新型セレナとステップワゴンのフロント&リアデザイン(写真:日産自動車/本田技研工業)

日産のミドルサイズミニバン、6代目となる新型「セレナ」の概要が発表され、ガソリン車が2022年冬、ハイブリッドの「e-POWER」車が2023年春に発売される。ファミリー層向けミニバン市場を牽引してきた同モデルは、先代モデルでも好評だった室内空間の広さや利便性はそのままに、より静粛性をアップした最新のハイブリッドシステムや、高速道路などでハンズフリー走行も可能な先進運転支援システム「プロパイロット2.0」を搭載するなどのアップデートを敢行。また、2列目シートをはじめ、乗り降りや荷物の積載時などの利便性を向上させる新機能も数多く搭載し、より快適性や安全性、使い勝手を向上させたことが注目点だ。

同ジャンルには、ホンダが誇る「ステップワゴン」もあり、2022年5月27日に発売された新型は、とくにインテリアのシートアレンジなど実用面で、ライバルである先代セレナなどを意識した新しい装備が特徴だ。

両モデルは、いずれも初代モデルが1990年代に登場し、長年シェア争いを繰り広げているという点で、まさに宿敵といえる存在。それぞれ新型となったことで、商品力や優位性などに、どんな差が出ているのだろうか。両モデルを詳細に比較してみることで、それらを浮き彫りにしてみたい。

セレナ外観・プロフィール


新型セレナのスタイリング(写真:日産自動車)

セレナは、1991年登場の初代「バネットセレナ」から、30年以上続く日産を代表するミニバンだ。一方のステップワゴンも初代モデルが1996年に登場。現行モデルは、新型セレナと同様に6代目となる。ファミリー層を中心に長年支持を受けてきたロングセラーモデルである両車は、前述のとおり、激しいシェア争いを30年近く繰り広げてきたライバル関係だ。


スタンダード仕様となるセレナe-POWER XV(写真:日産自動車)

両モデルともに外観は、ミニバンらしい、水平基調でスクエアなフォルムを採用するが、設定するグレードなどによって、フェイスデザインの雰囲気などに違いがある。


大型のフロントグリルが特徴的なセレナe-POWER ハイウェイスターV(写真:日産自動車)

新型セレナは、フロントフェイスなど、より親しみやすさを増したデザインを採用する「スタンダード仕様」として、ベースグレードの「X」や中級グレードの「XV」を用意。また、日産車の特徴であるVモーショングリルをより大型化し、フロントフェイスに存在感を持たせたエアロ仕様「ハイウェイスターV」も設定する。

これら3グレードには、それぞれガソリン車と独自のハイブリッドシステムe-POWER搭載車があるが、さらにe-POWER車では最上級グレードとして「e-POWER LUXION(以下、e-POWERルキシオン)」も新設。駆動方式はハイブリッド車が2WD(FF)のみ、ガソリン車は2WD(FF)と4WDを設定する。乗車定員は、e-POWERルキシオンが7人、それ以外のグレードは8人乗りだ。さらに、より高級感とスポーティさを両立したカスタム仕様の「オーテック」もガソリン車(8人乗り)とe-POWER車(7人乗り)の両方に設定し、豊富なバリエーションを誇る。

ステップワゴン外観・プロフィール


デザインの異なる「エアー」と「スパーダ」という2グレードを用意するステップワゴン(写真:本田技研工業)

一方、現行のステップワゴンは、シンプルな「ステップワゴン エアー(以下、エアー)」、高級感を演出した「ステップワゴン スパーダ(以下、スパーダ)」という2グレードを設定。さらにスパーダには、上級グレードの「ステップワゴン スパーダ プレミアムライン(以下、プレミアムライン)」も用意する。いずれも比較的マイルドなフェイスデザインを採用するが、とくにエアーは、1990年代後半や2000年代前半に大ヒットした初代や2代目を彷彿とさせるフォルムに、現代風のアレンジを加えたスタイルが印象的だ。

