動いたか?「特殊作戦群」 スーダン邦人救出はいかにして行われたか 民間人になりすます専門集団も
戦闘が激化するスーダンの邦人を保護するために派遣された自衛隊ですが、現地で活動するのは航空自衛隊の輸送機だけではありません。陸上自衛隊の地上部隊、さらには普段表には出てこない特殊部隊も派遣されたようです。
邦人保護の中心部隊「中央即応連隊」とは?
2023年4月に激化したスーダンにおける国軍と準軍事組織「RSF」との衝突。すでに多くの住民が犠牲となっており、自衛隊もスーダン在留邦人を安全な場所まで輸送することに成功したようです。
このスーダン在留邦人を滞りなく行うために、防衛省は輸送機部隊を統括する航空支援集団司令官を指揮官とする「在スーダン共和国邦人等輸送統合任務部隊」を編成し、航空自衛隊の輸送機3機のほかに「誘導輸送隊」という部隊を編成・派遣しています。
夜間、即応態勢をとる航空自衛隊のC-2輸送機(武若雅哉撮影)。
誘導輸送隊を構成するのは、主に陸上自衛隊の陸上総隊直轄で運用されている中央即応連隊です。
中央即応連隊は、2008(平成20)年に栃木県の宇都宮駐屯地で編成された、陸上自衛隊の中では比較的歴史の浅い部隊です。ただ、その能力は高く、国の内外におけるさまざまな緊急事態に即応できる態勢を採っており、災害派遣や対テロ攻撃などにも即座に出動できるといわれます。
また、PKOをはじめとした国際平和維持活動においては先遣隊として現地に派遣され、後続となる主力部隊を安全に受け入れられるように準備をすることも任務の一つとなっています。
さらには、在外邦人の輸送もできるように、「輸送防護車」を運用する全国で唯一の部隊でもあります。
ゆえに、所属隊員は衛生環境が良くない場所であっても、迅速に派遣・展開できるよう常に複数のワクチンを接種し、なおかつ命令を受けてから数時間以内に出発できる準備を整えています。
実際、2021年に発生したアフガニスタンの陥落に伴う邦人輸送では、中央即応連隊の隊員が航空自衛隊の輸送機に乗って現地まで派遣されています。ただ、実は中央即応連隊以外にも派遣されていた部隊があったとも。それが中央即応連隊と同じく陸上総隊の直轄部隊として運用されている「特殊作戦群」と、中央情報隊隷下の「現地情報隊」です。
「戦うわけではない」特殊部隊を派遣する理由
特殊作戦群は、陸上自衛隊唯一の本格的な特殊部隊といわれる部隊です。その詳細はシークレットですが、彼らの一部も警備任務のためアフガニスタンに派遣されていたと言われています。
一方、現地情報隊は、その名の通り現地の情報を収集するための専門部隊です。民間人になりすまし、部隊が派遣される国や都市の様子を観察し、記録・報告することが主な任務と言われていますが、こちらも詳細については明らかにされていません。
ではなぜ、こうした部隊が派遣されたといわれているのでしょうか。
邦人警護のプロフェッショナル集団である中央即応連隊(武若雅哉撮影)。
目まぐるしく変化する国際情勢の中において、周辺国や関係国からの情報は日本の安全保障に重要な役割を果たします。平素から友好関係を築いている国であれば、多くの情報を提供してもらえる算段が付きますが、そうでない国の場合は、自分たちで情報を収集する努力が求められます。そのために現地へ投入されるのが、前出したような専門部隊です。
たとえば、現地の気象状況や、周辺の建物なども重要な情報となります。これらは外部から得られるデータと組み合わせることによって、情報の精度(確度)を上げることになり、今後の部隊運用に反映させることができるため、できれば入手したい情報であったりもします。
なお、仮に自衛隊の部隊が攻撃を受けた際には、自衛隊法第84条の3(在外邦人の保護措置)や第84条の4(在外邦人の輸送)によって定義されているように、正当防衛時には武器の使用が認められています。
そのため、もし隊員や隊員の管理下で行動する避難者に危害が加わり、発砲する以外にこの危機を避けることができないと判断されれば、武器の使用の可能性もあったでしょう。とはいえ、これには憲法で禁ずる「海外での武力行使」にあたらないよう、配慮する必要もあったと考えられます。
もし万一、自衛官による正当防衛射撃が行われれば、これは戦後初の海外における実弾射撃の例となりましたが、そのような事態が起きず、何事もなくミッションが終わったことに、筆者は安堵しています。
※一部、最新情勢に修正しました(4月25日9時30分)。