アスベスト問題などでブラジル沖に自沈処分された元空母「サンパウロ」。この機体で運用する予定で開発されていた航空機もまた、不遇な道を歩みました。

旧式の艦上輸送機を改造しようとした

 2022年からブラジル沖を漂っていた同国海軍の元空母「サンパウロ」。アスベスト問題などを巡り入港を拒否され、その処遇が国を揺るがす問題となっていましたが、ついに2023年2月3日、水深5000mの海底に自沈処分されました。

 しかし、この段階で同空母にまつわる懸念事項がまだ残っていました。実は同艦で運用する予定だった機体を開発が続いていたのです。機体名の名前はKC-2、同艦に載せ多様な任務に従事する予定でしたが、開発は間に合いませんでした。


KC-2の改修前の機体であるC-1A(画像:アメリカ海軍)。

 ブラジル海軍は、2010年に艦上輸送機のC-1A「トレーダー」をアメリカ海軍から8機購入しました。同機の初飛行は1952年1月19日、レシプロエンジンを2基搭載しているという、第2次世界大戦をイメージしてしまうほど古い技術で作られていたプロペラ機でした。ブラジル海軍はこの機体のエンジンをターボプロップエンジンへの換装し、電子機器の近代化などの改修を行ったうえで、KC-2として空母「サンパウロ」で使おうと考えます。

 ただ、「サンパウロ」はそこまで大きな空母ではないので、スペースは限られます。そこで、ブラジル海軍は同機に物資輸送以外の様々な任務をこなせるよう改造を施そうとしました。

「サンパウロ」自沈の数日後に計画中止

 KC-2の改造計画は、最大10人の武装した兵士を乗せた状態で2万5000フィート(約7600m)の上空から自由降下させる機能のほか、索救助活動機能、さらに「サンパウロ」の艦載機であるA-4「スカイホーク」を近代改修したAF-1に空中給油を行う設備までつけるという野心的ものとなりました。南米のメディアによると、2011年頃にはこのような計画がまとまっていとのこと。

 本格的にエンジンの換装や電子機器の刷新などの改修に動きだしたのは、2014年12月にイスラエルの軍需企業エルビット・システムズの子会社であるエルビット・システムズ・アメリカに発注したときからのようです。なお、「サンパウロ」は2012年2月に火災事故を起こし、いよいよ長期間の就役が怪しくなっていますが、まだ同艦の近代改修をブラジル海軍は諦めておらず、最短でも後15年くらいは同艦を使う予定でした。

 その後、KC-2の開発が難航していたのは確かなようです。2018年11月にようやく最初のエンジン始動実験を成功させました。しかし、これにさかのぼること2年近く前の2017年2月に「サンパウロ」は近代改修を断念し、既に退役しています。それでも、KC-2はヘリ空母やほかの海軍機の支援用として開発自体は続けられていたようです。


KC-2として改修された後のコックピットのイメージ。液晶パネルなどもあり近代的(画像:ブラジル海軍)。

 2019年9月にはプロトタイプの初飛行が可能になる予定でしたが、これも難航。そうしている間に新型コロナウイルスの影響で完全に開発計画が停止してしまうという母艦譲りの不運にも見舞われ、「サンパウロ」が沈んだ7日後の2023年2月10日、政府の命令により正式に計画は凍結となりました。