その点、新型セレナのXやXVといったグレードは、先代モデルのスタンダード仕様よりもやや落ち着いた印象となったが、ハイウェイスターVやe-POWERルキシオンといったグレードでは、先代モデルのエアロ仕様と同様に、今やミニバンの王道ともいえるインパクト感が大きい顔付きを踏襲。加えて、先代モデルのエアロ仕様が持つシャープなイメージと一線を画す、都会的で洗練された印象も加味している。


ステップワゴン エアーのデザイン(写真:本田技研工業)


ステップワゴン スパーダのデザイン(写真:本田技研工業)

なお、ステップワゴンのラインナップは、各グレードにガソリン車と、独自の2モーターハイブリッドシステム「e:HEV(イーエイチイーブイ)」搭載車を用意する。駆動方式は、e:HEV車が2WD(FF)のみ、ガソリン車には2WDと4WDの両方を設定。乗車定員は、エアーとスパーダに7人乗りと8人乗りを用意、プレミアムラインは7人乗りのみだ。

ちなみに両モデルの車体サイズは、セレナが全長4690〜4765mm×全幅1695〜1715mm×全高1870〜1895mm。対するステップワゴンでは、全長4800〜4830mm×全幅1750mm×全高1840〜1855mm。ステップワゴンは新型になって全モデル3ナンバーサイズとなったが、新型セレナはXやXVといったグレードに5ナンバーサイズを残し、そのほかは3ナンバーサイズとなっている。

新型セレナのパワートレイン


セレナe-POWERのパワートレイン(写真:日産自動車)

新型セレナは、先代モデルでも売れ筋だったハイブリッドのe-POWER車に、新しいパワートレインを採用したことがトピックだ。e-POWERは、ガソリンエンジンで発電し、モーターで駆動する独自のシリーズハイブリッドシステム。バッテリーの充電状況がよいときは、エンジンを停止してモーターのみによるEV走行も可能だ。燃費性能と静かさ、そして100%モータードライブならではの爽快な加速感などを味わえる。

新型のe-POWERでは、発電用エンジンに新開発の1.4L・3気筒を採用。従来モデルが1.2Lだったのに対し、排気量をアップさせている。新しい1.4Lの発電用エンジンは、エンジンの作動音を抑制するとともに、よりパワフルで気持ちのよい加速性能を実現する。また、車両状態や走行環境に加え、ナビと連携しながらエンジン作動タイミングを制御する世界初のエネルギーマネジメント技術も搭載し、エンジンの作動頻度を低減し、高い静粛性に貢献するという。

なお、新型セレナのガソリン車は、先代モデルと同様に2.0L・直列4気筒エンジンを搭載する。各パワートレインのスペックは、ハイブリッドのe-POWER車が走行用モーター最高出力163ps、最大トルク32.1kgf・m。発電用エンジンが最高出力98ps/5600rpm、最大トルク12.5kgf・m/5600rpmだ。ガソリン車の2.0Lエンジンは、最高出力150ps/6000rpm、最大トルク20.4kgf・m/4400rpmを発揮する。


ステップワゴンに搭載されているe:HEVのシステム構成(写真:本田技研工業)

対するステップワゴンのハイブリッド車は、充電用と走行用のモーター2基とガソリンエンジンを組み合わせ、状況に応じてモーターとエンジンの駆動を切り替える、ホンダ独自のシステムe:HEVを採用する。市街地の発進などではモーターのみ、加速時などはエンジンで発電してモーターで駆動する。また、高速道路の巡航時などでは、エンジン駆動に切り替わる。モーターのみで走行するモードと、エンジンで発電してモーターで駆動するモードを持つ点では、セレナのe-POWERが採用するシリーズハイブリッドに近い。それにエンジンのみで走行するモードも組み合わせている点が大きな相違点だ。

