夫に浮気の理由を問い詰めると、唖然とする驚きの言い訳が。夫婦間にできた溝の正体
人生のステージが変わるたび、女の友情はカタチを変える。
そしてドラマの舞台も…。夜の港区から、昼の港区に変わるのだ。
20代は深夜の西麻布で、30代は昼の麻布で。女たちは時に嫉妬し、時に優越感に浸る。
これは大人になった女たちが港区で繰り広げる、デイゲーム。
◆これまでのあらすじ
優子のために、優子の夫・平蔵の浮気相手リリカを呼び出すことにしたサトミ。早速、ランチに誘うメッセージを送ったのだが…。
大人の話し合い
『リリカ：お誘いありがとう♡でも、ちょっと最近体調がよくなくて＞_＜また誘ってください』
平蔵の浮気相手であるリリカを食事に誘ったのだが、彼女は乗ってこなかった。
― 私と優子は友達だし、そりゃ警戒するか。
私はリリカから来ていたメッセージをもう一度見直し、スマホをエプロンのポケットに入れて、夕食作りを再開した。
息子用に薄味に作ったミートソースを小さいお鍋に移し、残った大人用の方は味見しながら、スパイスと塩を足す。
「リリカだって、そこまで鈍感ではないのね…」
私は、キッチンで白ワインをグラスに注ぎながらつぶやいた。
体調不良というのは、きっと嘘だ。なぜなら、彼女のInstagramのストーリーズには連日美味しそうな食事が写っていたから。
離婚が決まってヤケになっているのか、それとも早速他の男とデートをしているのか…真相はわからない。
とにかく、私と優子がつながっているから会えないのだろう。
― そうだ。それなら…。
私は、鍋にたっぷりの水を入れてコンロの上に置くと、再びスマホを手にして文字を打ち込んだ。
『サトミ：優子も呼んでるんだけど、それでも来られない？』
しばらくすると、返事が届いた。
『リリカ：わかりました。そういうことでしたら、伺います』
リリカからの返事を見て、私はつい心の中で嘲笑してしまった。いくら最低なことをした女でも、自分に非があることは理解しているのだと。
【登場人物】7年ぶりに再会した32歳女たち
「サトミ、ありがとう。ここまでしてもらって」
私が買ったピンクのワンピースを着て、優子が言った。
彼女の腕には、平蔵から買ってもらったというヴァン クリーフ＆アーペルの腕時計が上品に輝いている。
私は白金台にあるレストランに、リリカを呼び出した。この場所は、リリカの結婚式の後に3人で来た場所だ。
あの日と同じように、私の隣には優子と菜々緒がいる。
しかし、決定的に違うのはリリカに対する私たちの感情だろう。
「はぁ〜。遅れるなんて、どういうつもりよ」
菜々緒は早くもイライラし始めていた。その気持ちは私も同じだった。
「あ、来たみたい」
私が言うと、優子は一瞬ビクッと肩を震わせた。
「すみません、遅れました」
待ち合わせ時間の15分後に現れたリリカは、安価なことがわかる毛羽立ったグレーのニットを着ている。
左手の薬指にリングはなく、胸元に小さなダイヤのネックレスがあるだけだ。
その装いは、彼女が憧れていたであろう“セレブ妻”には程遠い。
― あ〜あ。せっかくお金持ちの人と結婚できたのにね。
つい心の中で毒づく。
私たちは3人ともそれなりのブランドの服に、靴やバッグも高価なものを合わせてきた。
それと比べると、リリカはかなり見劣りする。
それに気づいているのか、彼女は私たちと目を合わせることなく、席に腰を下ろした。
「武装してきたのは正解だったね」
菜々緒が耳打ちしたので、私は返事をする代わりにニコッと笑ってみせた。
リリカは、店員に紅茶を注文し、一呼吸するとまっすぐに優子を見て言う。
「優子さん、平蔵さんと別れてくれませんか？」
― は？
第一声でそんなことを言ってくると思わず、私はフリーズしてしまった。
横を見ると、案の定、優子も驚いている。
そもそも私たちは、リリカは浮気した事実を認めないと思っていた。
「ちょっと、あんた！まずは謝りなさいよ。自分が何をしたかわかってるの？」
菜々緒がピシャリと言い放つと、リリカは渋々頭を下げた。
「…ごめんなさい」
私も菜々緒も呆れて何も言えず、優子が話し始めるのを待った。
「私の夫には、離婚する意思はないです。そして残念ながら、私にもないの」
しばらくして、優子は驚くくらい穏やかな口調で言った。
