ピンタレスト がパブリッシャーに出資して短尺動画を制作:「ユーザーにとって動画が重要であることがよくわかる」
短尺動画のゴールドラッシュに乗り遅れたくないピンタレスト(Pinterest)は、金に糸目をつけずパブリッシャーに予算を投入しようと意欲的である。コンデナスト(Condé Nast)と交わされたばかりの取引を見れば、それがよくわかる。
パブリッシャー系コンテンツ獲得の動きは、テイストメイド(Tastemade)とのオリジナルコンテンツの提携で始まり、ナディーン・ジルストラ氏がピンタレストのプログラミング・オリジナルコンテンツ部門リーダーとして着任すると、その動きが本格的になった。実際、2023年1月のコンデナストとのコンテンツ提携では、同氏が中心的役割を果たしている。
コンデナストは、同社を代表するブランドであるヴォーグ(Vouge)とアーキテクチュラル・ダイジェスト(Architectural Digest)で160のピンタレスト専用動画を制作することに同意した。ピンタレストで視聴できるこのコンテンツは、ファッション月間、ウェディングシーズン、夏休み、新学期など、季節やカルチャーイベントの柱となるものを扱うことになる。なかには購入を促すショッパブル動画も用意される。なお、ピンタレストとコンデナストの合意に関しては、具体的な金額は明らかにされていない。
ピンタレストは支払いがどの程度の規模なのか明らかにしていないが、コンテンツの取引は決して安くない。たとえばFacebookはニュースフィードに使われるコンテンツの取引で、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)に1000万ドル(約13億円)を支払っている。
「コンデナストのコンテンツは積極的に、ショッピングに取り組んでいる」とジルストラ氏は話す。
このコンテンツなら採算が取れるとピンタレストは確信しているようだ。コンテンツが優れていると、プラットフォームでの滞在時間が長くなり、この傾向が強まれば、ピンタレストのようなプラットフォームの場合、収益増加にもつながる。
これまでのところ、計画はうまく進んでいる。最新の四半期決算報告書によると、ピンタレストの動画供給は前四半期比で30%上昇しているが、具体的な数字は提示されていない。
同様に、広告費も上昇している。ピンタレストの2022年の収益は、第4四半期を見ると、30%以上が動画の広告・ショッピングによる。また年間収益のうちSNSが28億ドル(約3640億円)を占め、そのうち8億7700万ドル(約1040億円)が第4四半期の収益である。
しかし、「当社ピンタレストは、ユーザーを独占し、可能な限り長く留まらせようとするウォールドガーデンではない」とジルストラ氏はいう。「ピンタレストを利用するユーザーがプラットフォーム以外でも成長できるように支援しようと取り組んでいる。私たちの仕事は、ユーザーが自分の思いどおりの人生をクリエイトしたくなるように、インスピレーションの部分でサポートをすることだ。だから、ユーザーにインスピレーションを与えるものを見つけやすくしなければならない」。
プラットフォームとパブリッシャーの関係が移ろいやすいものであることを考えると、プラットフォームのこの手の発言を聞くたびに、どうしてもうがった見方をしてしまう。しかしピンタレストは、他社としっかり差別化ができているという。ほかのプラットフォームがコンテンツクリエイターやメディアオーナーとの提携で、これまで課してきたような負担は一切ないと確信しているのだ。
ユーザーには最終的に、コンデナストのブランドに戻ってもらいたいとピンタレストは話す。
ジルストラ氏は「購入のきっかけがピンタレストであったとしても、最終的にはピンタレストではなく、パブリッシャーのサイトで購入されることになる」と話す。また、「つまり、ピナー(Pinner、ピンタレストのユーザー)が何を探しているのか、私たちピンタレストが知っているからこそ、ピンタレストそのものがピナーのインスピレーションの源となる」と続け、「そのインスピレーションを形にするために、ピンタレストはピナーとパブリッシャーをつなげられる。だからこそ、我々はパートナーであるパブリッシャーにとって価値があるのだ」と説いた。
ピンタレストが2023年に、ブランドやクリエイターだけでなく、パブリッシャーとの動画制作の提携計画を増やしているのも合点がいく。
「ピンタレストのコミュニティを見ると、ユーザーにとって動画が重要であることがよくわかる」とジルストラ氏は述べる。「ピンタレストは別のプラットフォームに変わろうとしているわけではない。単に、ユーザーがピンタレストに求めるものを尊重し、投資したコンテンツを利用しているにすぎない」。