ほかにもセレナのe-POWER車では、アクセルペダルだけで車速をコントロールできる「e-ペダル ステップ」を装備する。渋滞時や急な下り坂などでブレーキペダルとの踏み替え回数を減らし、ドライバーの疲労軽減に貢献する機能だ。減速時はアクセルペダルの戻し方をスムーズにするなど、ある程度の慣れも必要だが、使いこなせれば運転がとても楽になる。

一方のステップワゴンe:HEV車にはこうした機能はないが、かわりに4段階で減速度を調整できる「減速セレクター」を装備する(タイプ別設定)。下り坂を走るときや前走車との車間をキープしたいときなどに、車速を調整できて便利な機能だ。操作は、ステアリング中央の左右にあるパドル式レバーで行う。パドルシフトを装備したAT車と操作方法はほぼ同じなので、使ったことのあるドライバーなら違和感も少ないだろう。加えて、コーナー手前で素早く減速できるなど、スポーティな走りにも使える点が魅力だ。


減速セレクターの作動イメージ(写真:本田技研工業)

ステップワゴンのガソリン車は?


ガソリン車に搭載されているVTECターボエンジン(写真:本田技研工業)

なお、ステップワゴンのガソリン車は、1.5L・直列4気筒に、低回転から力強い走りを実現する独自のVTECターボをマッチングさせたエンジンを搭載する。各パワートレインのスペックは、ハイブリッドのe:HEV車で、2.0Lエンジンが最高出力145ps/6200rpm、最大トルク17.8kgf・m/3500rpm。走行用モーターが最高出力184ps/5000〜6000rpm、最大トルク32.1kgf・m/0〜2000rpm。ガソリン車の1.5Lターボエンジンは、最高出力150ps/5500rpm、最大トルク20.7kgf・m/1600〜5000rpmを発揮する。

セレナとステップワゴンの燃費性能


新型セレナの走行イメージ(写真:日産自動車)

ちなみに両モデルの燃費性能は、新型セレナe-POWER車がWLTCモード値18.4〜20.6km/L。ステップワゴンのe:HEV車がWLTCモード値19.5〜20.0km/Lだから、ほぼ互角といったところだ。また、ガソリン車では、セレナがWLTCモード値11.6〜13.4km/L、ステップワゴンがWLTCモード値13.1〜13.9km/L。ガソリン車の燃費性能に関しても、両モデルにさほど差はない。


新型セレナの運転席からの視界(写真:日産自動車)


先代モデルと現行モデルのステップワゴンで視界を比較したイメージ(写真:本田技研工業)

運転席からの視界は、両モデルともに水平基調のインストルメントパネルなどの採用により、かなり広く感じる。また、ミニバンらしくアイポイントが高めのため、前方を見渡しやすく、幅広いユーザーが乗りやすいことも同じだ。さらにフロントウインドウとAピラーの間に三角窓も設定され、両サイドに死角ができにくい工夫がなされている点も同様だ。両モデルともに、例えば、交差点を曲がる際に歩行者を見落としにくいなど、前方だけでなく広い範囲で視界のよさを実現している。

シート素材は、セレナが「‪織物/トリコット」‬「‪ジャカード織物/トリコット‬+合成皮革のコンビ」「合成皮革」「防水シート」といった4タイプを用意する。対するステップワゴンは、「ファブリック」「ファブリック+プライムスムース(合皮)のコンビシート」「スエード調表皮とプライムスムース(合皮)のコンビシート」を用意し、いずれもグレード別に設定する。両モデルともに、柔らかすぎない適度な硬さを持たせたシートを装備することで、腰が沈み込みすぎないような工夫がなされており、長時間の乗車でも疲れにくい。

ハイブリッド車は両車ともにスイッチ式シフトを採用


エアコンパネルと一体になった新型セレナのスイッチタイプ電制シフト(写真:日産自動車)

