本連載の第183回では「テンプレートを使い倒して仕事の質とスピードを上げよう」という話をお伝えしました。今回はExcelでの作業を飛躍的に高めることのできる、Power Queryという機能についてお話します。



「年末は各営業所の売上データのファイルを統合・集計する作業で忙殺されます」

特に今の時期は、このような膨大なデータと格闘する多くの担当者の悲鳴が聞こえてきます。もちろん、基幹システムが機能していて必要なデータが勝手に収集・統合・集計・分析できるような体制が整っていればよいのですが、「うちにはそんなシステムはない」という企業の方が多いでしょう。まして基幹システムの導入ともなれば莫大な費用と労力、それに日数を要するので、この年末を乗り切るのには到底間に合いません。

しかし、安心してください。そんな基幹システムを導入しなくても、皆さんが今まさに使っているExcelの機能を使って今より遥かに作業を効率化することができます。それがPower Queryです。以下では、Power Queryで便利になることをお伝えします。

○1. 複数ファイルのデータを取得して統合できる。

冒頭に挙げたような、各部署で作成した売上データや従業員リストなどのエクセルファイルのデータを統合する作業に骨を折っている担当者は少なくないでしょう。10や20くらいのファイル数ならともかく100や200などの数になってくると、それらのデータを統合する作業だけでとんでもなく時間がかかってしまいます。

仮に100個のファイルのデータを1つずつ開いてコピーして、別の1つのファイルにペーストする作業で考えてみましょう。

ファイルを選択して開く→5秒

対象データの範囲を選択してコピーする→10秒

統合先のファイルに遷移してペーストする→5秒

転記元のファイルを閉じる→5秒

もちろん人によって差はあるでしょうが、1ファイルにつき一連の動作に25〜30秒くらいはかかるのではないでしょうか。仮に30秒とすると、これらの動作を100回繰り返せば3,000秒、つまり50分もかかってしまいます。ただコピペするだけでこれだけの時間と手間がかかってしまう上に、ファイル数が増えれば増えるほど転記漏れなどのミスが発生する恐れも出てくるでしょう。

では、Power Queryではどうでしょうか。統合元のファイルを1つのフォルダに保存しておけば、先ほどの一連の作業を簡単かつ圧倒的に短時間で完了できてしまいます。各ファイルのデータが表形式で、かつフォーマットが揃ってさえいれば、そのフォルダを指定して取り込む指示をするだけで、あっという間にデータを統合できます。

なお、対象ファイルのフォーマットがしっかり揃ってさえいれば、ものの1分ほどでデータ統合の作業を完了できるでしょう。50分かかる作業が1分で、しかもミスなくできるなら使わない手はありませんね。

○2. WebサイトやPDFファイルからもデータを取得できる。

扱いたいデータは必ずしもエクセルファイルに存在するとは限りません。Webサイトに掲載されているデータであったり、PDFファイルのデータであったりする場合もあるでしょう。そのような場合には、恐らく対象データをコピーしてエクセルにペーストしているのではないでしょうか。

しかし、ただWebサイトやPDFファイルのデータをエクセルに転記すると書式やレイアウトが崩れてしまいます。特にPDFファイルでは、元のデータが表形式になっていてもエクセルに転記すると全てのデータが一列に入ってしまいます。これではデータの修正に手間がかかってしまいます。

でもPower Queryなら大丈夫。WebサイトのURLやPDFファイルを指定してデータを取得すれば、ちゃんと表形式でエクセルに落とし込むことが可能です。しかし、WebサイトにせよPDFファイルにせよ、表形式以外のデータが混在している場合でも対応可能なのでしょうか。

そこは安心してください。取得対象の表形式以外のデータについてはPower Query上で簡単に取り除くことが可能です。そこで綺麗に成型したデータをエクセルファイルに落とし込むことができますし、それでは却って操作が面倒だという場合にはエクセルファイルに落とし込んだ後で成型してもよいでしょう。

○3. 取得元のデータの追加や削除、更新をボタン一つで反映できる。

自分の手で多数のエクセルファイルから転記を繰り返して、ようやくデータ統合が完成したと思ったら元のエクセルファイルの「最新版」が送られてきて、統合後のデータへの反映に手間取ったことはありませんでしょうか。

また、元のファイル数が大量になると、各々のファイルの「修正不要」「これから修正」「修正済」というステータス管理もしっかりしないと統合後のファイルの正確性が損なわれてしまうので、そこも神経を使います。

しかし、Power Queryではわざわざステータス管理をする手間はかかりません。対象フォルダ内にあるエクセルファイルが修正されたり、ファイル自体が追加や削除されたりした場合でも、Power Queryで取り込んだデータを右クリックして更新ボタンを押すだけで最新の状態に更新することが可能です。

これが威力を発揮するのは特にWebサイトのデータを取得した時です。特に外国為替市場のように日々刻々と情報が変わっていくデータを反映させる場合にも、Power Queryでは先ほど同様に右クリックして更新ボタンを押すだけで最新の情報に更新できるので、時間と共に変化するデータを扱う場合には大変便利です。

以上、今回はPower Queryの便利な点について解説しました。ご自身の仕事でも使ってみていただけたら幸いです。

相原秀哉 あいはらひでや 株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役 慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。著書に『リモートワーク段取り仕事術』(明日香出版社)がある。 この著者の記事一覧はこちら