ニューヨーク州バッファローには、大量の雇用を創出すると期待され鳴り物入りで開設されたソーラーシステム生産工場「ギガファクトリー・ニューヨーク」があります。しかし、この工場はテスラがパナソニックとの約束をほごにしたことで重要な部品を得られなくなるなど、さまざまな失敗が積み重なってソーラーシステムがほとんど作れなくなり、代わりにEV生産に関する単純なデスクワークが行われていると地元の報道機関が暴露しました。

Tesla's solar factory in Buffalo fizzles - Investigative Post : Investigative Post

https://www.investigativepost.org/2023/01/11/teslas-solar-factory-in-buffalo-fizzles/

バッファローを拠点とする調査報道機関であるInvestigative Postによると、2013年にこの工場の設置計画が持ち上がった際、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事はプロジェクトを「グリーエネルギー革命」と呼んで大々的に打ち出したとのこと。



しかし、9億5900万ドル(約1238億5000万円)の州税を投じて建設された工場にある、120万平方フィート(約11万平方メートル)の広大な敷地面積のうち、ソーラー発電に関する事業に使われているのは20%未満しかありません。

Investigative Postの取材に応えたテスラの現役社員は「数年前まではそこにいる全員がソーラー発電に携わっていましたが、最近ではおそらく300〜400人しかソーラー発電に取り組んでいません。今となっては見る影もないでしょう」と話しました。

では、最先端のソーラー製品を生み出す約束で州から借りた工場で、テスラが一体何を作っているのかというと、自動車です。工場では1636人の従業員のほぼ3分の1に当たる約500人が、自動運転ソフトウェアが収集した標識や歩行者の画像にラベルを付ける仕事をしており、その多くは学歴を必要としない初歩的なデスクワークとのこと。工場では他にも、テスラ車の充電装置の組み立てなどの自動車関連事業が行われています。

当初の計画では、この工場はSilevoとSoraaという2つの企業が共同で利用し、新しいクリーンエネルギー事業を立ち上げる予定でした。しかし、2014年に入ってからSoraaは撤退し、Silevoはソーラーパネルの販売会社であるSolarCityに買収されました。このSolarCityは、イーロン・マスク氏のいとこであるリンドン・ライブ氏が立ち上げた会社です。



by Kevin Krejci

「Silevoがソーラーパネルを製造し、SolarCityがそれを販売して設置する」という計画は理にかなったものでしたが、絵に描いた餅で終わってしまいました。SolarCityは一度も黒字化せず、2015年の1年間だけで7億1000万ドル(約913億円)の損失を出し、最終的に34億ドル(約4374億円)もの負債を抱えました。

そんなSolarCityを救済したのが、マスク氏率いるテスラです。一部の幹部の反対を押し切ってSolarCityを買収したマスク氏は、バッファローの工場でソーラールーフの開発を行う計画を立ち上げました。

このソーラールーフは、屋根にソーラーパネルを設置するのではなく屋根そのものをソーラーパネルにしてしまうというもので、普通の屋根より洗練された見た目で、発電が可能、長持ちで、断熱性にも優れ、設置費用も安く付くという画期的な製品です。

しかし、マスク氏肝いりのソーラールーフも結局は企画倒れでした。例えば、製品の仕様はパナソニック製のソーラーパネルとかみ合っておらず、ソーラパネルの色も屋根になじむ黒一色ではなく青や緑がかった色だったので不評だったとのこと。



さらに、テスラがパナソニックから太陽電池を買うのをやめて中国から仕入れるようになったため、パナソニックは2020年に工場から撤退。パナソニックの400人分の雇用もマレーシアに流れてしまいました。

極めつけに、中国での労働搾取問題から政府が規制措置を講じたことで、中国からのソーラー部品の仕入れも滞るようになりました。また、2020年半ばに入ると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより工場は一時閉鎖を余儀なくされてしまいます。

その後工場は操業を再開し、部品調達のめどが立ったことでソーラールーフの製造も継続されましたが、生産能力は限定的です。こうして、バッファローの工場での仕事はテスラの自動運転車開発のためのデスクワークに取って代わられることになりました。

その自動運転車も、カリフォルニア州で「完全自動運転」を称することを禁止されたり、改善が見られずむしろ悪化していると指摘されるなど、開発が難航しています。

テスラの完全自動運転ベータ版は改善するどころか「悪化」していることが判明、競合他社との差が歴然に - GIGAZINE



企業の透明性についての調査報告を専門とするサイト・PlainSiteの創設者であるアーロン・グリーンスパン氏は、「テスラがニューヨーク州に対して、真っ赤なうそとまではいかないまでも明らかに誤解を招くことをやってのけたことには、本当にあきれかえってしまいます」とコメントしました。

また、テスラに詳しい投資家兼アナリストのジョン・エングル氏は、Investigative Postに「バッファローは間違いなくペテンにかけられました。テスラはいつか報いを受けることになると思いますが、それにはしばらく時間がかかるかもしれません」と話しました。