また、ドライブレンジを操作するシフト方式にも類似点がある。セレナには、日産初のスイッチタイプ電制シフトを採用。エアコンスイッチなどがあるパネル内に装備されたシフト用スイッチは、運転席(右)側から「D/B(Dはドライブ、Bはより減速度を上げるレンジ)」「N(ニュートラル)」「R(バック)」「P(パーキング)」と並ぶ。従来型のATシフトのようにレバーがないので、運転席まわりが非常にすっきりしている印象だ。

対するステップワゴンでは、e:HEV車に「エレクトリックギアセレクター」を採用する。センターコンソール内には、下から「D/B」「N」「R」「P」と各スイッチが並ぶ。スイッチの配置こそセレナと異なるが、シフトレバーがなく、運転席まわりがすっきりしている点は同様だ。なお、ステップワゴンのガソリン車は、一般的なレバー式シフトを採用する。


セレナ e-POWER XVのインテリア全景(写真:日産自動車)

セレナの室内サイズは、長さ3135〜3145mm×幅1545mm×高さ1400mm。対して、ステップワゴンは長さ2845mm×幅1545mm×高さ1410〜1425mm。幅は両モデル同じだが、長さはセレナ、高さはステップワゴンのほうがある。


7人乗りになるルキシオンのインテリア(写真:日産自動車)

このクラスの2列目シートは、アレンジの豊富さや使い勝手の善し悪しがかなり重要なポイントとなる。両モデルともに、7人乗りと8人乗りを設定するが、新型セレナでは、前述のとおり、最上級グレードのe-POWERルキシオンを除く全車が8人乗りだ。大きな特徴は、先代モデルでも好評だった「マルチセンターシート」。これは、通常3人が座れる2列目シートの中央部を前にスライドさせることで、1列目の運転席と助手席の間にも設置できるというもの。8人乗り仕様車でも、2列目から3列目の移動が可能となる。

新型セレナでは、従来ガソリン車のみに設定していたマルチセンターシートをe-POWER車でも採用。先代モデルの強みを拡充することで、人気が高いハイブリッドモデルの装備をより充実させている。なお、7人乗りのe-POWERルキシオンでは、2列目が2名乗車になるキャプテンシートを装備し、マルチセンターシートは設定されない。

自由度が増したステップワゴンの2列目シート


ステップワゴンの内装イメージ(写真:本田技研工業)

対するステップワゴンの2列目シートは、7人乗りが2人がけのキャプテンシート、8人乗りが3人がけの6:4分割式ベンチシート(タイプ別オプション)となる。とくに7人乗り仕様では、前後スライドだけでなく、膻方向のスライド機構を新採用していることが先代からの大きな変更点だ。


ステップワゴンのシートアレンジ例(写真:本田技研工業)

例えば、小さな子どもを2列目シートに設置したチャイルドシートへ乗せた場合、子どもを乗せたシートをできるだけ前方のセンター寄りへ移動させたほうが、停車中などに前席から子どもの世話もしやすくなる。また、2列目シートを左右に大きく広げることで、例えば、停車中に後席に座る子どもの世話をするなどの際、車外に出ることなく、室内から2列目や3列目へ移動するウォークスルーがとても楽になる。このように、現行のステップワゴンでは、2列目シートをさまざまな状況に対応しやすくするための改良が施されているのだ。

セレナには、先代モデルからこういった機構はすでに採用されており、新型でも踏襲されている。つまり、現行のステップワゴンは、セレナを参考にし、先代モデルの「ウィークポイントを埋めた」といえる。また、両モデルの2列目シートは、前後のロングスライドが可能で、膻に一旦寄せたときにもっともスライド量が大きくなる。最大スライド量は、セレナが左右いずれかに寄せたときに690mmとなるのに対し、ステップワゴンではもっとも内側にした場合に865mmとなり、より大きなスライド量を確保する。


ウォークスルーの幅が広がって移動がしやすくなった新型セレナ(写真:日産自動車)