こうした戦略ならどの企業でも効果を出せそうだが、その場合、リスクが高くなればすぐに方向転換できる体制が必要になる。資金を惜しげもなく使い、ビジネスモデルもビジネスの方向性も全体的に改善しようとしている企業ならとくにそうだ。そしてピンタレストは、まさにそのパターンなのである。
最新の決算報告書によると、多額の支出が原因で2022年第4四半期に利益が90%激減している。パブリッシャーとの契約もこうした支出の一部だが、パブリッシャーが上顧客(次のプロジェクトのインスピレーションを求めて、必ずピンタレストに戻ってくるロイヤルユーザー)の維持に役立つコンテンツを制作するのであれば、たとえ支出額が高くても、上層部は納得できる。そのコンテンツが、ファッションや食べ物のような旬のあるものでも、誕生日やウェディングのような節目になるものでも、かまわない。
今回の動画への方向転換でビジネスは上向きであるが、プラットフォーム各社にはユーザー定着にコストをかけ続けることに対して二の足を踏む傾向が見られる。その一方で、支出の増加は止まらず、主要プラットフォームはどこも、先を争って収益性のある短尺動画に進出している。
デジタルメディアエージェンシーのハニーコム・メディア(Honeycomb Media)でエグゼクティブディレクターを務めるカット・ダンカン氏の見解によると、収益性で考えた場合、現時点のピンタレストは下り坂かもしれないが、パブリッシャーを支援し、出資を続けるという決断は、長期的にはよい決断であるという。
同氏も指摘しているが、ピンタレストの検索上で目にするパブリッシャーの大半が、ピンタレストを成長させているのであり、ピンタレストがパブリッシャーを成長させているわけではない。
「多くのパブリッシャーが、『このまま利用したところで(時間もお金も)投資する価値はない』という理由で、ピンタレストから離れていった。でも、私たちはピンタレストに残ることにした。というのも、ピンタレストがいつも私たちのロイヤルティに応えてくれてきたからだ。ショートやロングピンなど、明らかにピンタレストが優先しそうなコンテンツをアップしながら、ロイヤルティを示して良好な関係を続けていれば、ピンタレストは必ずそのロイヤルティに応えてくれるだろう」とダンカン氏は話す。
[原文:Pinterest jockeys for position in platforms arms race for short-form video]
Krystal Scanlon(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平) yh
パブリッシャー系コンテンツ獲得の動きは、テイストメイド(Tastemade)とのオリジナルコンテンツの提携で始まり、ナディーン・ジルストラ氏がピンタレストのプログラミング・オリジナルコンテンツ部門リーダーとして着任すると、その動きが本格的になった。実際、2023年1月のコンデナストとのコンテンツ提携では、同氏が中心的役割を果たしている。
コンテンツが収益増につながる
ピンタレストは支払いがどの程度の規模なのか明らかにしていないが、コンテンツの取引は決して安くない。たとえばFacebookはニュースフィードに使われるコンテンツの取引で、ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)に1000万ドル(約13億円)を支払っている。
「コンデナストのコンテンツは積極的に、ショッピングに取り組んでいる」とジルストラ氏は話す。
このコンテンツなら採算が取れるとピンタレストは確信しているようだ。コンテンツが優れていると、プラットフォームでの滞在時間が長くなり、この傾向が強まれば、ピンタレストのようなプラットフォームの場合、収益増加にもつながる。
これまでのところ、計画はうまく進んでいる。最新の四半期決算報告書によると、ピンタレストの動画供給は前四半期比で30%上昇しているが、具体的な数字は提示されていない。
同様に、広告費も上昇している。ピンタレストの2022年の収益は、第4四半期を見ると、30%以上が動画の広告・ショッピングによる。また年間収益のうちSNSが28億ドル(約3640億円)を占め、そのうち8億7700万ドル(約1040億円)が第4四半期の収益である。
