●若年層の個人視聴率を得る上で重要なテーマ

テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第262回は、11日に放送されたフジテレビ系バラエティ番組『新しいカギ』(19:00〜)をピックアップする。

今回のメインは「学校かくれんぼ」の第3弾。この企画は、昨年11月12日と今年1月14日に放送され、学校で行われるタレントvs学生のバトルが話題を集めた。番組全体ではなく、若年層をつかむ上で重要な「学校かくれんぼ」に絞って掘り下げていきたい。

『新しいカギ』に出演する(左から)ハナコ、チョコレートプラネット、霜降り明星

○■すでに4,000超の応募がある人気企画

番組は「新しいカギvs全校生徒」のテロップに続いて、長田庄平の「この学校内にこの6人が隠れる。全員を見つけることができたら100万円だ!」という力強い言葉からスタート。

続いて、過去2回の「学校かくれんぼ」を振り返るダイジェスト映像が始まった。初戦の「vsさいたま私立大宮北高校」では、霜降り明星の2人が逃げ切って新しいカギチームが勝利。しかし、2戦目の「vs千葉県立船橋東高校」では、「前回以上に美術スタッフが超本気で挑んだ」と掲げながら、わずか2分50秒で全滅する惨敗に終わった。

ダイジェストの目的は、「まだ見たことがない人にも企画の大枠を理解してもらう」という意味合いだろう。しかし、“完勝”と“完敗”という対照的な結果を並べたことで、「今回は隠れ方の難易度をどう調整するか」という裏テーマが浮かび上がった。

ここで、「番組ホームページでの募集に4,000校を超える応募がある」ことを紹介。学生の間でムーブメントになり始めている様子をうかがわせたが、だからこそ月1ペースでの放送が適切に見える。

今回の舞台は、都内唯一の芸術高校である東京都立総合芸術高校。応募者の舞台表現科3年・堤さんにウソ取材をしているとメンバーが登場……という定番の流れだったが、やはり一般人相手のときはオーソドックスなドッキリのほうが驚きは伝わりやすい。

堤さんは「3年間、入学式や修学旅行などの学校行事がコロナ禍で中止」「芸術の授業でも感染対策による表現の制約が多かった」「最後の思い出を作りたい」などの応募理由を語った。「コロナ禍に翻ろうされた学生の救済」は、民放各局にとって若年層の個人視聴率を得る上で重要なテーマであり、この企画が推されている理由の1つだろう。

次に全校集会をしている生徒たちの姿が映され、平林校長が「この学校乗っ取られました」と語ると、「新しいカギ、参上」というテロップが画面中央に表示。メンバーたちが険しい表情で颯爽と現れ、対決ムードを醸し出した。続いて、長田が「ワシが新日本かくれんぼ協会 会長の隠密マサルじゃ!」と宣戦布告すると、生徒たちは大歓声をあげる。

さらに、「6人全員を見つけ出すことができたら、君たち全員に番組特製図書カードを100万円分プレゼントしよう」「思い出を作りたいか!? 楽しみたいか!? かくれんぼしたいか!?」と、生徒たちを立て続けにあおって対決ムードを盛り上げた。

生徒たちにとっては、番組特製図書カードも欲しいが、それ以上に「思い出を作りたい」「お祭りムードを楽しみたい」という気持ちのほうが強いのではないか。これほど楽しそうな笑顔の高校生たちを見ていると、年上の世代も元気になれるだろう。

○■4人が生き残り「泣きの5分」追加

CMを挟んで約3分間のコント「新海まこ」を放送し、いよいよ「学校かくれんぼ」の本編がスタート。敷地約20,722平方メートルの学校内に隠れた6人を全校生徒500人で見つけられるのか。

まず映し出されたのは、新しいカギチームの作戦会議。長田が「(前回みたいなことがあったら)本当に(企画は)終了です。一番美術が気合い入ってる」と話すと、スタッフ3人が苦笑いで頭を下げ、「前回の戦いで大恥をかいたフジテレビ美術スタッフ」のテロップが表示された。スタッフイジりは今や時代錯誤の演出とされがちだが、美術のウエイトが大きいこの企画ではもっとフィーチャーしていいかもしれない。

粗品は鏡張りの扉裏にある隙間に壁を作って隠れ、岡部大は何もない壁に同じ柱を作って隠れ、菊田竜大は理科室の棚の上にフタを作って隠れ、せいやは天井から吊るされたダクトを増設して隠れ、秋山寛貴は前回に続いてピアノに隠れ、松尾駿はパンフレット置き場で顔出しして隠れた。毎回顔を出して見つけられる前提の松尾を除けば、隠れ方のレベルは格段に上がった感がある。

