになるのだろうか?

(櫻田 毅 : 人材活性ビジネスコーチ)