しかし、「当社ピンタレストは、ユーザーを独占し、可能な限り長く留まらせようとするウォールドガーデンではない」とジルストラ氏はいう。「ピンタレストを利用するユーザーがプラットフォーム以外でも成長できるように支援しようと取り組んでいる。私たちの仕事は、ユーザーが自分の思いどおりの人生をクリエイトしたくなるように、インスピレーションの部分でサポートをすることだ。だから、ユーザーにインスピレーションを与えるものを見つけやすくしなければならない」。
ユーザーが求めるものを提供する
プラットフォームとパブリッシャーの関係が移ろいやすいものであることを考えると、プラットフォームのこの手の発言を聞くたびに、どうしてもうがった見方をしてしまう。しかしピンタレストは、他社としっかり差別化ができているという。ほかのプラットフォームがコンテンツクリエイターやメディアオーナーとの提携で、これまで課してきたような負担は一切ないと確信しているのだ。
ユーザーには最終的に、コンデナストのブランドに戻ってもらいたいとピンタレストは話す。
ジルストラ氏は「購入のきっかけがピンタレストであったとしても、最終的にはピンタレストではなく、パブリッシャーのサイトで購入されることになる」と話す。また、「つまり、ピナー(Pinner、ピンタレストのユーザー)が何を探しているのか、私たちピンタレストが知っているからこそ、ピンタレストそのものがピナーのインスピレーションの源となる」と続け、「そのインスピレーションを形にするために、ピンタレストはピナーとパブリッシャーをつなげられる。だからこそ、我々はパートナーであるパブリッシャーにとって価値があるのだ」と説いた。
ピンタレストが2023年に、ブランドやクリエイターだけでなく、パブリッシャーとの動画制作の提携計画を増やしているのも合点がいく。
「ピンタレストのコミュニティを見ると、ユーザーにとって動画が重要であることがよくわかる」とジルストラ氏は述べる。「ピンタレストは別のプラットフォームに変わろうとしているわけではない。単に、ユーザーがピンタレストに求めるものを尊重し、投資したコンテンツを利用しているにすぎない」。
パブリッシャーに出資する意味
こうした戦略ならどの企業でも効果を出せそうだが、その場合、リスクが高くなればすぐに方向転換できる体制が必要になる。資金を惜しげもなく使い、ビジネスモデルもビジネスの方向性も全体的に改善しようとしている企業ならとくにそうだ。そしてピンタレストは、まさにそのパターンなのである。
最新の決算報告書によると、多額の支出が原因で2022年第4四半期に利益が90%激減している。パブリッシャーとの契約もこうした支出の一部だが、パブリッシャーが上顧客(次のプロジェクトのインスピレーションを求めて、必ずピンタレストに戻ってくるロイヤルユーザー)の維持に役立つコンテンツを制作するのであれば、たとえ支出額が高くても、上層部は納得できる。そのコンテンツが、ファッションや食べ物のような旬のあるものでも、誕生日やウェディングのような節目になるものでも、かまわない。
今回の動画への方向転換でビジネスは上向きであるが、プラットフォーム各社にはユーザー定着にコストをかけ続けることに対して二の足を踏む傾向が見られる。その一方で、支出の増加は止まらず、主要プラットフォームはどこも、先を争って収益性のある短尺動画に進出している。
デジタルメディアエージェンシーのハニーコム・メディア(Honeycomb Media)でエグゼクティブディレクターを務めるカット・ダンカン氏の見解によると、収益性で考えた場合、現時点のピンタレストは下り坂かもしれないが、パブリッシャーを支援し、出資を続けるという決断は、長期的にはよい決断であるという。
同氏も指摘しているが、ピンタレストの検索上で目にするパブリッシャーの大半が、ピンタレストを成長させているのであり、ピンタレストがパブリッシャーを成長させているわけではない。
「多くのパブリッシャーが、『このまま利用したところで(時間もお金も)投資する価値はない』という理由で、ピンタレストから離れていった。でも、私たちはピンタレストに残ることにした。というのも、ピンタレストがいつも私たちのロイヤルティに応えてくれてきたからだ。ショートやロングピンなど、明らかにピンタレストが優先しそうなコンテンツをアップしながら、ロイヤルティを示して良好な関係を続けていれば、ピンタレストは必ずそのロイヤルティに応えてくれるだろう」とダンカン氏は話す。
[原文:Pinterest jockeys for position in platforms arms race for short-form video]
Krystal Scanlon(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平) yh