生徒たちは校内を知り尽くしている上に、「2回放送したことで隠れ方の傾向がバレている」という不安があるにしても、「これはさすがに逃げ切るのでは」と予想した視聴者も多かったのではないか。

再びCMを挟んで約2分のコント「昭さんと和さん」が終わったあと、いよいよ本番がスタート。生徒たちが一斉に走り出すと、画面右下に残り時間がカウントダウンされ、視聴者もハラハラドキドキの臨場感が味わえる。

まず、開始3分50秒で松尾が見つかってしまい脱落。「見つけた生徒たちは写真撮り放題で、メンバーは辱めを受ける」という演出に笑いを誘われる。さらに、見つけてうれしそうな生徒へのインタビューも。シンプルな演出だが、アトラクション型バラエティの醍醐味を感じられた。

続いて6分37秒で秋山が発見される。発見した生徒は「前回も隠れていたから」と50台ものピアノを片っ端から調べていたと語り、番組視聴者ならではのカンが奏功したようだ。しかし、その後は残り4人を見つけられないまま10分間が終了しそうになると、「泣きの5分追加」が認められた。

この追加は想定内のことだろう。もし残り4人ではなく、残り1人だったら追加せずに終了していたのか。それとも同じ5分追加だったのか。新しいカギチームが強いほうが企画そのものが盛り上がるほか、負けると100万円の出費もあるだけに、現場の判断が難しそうだ。

●もっともっと学生たちを主役に

11分16秒で岡部が見つかってしまい、新しいカギチームは残り3人に。残り時間3分となって「ここから学生たちの怒涛の反撃が始まる。カギチーム逃げ切れるか?」というあおりのナレーションが聞こえてきたが、ほとんど見せ場はないまま終了してしまった。

すぐに“答え合わせタイム”が始まり、生徒たちは長田のアナウンスで、それぞれの隠れ場所に集合。メンバーが登場するたびに歓声をあげ、手を振り、写真を撮っていた。見つけられなかった悔しさより、ゲームの楽しさや芸人たちに会えたうれしさのほうが勝っていたのだろう。

話を再び隠れ方の難易度に戻すと、5分追加しても3人が生き残り、発見に迫る惜しいシーンすら少なかったことを見ると、今回はレベルを上げすぎたのかもしれない。しかし、そんなさじ加減の難しさは「やってみなければ分からない」という未知数かつスケールの大きい企画に挑んでいるから生まれたものにほかならない。そのドキュメント性やリアリティが魅力の企画だけに、バランスを取り過ぎる必要性はないだろう。

ただ、前回のようにすぐ見つかってしまうと、放送の尺を短くせざるを得ないだけに、二度と「完敗」だけは避けたいのではないか。完勝、完敗、完勝と続いた第4弾で制作サイドがどれくらいの難易度を用意して挑むのか、逆に楽しみが増えた。

本番が始まってから、残り30秒となってCMを挟んだ以外は、ほぼリアルタイムで放送。「逃げ切れるか、見つかってしまうかのライブ感を楽しめる」「10分間・15分間という短い時間で魅了する」という2つの意味で、若年層の嗜好に合う稀有な企画と言っていいかもしれない。

最後に、長田が再びホールに集まった生徒たちの前で、「またどこかで。『新しいカギ』見てね〜!」と叫んで「学校かくれんぼ」は終了。ラストカットは全校生徒との楽しげな写真撮影だった。

「ゲーム終了後のこのくだりや生徒たちの体験談なども見せてほしい」と感じたのは私だけだろうか。「学校かくれんぼ」は、もっともっと生徒たちを主役にして彼らの笑顔を散りばめるような演出でいいのではないか。そのほうがコントとの落差があるいい番組になるのではないか。まだ発展途上の段階だけに、今後の展開を注視していきたい。

○■次の“贔屓”は――『R-1』に弾みをつけられるか『陣内バカリの最強ピンネタ20連発SP』

陣内智則(左)とバカリズム

今週後半放送の番組からピックアップする次回の“贔屓”は、19日に放送されるカンテレ・フジテレビ系バラエティ特番『陣内バカリの最強ピンネタ20連発SP』(16:05〜)。

陣内智則とバカリズムがMCを務めるピン芸人特番の第4弾。これまで2021年9月、2022年2月、同10月の3回にわたって放送され、前回から2人の冠番組となっていた。

『M-1グランプリ2022』王者・ウエストランドの「R-1は夢がない」というネタが話題を集める中、3月4日放送の『R-1グランプリ2023』を前にピン芸人の魅力を伝え、注目度を上げられるか。芸人のみならず制作サイドにとっても意地の見せどころだ。

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら