●2023年のIntel Chipset - B760/H770が登場、Z790との違いは? 次いでZ890の気配も

2023年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う「PCテクノロジートレンド」をお届けする。本稿はチップセット編だ。

Photo01: 大原家の家猫になって6年目頃。お気に入りの三角ベッドで寝ている訳だが、基本脚とか尻尾がはみ出してる。それで休めるのか?

Intel/AMD共に、新アーキテクチャを採用したハイエンドプロセッサを年末に出し、翌年その下のSKUを充実させる、という流れが定着してしまい、Chipsetも年末にハイエンド品が出て、翌年その下のSKUが追加されるという形になってしまっている。しかも2023年は両社とも、Desktopに関しては新プラットフォームの投入が無い。そんな訳であまり新しい話は無かったりする。

○Intel Chipset(Photo02)

Photo02: 諸般の事情で2018年に転居したのだが、転居後の筆者の仕事机の上でこれ。まぁ、邪魔にはなりにくいからむしろ助かるのだが。

既報の通り、Intelは新しいDesktop/Mobile向けプロセッサをリリースした訳だが、このリリースには新しいChipsetの話は含まれていなかった。なのだが、Intel Arkにはしれっと新しくB760/H770の情報が追加されていたので、ここでその詳細を説明しておきたい。

表1が今回リリースされたB760/H770と、既に発売済のZ790を加えた特徴の一覧である。コア及びBCLKのOverclockの機能を持つのはZ790のみで、B760/H770はメモリの動作周波数しか変更できない事、それとChipsetから出るPCIe/USBのLane数が若干減らされている事以外は、H770とZ790はかなり近いと言える。一方のB760はDMIのLaneもx4に減らされており、これに伴いI/Oの数も大幅に減っている。とは言え、B760でも普通に使う限りにおいては何ら支障のないスペックではあるのだが。ちなみにお値段の方は、Z790が1個$57とかなり高いのに対し、H770は$36、B760は$31と猛烈に値段が下がっている。勿論I/Oの数も減っているが、この差の$20ほどがほぼCore/BCLKのOverclockのPremierという事になる。

表1

ところで表1を見ると、RST EnterpriseとかStandard Manageability、SIPP/TETといったFeatureには一切未対応である。これらはvPro向けの機能であり、現状まだvPro対応プロセッサがリリースされていないから要らないということでもあるが、逆に言えばvPro対応プロセッサのリリースに合わせて、Chipsetの方もこれに対応したものが新たに追加される、という意味でもあるのだが、どうも現在の話を聞いている限りでは追加されないらしい。

ではどうするか? というと、既に発売済のQ670がこれに対応する形になるらしい。そもそもビジネス向けはConsumer向けと異なり、Chipsetを変更して新しいマザーボードを販売する、といったビジネスではないし、むしろChipsetが変わるとVerificationに時間が取られる事になるので、むしろ既存のChipsetをそのまま使い続ける方が好まれる。Raptor LakeはAlder Lakeと互換性があるし、機能的にも何か追加する必要があるか? というと特に見当たらない。だったら既存のQ670そのままで問題ない、という判断の様だ。ついでに言えば、B760の更に下にあたるスペックのH610も、これをH710にするのではなく引き続きH610のまま販売、という事になるようだ。H610は更に安い$28で販売されており、エントリ向けマザーボードなどで広く利用されている。このマーケットも、新しいチップセットを導入したからといって買い替えが発生する訳ではないので、引き続き継続提供で問題ない、という判断と思われる。

一つだけ例外があるのがWorkstation向け。このマーケットは現在Alder LakeベースのCoreプロセッサを利用したローエンド向けのW680と、Ice Lake-SPベースのXeon Wプロセッサを利用したメインストリーム〜ハイエンド向けのC621が使われていた。このうちW680はQ670にECC Memoryのサポートを追加したような構成であり、当初はW780にアップデートされるとされていたが、現実問題としてRaptor Lakeでもそのまま利用できる(Workstation向けだからそもそもOverclock動作とかはしない)ということで、そのまま行きそうである。ただし、その上のXeon W向けに関しては、こちらのCPU編の記事の所で述べた様にSapphire Rapidsベースに切り替わる関係で新しいチップセットがどうしても必要になる。この新チップセットがW790になるらしい。こちらはSapphire RapidsベースのXeon Wとあわせ、恐らく2023年前半中に投入されるものと思われる。

その先であるが、これもCPU編で説明したように、Meteor Lake-Sが無くなり、Raptor Lake Refreshで代替されることになった。恐らくこのRaptor Lake Refreshに合わせてZ890が投入されると思われるが、これはZ790 Refreshとでもいうべき製品で、元々開発していた800 Series Chipsetとは異なるものである(元々の800 Seriesは、恐らく2024年に900 Seriesとして投入されることになるだろう)。

