多くの旅客機には、主翼の端が上に反り上がっている機構「ウイングレット」が備わっています。この機構は燃費効率を向上させるためのものですが、重量がかさむにも関わらず、なぜ燃費が良くなるのでしょうか。

重いのに5%燃費減!

 旅客機は、大小さまざまなタイプが飛び交っていますが、よく見ると多くのモデルで、主翼の翼端が上に反り上がっています。この機構は一般的に「ウイングレット」などと称されるものですが、なぜこのような形状が採用されているのでしょうか。


JALのボーイング767-300ERウイングレット装備機(松 稔生撮影)。

 JAL(日本航空)が自社メディアで紹介するところによると、翼の先端を立てただけで、燃費が5%も改善するのだとか。たとえばバンクーバーから成田まで10万ポンド(約45トン)の燃料を消費するとして、ウィングレット装着機だと5%ぶんの5000ポンド(約2.25トン)、ドラム缶に換算すれば約15本分も燃料が節約できるそうです。

 もちろん、飛行距離などにより効果の程は変わりますが(長距離のほうが効果的)、かなりの効果が期待できることは間違いないでしょう。ただ、あのパーツはそれなりに重いのです。

 ボーイング767-300ERの場合、ウイングレット部分だけで左右あわせ1500kgもあるそう。航空機にしろクルマにしろ、重量は軽ければ軽い方が、基本的に燃費も良くなるということに変わりはありません。

 にもかかわらず5%も燃費が改善するウィングレットでは、いったいどのようなことが起きているのでしょうか。カギとなるのは「翼端渦」という現象です。

「翼端渦」とはどんなもの?

「翼端渦」とは、文字通り翼の先端部分で、空気が渦を巻く現象を指します。

 飛行機は、主翼の上と下の気圧差で空中に浮く仕組みで飛んでいます。飛行中の機体は、主翼の上の気圧が低く、下が高くなっており、これにより上方へと持ち上げられる力、(揚力)が発生し、宙に浮くことができます。

 このとき、翼の付け根から先端手前までは、空気が翼の上と下へきれいに分かれて後方へと流れますが、翼の先端部分では、気圧の高い下側から上に向かって空気が引っ張られ流れてしまいます。翼は前方へと移動しているので、引っ張られる方向は斜め前方になり、こうして主翼の先端で空気の渦が尾を引くことになります。これが「翼端渦」です。

 翼端渦は飛行機の飛行にとっては不要な空気抵抗となるため、同じ速度で同じ距離を飛んだとしても、飛行機の燃料を多く消費してしまうことにつながります。単純にいえば、そうした翼端渦をおさえられれば省エネになる、というのが、ウィングレットの発想です。先端を上に向けることで、翼端の空気が主翼の上に回り込みづらくなり、結果、翼端渦の発生を低減できるというわけです。

実は「ウイングレット」系のパーツにはさまざまなカタチが?

 前掲のJALの記事によると、たとえば767にウィングレットを装着してもパイロットの操縦感覚には影響しない、それでいて効果は目に見えて現れる、としています。

 そのようなウイングレットが初めて実装された旅客機は、「ハイテクジャンボ」とも呼ばれたボーイング747-400とされています。以来、主翼先端にはウイングレットに類似した、さまざまな形状の翼端渦を抑える機構が採用されています。


ジェットスター・ジャパン機(乗りものニュース編集部撮影)。

 たとえば、もっとも売れている旅客機である「エアバスA320」では、かつて「ウイングチップ」と呼ばれる翼端を上下に伸ばす形のパーツがスタンダードとして採用されていましたが、その後「シャークレット」と呼ばれる新型の翼端パーツが導入されています。

 2タイプの主翼端をもつA320を保有するジェットスター・ジャパンによると、「シャークレット」装備機は「ウイングチップ」装備機とくらべて、燃料コストを約4%節減でき、航続距離を約185km延ばす効果があるとのことです。

※一部修正しました(4月23日20時25分)。