ほかにも新型セレナでは、運転席と助手席の間隔を先代モデルから120mm拡大し、ウォークスルースペースを広げたことで、1列目から後方への移動のしやすさを向上している。対して、ステップワゴンは、スパーダとプレミアムラインの2列目シートに、脚をゆっくり伸ばして載せることができるオットマンを標準装備する。新型セレナには設定されていないので、より上質でくつろげる室内空間という意味では、ステップワゴンに軍配が上がる。

3列目シートと荷室の使いやすさを比較


新型セレナのラゲージルーム(写真:日産自動車)

両モデルは、ほかにも2・3列目シートをフルフラットにして家族でゆったり座れるモードや、3列目シートを収納して2列目をフルフラットにすることで、夫婦など大人2名がゆったりと膻になれるモードなど、多種多様なアレンジを可能とする。

また、新型セレナの3列目シートは、スライド機構を標準装備することで、8人フル乗車時でもゆったりとした座り心地を実現する。また、5:5分割式のため、背もたれを倒し左右に跳ね上げることで、荷室スペースを拡充させることも可能だ。

3列目シートの格納方法が異なる


ステップワゴンのラゲージルームと、3列目シートの格納方法(写真:本田技研工業)

対するステップワゴンの3列目シートも5:5分割式を採用するが、こちらは床下収納タイプ。3列目の背もたれを前側に倒して、シート全体を手前に引くと床下へ格納できる。畳んだ3列目シートが荷室へ張り出すセレナと比べると、荷室スペースはより広くなる。さまざまな荷物の量や形状に対応するという点では、ステップワゴンのほうが利便性はいいだろう。

荷物を車体後方から積載する際などに使うテールゲートについても、両モデルとも独自の機能を採用する。新型セレナは、先代モデルと同様、ウインドウ部分のみでも開閉できる「デュアルバックドア」を採用。狭い駐車スペースで、テールゲート全体を開けずに荷物の出し入れが可能になる好評の機能だ。新型は、開口時のサイズを見直すことで、より狭い駐車スペースでも使用できるようになり、使い勝手を向上している。

対するステップワゴンでは、停止位置を任意で設定できるメモリー機能付きの電動パワーテールゲートを、スパーダとプレミアムラインに標準装備する。縦列駐車時など、車両の後方が狭い場所でも、テールゲートの角度を調整できるため、荷物を出し入れしやすい。方式や機構こそ違うが、両モデルともに、狭い駐車スペースという日本独自の環境を考慮した装備を備える点では、ほぼ互角だろう。ただし、セレナのデュアルバックドアは全車に装備されるのに対し、ステップワゴンのエアーにはパワーテールゲートの設定がない。より幅広いグレードへ使い勝手がいい装備を持たせている点では、セレナに軍配が上がる。

乗り降りのしやすさ


ドア下に足をかざすだけで自動開閉するセレナのハンズフリーオートスライドドア(写真:日産自動車)

セレナ、ステップワゴンはともに、車体両側にスライドドアを装備することで、小さい子どもや高齢者などでも後席への乗り降りをしやすくしている。とくにステップワゴンは、電動で自動開閉するパワースライドドアを全車に標準装備する。また、軽く指先を触れるだけで開閉する、静電タッチセンサー式ドアノブも新採用し、高い利便性を誇る。

対するセレナでは、スマートキーを携帯した状態で、ドア下に足先をかざすと自動開閉するハンズフリー機構付きの両側スライドドアを、ベースグレード「X」を除く全車に標準装備する。子どもや荷物を両手に抱えているときなど、ドアノブの操作がしにくいときに便利だ。ステップワゴンでも、ハンズフリー機構付きスライドドアを選ぶことは可能だが、こちらは全車オプション。ただし、セレナでもXは全閉時のみ自動となるオートクロージャー式で、ハンズフリー機構付きは助手席側のみオプションで装備が可能。全タイプにパワースライドドアを選択できるのはステップワゴン、より便利なハンズフリー機構付きスライドドアを多くのグレードに装備するのはセレナだ。

