低学歴では高収入は望めないのだろうか。経営アドバイザーの菅原健一さんは「学歴がないからといって、諦める必要はない。大学やビジネススクールに行なくても、キャリアを築くシンプルな方法がある」という――。

※本稿は、菅原健一『小さく分けて考える 「悩む時間」と「無駄な頑張り」を80%減らす分解思考』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■生涯年収の平均値は高学歴のほうが高くなる

「学歴は収入に関係する」

世の中では、そんな認識を持っている方も多いように思います。

確かに労働政策研究・研修機構などのデータを見れば、学歴によって生涯年収の平均値は中卒、高卒、大学・大学院卒という順に高くなっていきます「ユースフル労働統計2019」

生涯賃金(60 歳まで(注)退職金を含めない、2017年)

だけど、「学歴がないから」といって、諦めることはありません。

なぜなら、僕は、ある「考え方」を身につけたことで、そんな壁を突破できたからです。

確かに20代は大変でした。

最初に入った会社は、まったくのブラック企業。大変過ぎて退職し、ハローワークで仕事を探しましたがまったく見つかりません。「高卒で、運転免許すら持っていないようじゃ、就職なんて無理」。そんな空気が漂い、絶望しかけた時期もあったのです。

■転機となったサーバーダウンの経験

そんな僕が変わるきっかけになったのは、ある携帯電話向けのサービスを制作する会社に入社したことです。

当時は携帯電話が普及し始めたものの、まだサービスが少なかった時代で、僕たちのサービスには利用者が殺到しました。

そういうと喜ばしいことのように聞こえるかもしれませんが、今のAWS(Amazon Web Services)のような仮想サーバーがない時代、急にアクセスが殺到すれば、サーバーがダウンして、サービスそのものがストップしてしまいます。

実際にサービスを開始したのはいいけれど、翌日から急に人気が出て動かなくなり、24数時間以内に復旧させないと相当な損失が出るといった、危険な状況にしばしば直面していました。

そんな時、どう対応していたかと言うと、物理的にサーバーを増やすまでの1カ月くらいの期間、サービスをストップさせるわけにもいかないので、エンジニアは自分たちで処理が10倍速くなるプログラムを書くしかありません。

しかし、サーバーがダウンするのはいくつかの原因があり、やみくもにプログラムを書いても時間がかかるだけで、24数時間以内に復旧することができない可能性もあります。そのため、いかに早く原因を特定するかが、死活問題になってくるわけです。

■「問題を切り分けて考える」で難局を乗り越えた

その時僕が行なっていたのは、「問題を切り分ける」ということです。動かなくなったサービスを動かすために、すべての要素を分解して考えるようにしていました。

写真=iStock.com/courtneyk
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まず、「アクセスが増えると何でサーバーが落ちるのか?」を考えると、「ネットワークの問題」と「プログラムの問題」の二つに分けられます(通信が遅いのか、プログラムが重いのかということです)。

そのうえで、もしネットワークに問題がなければ、どのプログラムに問題があるのか、もしくは、プログラムを使わなくてもいいところに無駄にプログラムを使ったせいで遅くなったのかなど、考えられる原因を分けていきます。

このように、要素をすべて分解し、一つひとつ問題がないかを確認していきながら、直すべき箇所を見つけ、そこに全員の力を集決して直していきます。

もちろん思いついたやり方を一つずつ試していってもよいのですが、それだと時間がかかりますし、失敗したら取り返しがつかなくなります。

毎日がトラブル続きで、要素を切り分けて問題があるところを発見して直す。そんな日常が3年程度は続いたと思います。そのせいで、気がつけば「分けて『問題』を見つける」という思考が習慣になっていました。

■売上を20倍にしたアイデア

「問題を切り分ける」ことで、「一番大事な問題」を見つけ、解決のための手を打つ。

この「思考」は、その後独立したときにも、役に立ちました。

ある時、僕は数億円だった売上を数百億円にまで成長させる必要に迫られたことがあります。数億円の企業しか経営したことがない人が、いきなり数百億円を目指す。普通に考えて、とても無理そうですし、これといったアイデアも浮かんできません。

そこで、また問題を分けて考えてみることにしました。

まず、「そもそも今売上をどう作っているか」を考えると、40社ほどのクライアントのデジタルマーケティングの担当の方PR担当の方を相手それぞれに平均で1カ月100万円の広告費を売り上げており、それでこれが1年で約5億円という状態でした。

