斎藤工さん 撮影:高橋定敬

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公開から約1カ月が経ってMX4D、4DX、DOLBY CINEMAでの上映がスタートし、いまだに勢いが衰えない映画『シン・ウルトラマン』。人間であり外星人でもある ”ウルトラマンになる男” 神永新二を見事に表現したのが、俳優業に限らず多方面で才能の発揮する斎藤工さんだ。公開初日を迎えた斎藤さんにインタビューを敢行し、神永や『シン・ウルトラマン』への想いを伺った。

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◆幼少期に回帰させる映像体験◆

――2019年の発表から約3年が経ちましたが、完成した映像をご覧になった感想はいかがですか?

斎藤 台本を読んで撮影現場を経た僕たちは、どうしても答え合わせみたいな見方になってしまって、俯瞰では全く観られないんです。でも、今作はそれ以上に作品が持つうねりのようなものに飲み込まれて、内容を分析できないくらい映像体験の喜びが覆い包んでくれる感覚があって。今朝もプライベートで観てきたのですが、幼少期の映画体験をふたたび味わったような気持ちになりました。

――数多くのカメラを使用し、出演俳優がスマホのカメラを構えながら演技をしたことも話題になりました。

斎藤 以前の『シン・ゴジラ』でもスマホを撮影に使用されていましたが、スマホが持つカメラとしての可能性を強く感じました。スマホは従来のカメラよりも機動力が高く、これまでは置けなかったところにカメラが構えられることが素晴らしいところだと思っていて。次の僕の監督作は全編スマホで撮ろうと考えているので、今作の現場を経験した影響は受けていると思います。

――今作の魅力の一つとして、宮内國郎さんが手がけた『ウルトラQ』『ウルトラマン』の劇伴、鷺巣詩郎さんが作曲した新曲などの音楽が挙げられます。

斎藤 宮内さんの音楽も素晴らしいのですが、鷺巣さんの音楽がメチャクチャカッコいいと思いましたね。特にメフィラス戦の音楽(『An Out of Body State <体外離脱>』)のロックっぽくなるところはさすがだなと。改めて鷺巣さんと庵野・樋口作品の相性の良さを感じました。今作を観た方の感想の中には「ドラマシリーズで観たい」という声もあって。その気持ちは痛いほどわかりますし、『ウルトラマン』を愛しているからこその意見だと思うんです。でも、僕は映画の要素の50%は音だと思っているので、音を楽しむという意味では、映画として劇場で上映したことが正解だったのではないでしょうか。

(C)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

◆特撮が持つ感情移入させる力◆

――今作ではフラッシュを焚いて撮影した変身シーンに代表される昔ながらの特撮、ウルトラマンのバトルシーンのような最新のVFXの両方が駆使されていました。特撮、VFXに関わるシーンの撮影で記憶に残っていることはありますか?

斎藤 僕たち俳優部としては、「ここからは特撮パート」と明確に区別されていた印象はなくて。ただ、企画書の段階で書かれていた ”空想特撮映画” というクレジットに込めたこだわりや想いは、完成した映像を観たときに強く実感しました。特撮という人の存在を感じさせる伝統的な手法を使ったからこそ、感情移入するフックが生まれたのではないでしょうか。

――あえてアナログな手法を用いたことに意味があると。

斎藤 あくまで僕個人の感覚ですが、VFXには感情移入がしづらいんですよ。「すごい映像を観た」という経験にはなっても、「映画を観た」という実感は得づらくて。円谷英二さんたちがいかにして観る人を驚かせ、楽しませるのかを創意工夫してきた特撮の歴史は、日本の映像業界が誇れる遺産だと思います。今作はそんな伝統的な特撮と、それを進化させたVFXなどの技術を同調させた、シンボリックな映像体験が味わえる作品になっているのではないかと。

――もし特撮映画を撮影する機会が訪れたら、どういった作品を作ってみたいですか?

斎藤 今作の現場を経験して、特撮は僕のような素地がない人間が制作側として関わってはいけないと感じました。だから、自分が制作する側になったとしたら、餅は餅屋ではないですけど、樋口さんに相談すると思います。

(C)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

◆神永とウルトラマンの狭間で◆

――神永新二は序盤で大きな出来事に遭遇し、”ウルトラマンになる男” となりました。神永という人物について、台本を読んだときに抱いた印象はいかがでしたか?

斎藤 ある種の事故によってウルトラマンが一体化するという意味では、『ウルトラマン』第1話と非常に近しい印象を受けました。また、神永が ”ウルトラマンになる男” となり、デスクが異様な様相になっても周囲が疑問を抱かなかったことから、彼はもともと非人間的な人物だったのではないかと感じて。撮影現場に臨むうえでも、”ウルトラマンになる男” の前後で棲み分けをしすぎないようにしていました。

――確かに ”ウルトラマンになる男” 以前の神永の描写でも、独自の視点で透明禍威獣ネロンガの特性を分析していた場面が印象的でした。神永はバディを組んだ浅見弘子をはじめとする禍特対の面々との関係の中で、その心情が徐々に変化していきます。

斎藤 僕はこの物語は、神永の細胞に残っている記憶といった、知的生命体としての核を少しずつ取り戻していくお話でもあると解釈していて。ウルトラマンの意識が神永の中に入ったことで、彼のこれまでの経験がリセットされたわけではなく、どこかで接続していると想像しながら演じました。

――今作の終盤、人間について考え続けたウルトラマンは、最終的にある結論を出します。斎藤さんはウルトラマンが出した答えに、どのような印象を抱きましたか?

斎藤 いかにも、人間と外星人の狭間に立っていた者の結論だと思いました。人間は数式や文法で収まらない不確定さを内包していて、それは個人的にも実感があります。ウルトラマンが出した答えには、人間という生命体の卑しさと愛おしさを感じました。日本だけでなく世界で分断や分裂、孤立が加速している今の世の中では、ウルトラマンが持つ狭間の心は現代に必要な概念の象徴なのではないかと。

――現実の世界ともつながる側面があるというわけですね。

斎藤 もちろん娯楽大作という楽しみ方ができる作品であってほしいと思うのですが、同時に今作は観た方と地続きの何かに接続する物語でもあると解釈しています。今作は庵野さん、樋口さんだけでなく、スタッフの皆さんが幼少期にウルトラマンシリーズから受け取り、それぞれ育ててきた想像の種を込めてくださったと感じていて。それを今の子供たち、かつて子供だった全ての人に作品を通じて渡してくださったように思いました。

【プロフィール】
斎藤 工(さいとう・たくみ)
1981年8月22日生まれ。東京都出身。ブルーベアハウス所属。俳優としてだけでなく、映画監督としても活躍。

(C)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