ほかにも両モデルには、スライドドアの開閉と連動し、ステップが自動で出入りする機構をいずれもオプション設定。段差が低くなることで、足を高く上げられない高齢者や小さな子どもなどの乗り降りをサポートする。また、2列目シートにはシートベルト内蔵式を、こちらも両モデルともに設定。2列目にチャイルドシートを装着したままでも、3列目へのスムーズな乗り降りを可能とする。とくにステップワゴンの先代モデルでは、2列目のシートベルトが座席膻のピラー側に装備されているタイプだった。一方のセレナは、先代モデルから内蔵式を採用。3列目への乗り降りをしやすくするため、現行ステップワゴンは、セレナなどのライバル車をかなり研究していることがわかる。


セレナのサイドビュー(写真:日産自動車)

両モデルは、後席の乗員が移動中にクルマ酔いをしにくくする工夫もなされている。まず、新型セレナでは、ハイブリッドシステムe-POWERのスムーズな出力特性と高剛性サスペンションにより、車体の動きをなめらかにすることを実現。また、車体の揺れが乗員へ伝わることを抑える新開発シートを採用することで、クルマ酔いにつながる頭の急な揺れを抑制する工夫がなされている。

さらに背が高いミニバンは強い横風で車体が揺れやすく、クルマ酔いにつながることもあるが、新型では横風を受け流す車体構造を採用。操縦安定性を高める高剛性ステアリングとの組み合わせにより、高速走行時の安定性も高めている。ほかにも見晴らしがよく開放的な視界や、最適な位置に配置された後席専用モニターなどにより、視覚的にもクルマ酔いの低減を図っている。

全席で視界を広くすることでクルマ酔いを予防


後席にいくほど座面を高くして視界を確保するステップワゴン(写真:本田技研工業)

対するステップワゴンでは、水平なベルトライン(サイドウインドウの下端)を採用し、後席から前方や両サイドをより見やすくすることで、クルマ酔い対策を施す。また、3列各シートは、座る高さに工夫を施していることも特徴だ。運転席を基準に、2列目を40mm、3列目を90mmそれぞれアップさせることで、後席ほど着座位置が上がるような設定となっている。可能なかぎり後席の視界を広くする演出を施し、後席乗員、とくに3列目に乗るユーザーがクルマ酔いなどをしにくい効果を実現している。

ほかにもステップワゴンでは、スライドドア開口部に構造用接着剤を用いるなどして、車内への振動も抑制。さらにリアサスペンションのストローク量を増やすことで、走行安定性をはじめ、後席の乗り心地向上や酔いにくさを追求している。

気になる2台の価格は?

新型セレナの価格(税込み)は、ハイブリッドのe-POWER車が319万8800円〜479万8200円、ガソリン車の2WDが276万8700円〜326万9200円、4WDは303万4900円〜353万5400円。なお、カスタマイズ仕様のオーテックは373万3400円〜415万300円だ。

対するステップワゴンは、ハイブリッドのe:HEV車が338万2500円〜384万6700円、ガソリン車では2WD299万8600円〜346万2800円、4WD324万600円〜365万3100円だ。


セレナのスタイリング(写真:日産自動車)

セレナのほうがやや安いグレードもあるが、両モデルの価格帯はある程度近い。だが、ハイブリッド車の最上級グレードでは、ステップワゴンe:HEVのプレミアムラインが384万6700円なのに対し、セレナのe-POWERルキシオンは479万8200円と95万円以上も高い。