式にすると、次のようになります。

100万円×40社×12カ月

このままの方法で100億円売り上げるには、100万円を1万1000件を受注しなくてはなりません。社員は増えたものの、当時受注率が5%くらいでしたので20回の提案で1回受注できるとしても、20万回提案しなくてはなりません。それは現実的に無理となるためここは数でなく、単価を上げる必要があると考えられます。

■「お客さんを分けて」考えてみると…

100万円以上の取引をしている人。そんなに高い値段で仕事をしている人はどんな職業かと考えた時に、コンサルタントがありました。これをまねて1000万円と1億円の広告商品をつくり、実際に取り組んでみましたが、どちらもさっぱり売れません。

ただ、売れないとはわかったものの、もはや値段を下げるという策をとるわけにはいきません。値上げしか逃げ道がないので、「いっそ10億円でやってみたらどうなるだろう」と考えました。

1000万円の広告と1億円の広告が難しいとき、少し増やして2000万円や2億円にしてみる方法もあると思いますが、先ほど説明したように、売りに行く先が変わらなければ、結果は同じです。

そこで思い切って、さらにその上の経営者に提案してみようと考えたのです。要は「お客さんを分けて」考えてみたのです。

写真=iStock.com/Farknot_Architect
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Farknot_Architect

「お宅の会社はデジタル広告をちゃんとやっていますか?」
「代理店に丸投げすると、自社にデータが溜まっていかないし、ノウハウも手にできないですよね? データを社内で持つためには、デジタルの発注は一元化しないと駄目なんです」

宣伝部長やCMOはこういう提案を求めていなかったのですが、実際に提案してみると経営者には刺さることがわかりました。結果的に、100万円の案件のときは5%の受注率だったのが、10億円の案件では受注率30%になり、売上100億円の目標を無事達成できたのです。

■ムダな努力をなくし最短で結果を出せる

仕事でも人生でも、うまくいく人は、まず、大事なことがわかっています。大事なことから考えて必要なタスクを明らかにし、必要最低限の努力で、十分以上の結果を導き出しています。

菅原健一『小さく分けて考える 「悩む時間」と「無駄な頑張り」を80%減らす分解思考』(SBクリエイティブ)

うまくいく人もうまくいかない人も、外から見れば同じようにタスクを処理していることには変わりないですが、最短で目標を達成するタスクをこなしているのと、ただ惰性で目の前のタスクをこなしているのでは、行きつく先が違うのです。

目指すべきなのは、

・本当に大切なこと一つが、
・適切に分解され、
・誰が何をやればいいか
・今日、明日、1カ月後、1年後、何をしてどうなっていったらいいか

が明確になっている状態です。

そのためにも「課題」を分けて、やるべきことを決めていくことが大事です。

いわゆるロジカルシンキングのような「結果を出すための思考法」は学ぶのがとても難しく、普通なら大学を卒業し、さらにビジネススクールに行ってMBAをとったり、コンサルティング会社で働いて実務で覚えたりしなければ得られないものでした。

■大学やビジネススクールに通わなくても「結果を出せる人」になれる

だけど、簡単なコツさえつかめば、誰でも仕事で使えるようになるものなのです。僕は、この「考え方」に関する本を出しましたが、それも、フレームワークやMECEなど難しい用語や考え方を使わなくても、誰でも物事の本質を捉えて結果を出せるようにしたかったのです。

経営やマーケティングといった専門科目を大学やビジネススクールに行って学ばなくても、結果を出せる人を増やし、ひいては格差社会を止めたいと思っています。

シングルマザーの貧しい家で育ち、大学にも行けずお金も資格も免許も何もなかった僕が、ある時手に入れた「考え方」によって結果を出せるようになりました。

「考え方」一つで、誰でも変われるのです。

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菅原 健一(すがわら・けんいち)
Moonshot代表取締役CEO、経営アドバイザー
企業の10倍成長のためのアドバイザー。過去に取締役CMOで参画した企業をKDDI子会社へ売却しそのまま経営継続し売り上げを数百億規模へ成長。スマートニュースを経て現職。著書に『小さく分けて考える「悩む時間」と「無駄な頑張り」を80%減らす分解思考』(SBクリエイティブ)がある。
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(Moonshot代表取締役CEO、経営アドバイザー 菅原 健一)