ちなみにMeteor Lake-SではLGA 1851になる予定だったらしいという話も触れたが、この主な理由は消費電力増への対応と、PCIe Gen5への対応である。Alder Lake/Raptor Lakeは、CPU PackageからPCIe Gen5×16とPCIe Gen4×4(これはM.2向け)、それとDMI 4.0×8(=PCIe Gen4×8)が出る構成だったが、Meteor LakeではこれがPCIe Gen5×16+PCIe Gen5×4(これはM.2向け)+DMI 5.0×8(=PCIe Gen5×8)という具合にPCIe 5.0に統一される筈だった「らしい」。ということでこのDMI 5.0への対応がChipsetの側にも必要になる訳だ。StorageがPCIe 5.0に移行するにあたり、DMI 4.0ではそろそろ帯域が不足するから、というのがその最大の理由であろう。あと何気にWi-Fi 7とかLANの2.5G/5Gへの移行など、より広帯域なNetworkへの対応を考えると、そろそろPCHの側にもPCIe Gen5が必要という判断だったと思われる。それはともかくとして、PCIe 4.0→5.0ではシンボル速度そのものは変わらず、なのでピン数そのものが増える理由にはならない。なので150以上もピンが増える理由はもう電力供給を更に増やすため、ということになる。今でも250Wとかをピークで供給している訳だが、恐らくLGA 1851ではピークで300W近くまで行くものと考えられる。どこかでこの流れ、止まらないものだろうか?

●2023年のAMD Chipset - 本命はZen 5のGranite Ridge向け、今年後半の700シリーズを見通す

○AMD Chipset(Photo03)

Photo03: 最近のお気に入りは「胡坐をかいた足の上に収まって撫でてもらう」(胡坐をかいてないと「かけ」と要求してくる)。この椅子、胡坐をかくにはちょい狭いのだが...座面の広い椅子に入れ替えるべきか?

色んな意味で悪評が高かった(値段が高い、消費電力が高い、etc...)X670 Chipsetであるが、まぁ構造を考えれば仕方がないところ。X670の構造はこんな風に説明されている(Photo04)が、要するに図1の様なDaisy Chain構成である。UpstreamもDownstreamも同じ、というか個々のChipsetはB650と同じものであって、それを2つ繋げたのがX670ということになる。確かにこの構成にすればPCIe Linkも一杯取れるし、SATAも最大8ポート、USBポートも十分で、IntelのZ690に負けないI/O数ではある。そして全てのI/Oポートを一斉に使うといった事はConsumer向けではあまり考えにくいから、CPUとの接続がPCIe 4.0×4でもさして不都合はない、というあたりだろうか? CPUからPCIe 5.0×8がNVMe SSD用に出ているから、NVMe M.2 SSD×2をCPUに直結できる(or、NVMe M.2 SSD+10G EthernetとかもMotherboardによってはあり得る)ので、Chipset側はそこまで速度は要らないというあたりだろう。

Photo04: このUpstreamとDownstreamの意味を理解するまで少し時間が掛かった。

図1

それにしてもこれは力業すぎるというか、もう少しなんとかならなかったのか? という気はしなくもない。B650を2つ搭載してるわけだから消費電力も価格も2倍なのは、そりゃ無理もない筈である。

ということで今年であるが、今年前半中をめどにバリュー向けとなるA620が投入される模様だ。これはB650からPCIe 5.0のサポートを外し(PCIe 4.0では動作可能)、また対応するメモリもDDR5-4800まで抑えたものになるとされている。バリュー向けとしては妥当な構成で、現実問題としてPCIe 5.0に対応したGPUもなければ、PCIe 5.0対応SSDが爆熱品ばかりという現状では4.0で十分ともいえる。メモリもOC無しだとDDR5-4800が定格だから、これも問題はないだろう。

問題は2023年第4四半期と目されるGranite Ridgeの投入時期だ。恐らくであるが、この時期にAMDは700 Series Chipsetを投入するだろう。最大の相違点はChipsetとの接続で、PCIe 5.0に増速されると見られる。勿論従来のRyzen 7000シリーズを利用時は、互換性維持の為にPCIe 4.0での接続になる形だ(これは逆も同じで、Granite Ridgeを600 Series Chipsetに接続したら、やはりPCIe 4.0での接続になるだろう)。この700 Seriesでも引き続きトップエンド向けはDaisy Chain接続構成を踏襲するかどうかは現状はっきりしない。なんかやりそうな気はするのだが。