「どうして？私と平蔵さん、付き合ってたんですよ。あなたに内緒で。そんな人とこの先、一緒に暮らせるんですか？」
リリカの方はなぜか、泣きそうになっていた。
優子は、うろたえることなく言う。
「うちには子どもがいるし、夫婦ってそんな簡単なものじゃないの。あなたにはわからないかもね」
「そんな…うちはすぐに崩壊したのに」
リリカは泣き崩れた。
きっと彼女は、恋愛結婚がしたかったのだろう。
しかし、自身が派遣社員だということや、SNSで見え過ぎてしまう他人の生活に焦らされ、妥協婚を選んでしまった。
経済力がある男性と一緒になれば、幸せになれると信じていたのだろう。
豪華な結婚式には、そんなリリカの気持ちが反映されていた。
しかし、彼女は平蔵に恋をしてしまった。
平蔵が独身だったならば、まだ望みはあったかもしれない。でも彼は既婚者だ。
平蔵には優子や娘がいるし、家庭を壊す気はない。リリカのことは所詮、火遊びに過ぎなかったからだ。
そう思うと、ほんの少しだけリリカのことが気の毒に思う。もちろん悪いのは平蔵とリリカなのだが。
「あなたの元旦那さんには、平蔵に慰謝料を請求する権利があります。そこは弁護士を通してね。そちらが請求するのならば、私もあなたに同じようにするから」
優子は淡々と話した。
そして、テーブル会計を済ませると、優子は最後に笑顔で言った。
「それと、ただの報告になるけど…私、妊娠してるの」
「…！！？」
「え？」
「そうなの？」
あまりに突然で予想していなかった告白に、私と菜々緒も驚く。
「なによ…奥さんとしっかり仲がいいんじゃない」
リリカの涙は、いつのまにか乾いていて、すべてを諦めたようだった。
「じゃあ、行こうか」
最後に完全に敗北を認めた彼女を残し、私たちは席を立った。
「ふたりとも、ありがとう。この場を用意してくれなかったら私は何も行動しなかったと思う」
優子は清々しい顔をしている。
「ううん。優子すごいよ。かっこよかった」
「うんうん、さすがだわ。私ならケンカになって、グラスの一つでも割ってたかもしれない」
「サトミならやりかねないね！」
私たちは笑いながら、どこに向かうでもなく歩いた。
「こんなことがなければ、私たち夫婦はちゃんと向き合わなかったかもしれない」
そう言って、優子は話し続ける。
「どうして妊娠中に、私に“寂しかった”ということを言わずに、リリカに手を出してしまったの？って言ったらね、旦那が泣いたのよ」
妊娠がわかると、完全に気持ちが母に切り替わっていく。
そして優子は子どもが生まれてからも、平蔵からの誘いを、無意識にやんわり断り続けていたそうだ。
そのせいで、気づかないうちに夫婦の間に溝ができて、平蔵はリリカに走ってしまった。
「ちゃんと話し合いができる夫婦なら、こんなことになっていなかったかもしれないよね」
「優子…」
私は胸が痛くなった。
うちの場合は、夫の方が、レスに対して向き合おうとしない。
でも、そのせいで日頃から不機嫌な態度を取ってしまう私にも、問題があるのかもしれない。
― 私も夫とちゃんと話してみようかな…。
そんなふうに思っていると、優子が明るい口調で言う。
「すぐには前みたいに戻れないし、私もしばらく実家で過ごすけど、娘のためにも関係を再構築するわ」
「じゃあ、リリカ退治祝いに、お酒でも飲みに行く？」
菜々緒が、ボッテガ・ヴェネタのバッグを元気よく振りながら言った。
賛成しようと思ったが、さっきの優子の言葉を思い出す。
「菜々緒、だめだよ。優子妊娠してるって…」
「あ！そっか。お酒飲めないか」
「あ〜、あれ嘘だよん。少しはリリカにダメージを与えようと思って」
優子は、可愛く首を傾ける。
私と菜々緒は、優子らしくない言動に驚いた。
優子は、今回の騒動があってから、なんだかたくましくなった気がする。
「じゃあ、シャンパン飲めるね！」
「もちろん。行こ行こ」
私たちは、3人仲良くタクシーに乗り込んだ。
▶前回：夫が派遣社員と浮気…「経済力がないと離婚できない」悲しき現実に気づいた、専業主婦の決断
▶1話目はこちら：夜遊び仲間の“悪友”に7年ぶりに再会。環境が変わっても女の友情は成立する？
▶Next：1月28日 土曜更新予定
最終話・サトミたち女3人の未来