これは、e-POWERルキシオンには、先進安全装備に「プロパイロット2.0」を搭載していることも影響しているのだろう。高速道路の単一車線での運転支援技術「プロパイロット」の中でも、とくに最先端といえるこの機能は、状況に応じて同⼀⾞線内でハンドルから⼿を離すハンズオフ走行も可能だ。また、ナビゲーションと連動し、地図データをもとに、制限速度に応じて設定速度の切り替えや、カーブに応じた減速支援なども行うことで、ドライバーの操作頻度や疲労を軽減する。


プロパイロット リモート パーキングのイメージ(写真:日産自動車)

さらに、e-POWERルキシオンには、駐車時にボタン1つでステアリング、アクセル、ブレーキ、シフトチェンジ、パーキングブレーキのすべてを自動制御する「プロパイロット パーキング」も、日産車初のメモリー機能付きを標準装備(XVとハイウェイスターXVにはオプション設定)する。加えて、スマートキーでクルマの入出庫を遠隔操作できる「プロパイロット リモート パーキング」も搭載するなど、先進機能が盛りだくさんだ。

ステップワゴンもホンダセンシングを全車標準装備

ステップワゴンも独自の先進安全装備「ホンダセンシング」を全車に標準装備し、高速道路などで一定の車間を自動で保ちながら先行車を追従する「ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)」を渋滞追従機能付きへ改良。後方誤発進抑制機能、近距離衝突軽減ブレーキ、オートハイビームなどの充実した装備を誇る。また、スパーダや上級グレードのプレミアムラインでは、「アダプティブドライビングビーム」を搭載。夜間などにハイビームを照射中、先行車や対向車を検知すると、周辺状況に応じて照射範囲を自動でコントロールし、他車両への眩惑などを避けながら、可能な限りドライバーの視界を確保する機能も有する。

ただし、上級グレードの先進性という意味では、セレナのe-POWERルキシオンのほうが上だろう。とくにプロパイロット2.0は、まさに日産が誇る最先端技術。かつて、セダンモデル「スカイライン」のハイブリッド車(現在は生産終了)に装備され、大きな話題も呼んだ。2022年12月初頭現在、BEVのプレミアムSUV「アリア」に搭載されているが、アリアの価格(税込み)は539万円以上。日産車のなかでも高級モデルにだけ搭載されているスペシャルな装備と考えると、セレナe-POWERルキシオンの価格がある程度高くなるのはしかたないところ。あとは、それだけ高価でも、ミドルサイズミニバンのユーザーが先進機能を求めるのか否か。そのあたりは、実際に発売されたあとの売れ行きをみるしかないだろう。

ちなみに新型セレナは、ほかのグレードでも「360°セーフティアシスト(全方位運転支援システム)」を全車に装備し、衝突被害軽減ブレーキやアクセルペダル踏み間違い時の加速抑制機能など、ステップワゴンと同様に、充実の安全装備を持つ。また、前述した、高速道路の運転支援機能プロパイロットを全車に装備するほか、XVやハイウェイスターVには、「ナビリンク機能」もオプション設定する。ナビリンク機能付きプロパイロットは、ハンズオフ機能こそないものの、プロパイロット2.0と同様にナビゲーションと連動し、制限速度に応じた車速設定を行うなど、さまざまな運転支援機能を有する。

基本性能は互角、先進装備でセレナが上か?


セレナの利用イメージ(写真:日産自動車)


以上、新型セレナとステップワゴンの特徴を比較してみたが、先進安全装備では新型セレナの最上級グレードが突出しているものの、それ以外の装備では、両モデルはかなり実力が伯仲しているといえるだろう。とくにファミリー層がもっとも気になる室内の快適性や利便性、燃費のよさなどに、あまり差はみられない。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

あとは、スタイルや細かい装備などが、ユーザーのライフスタイルや好みなどにいかにマッチしているかどうかが、選択時のポイントになりそうだ。いずれにしろ、新型セレナが市場投入されることで、ステップワゴン、そしてトヨタの「ノア&ヴォクシー」も含めた3モデルが繰り広げる、ミドルサイズミニバンの激しいシェア争いは今後も続きそうだ。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)