会社員や公務員などの給与所得者は、社会保険料を給与から差し引かれることにより支払っています。

そのため、退職や転職をした場合、社会保険料の支払い方や会社を通じて加入している健康保険、厚生年金の扱い方がどう変わるのか気になる人もいるでしょう。この記事では、退職や転職する人に向けて、社会保険料の支払いや切り替え方などを解説します。

社会保険とは

社会保険とは、国や公的団体が運営する年金保険、医療保険、介護保険、労働保険(労災保険・雇用保険)などを総称したもので、日本に居住している場合強制的に加入となります。なぜ強制加入なのかというと、日本に住む全員が少ない負担で医療を受けられ、働けなくなったときも安心して暮らせるような社会にするためです。

自営業者など、雇用されずに労働している人は、自身で国民健康保険や国民年金の保険料を支払います。しかし、公務員や会社員などの給与所得者の社会保険料の支払い方は、毎月の給与からあらかじめ差し引かれる源泉徴収方式です。

原則、4月から6月の各種手当と基本給を合わせた報酬額(賞与は除く)の平均額が標準報酬月額となり、その額に応じて社会保険料は決まります。ただし、転職や退職などで収入が大幅に変わるときは、標準報酬月額が変わる可能性もあります。

参照元:厚生労働省「日本の社会保障の仕組み」

転職せずに退職したときの社会保険料の扱い方

給与所得者の場合、社会保険料は所属先を通じて源泉徴収方式で支払います。そのため、退職後は社会保険料をそれまでの方法では支払えません。ここでは、次に新たな職に就かないとき、社会保険料をどのように扱えばよいのか解説します。

社会保険料は退職翌日の前月分まで支払う
在籍する事業所を通じて支払う社会保険料は、退職翌日の前月分までです。月末前日までに退職したなら前月分まで、月末当日に退職した場合は退職当月分まで事業所を通じて社会保険料を支払います。

ほかの事業所に転職しないのであれば、退職後は源泉徴収ではなく、自ら国民健康保険や国民年金に加入し、社会保険料を支払っていくことになります。働いていたときに支払っていた雇用保険は、労働者のための保険です。そのため、退職後労働者でなくなった場合は雇用保険の加入は必要ありません。

参照元:全国健康保険協会「保険証の返却 退職(資格喪失)するとき」
参照元:日本年金機構「月の途中で入社したときや、退職したときは、厚生年金保険の保険料はどのようになりますか。」

入社したその月に退職した場合
社会保険料は退職翌日の前月までの支払いになるという説明をしましたが、入社当月に退職した場合は、その月の分の支払いが必要になります。たとえば、4月1日に入社し、4月20日退職した人も、支払われる給与から社会保険料が天引きされ、その分を返納されることはありません。

場合によっては、日割りされた給与よりも社会保険料のほうが高額で、職場に対して社会保険料を支払わなくてはならないこともあります。

ただし、入社、退社をした同じ月に国民年金や次の会社の厚生年金に加入したときは、その月に支払った厚生年金は返納されます。

健康保険や厚生年金の資格喪失日は退職日翌日
健康保険や厚生年金は退職日の翌日に資格が喪失します。その後は国民健康保険、国民年金に加入するように手続きをしましょう。

特に気をつけなければならないのは健康保険証の扱い方です。

退職翌日から今まで使用していた健康保険証は使用できなくなるため、すぐに国民健康保険に加入して新しい保険証を用意しないと、病院で実費を支払うことになってしまいます。ただし、実費を支払ったあとでも退職翌日にまでさかのぼって国民健康保険に加入すれば、無保険で支払った医療費の保険適用分は返納を受けることが可能です。

職場の健康保険から国民健康保険に切り替えるときは、健康保険証を職場に返却したあとにもらえる健康保険資格喪失証明書が必要となります。証明書が届く前に病院にかかったときは、あとから医療費返納の手続きを行いましょう。

雇用保険の終了は事業主が届け出る
健康保険から国民健康保険へ、厚生年金から国民年金への切り替えのためには、自分で手続きを行う必要があります。しかし、雇用保険などの労働保険の終了に関しては事業主が行うため、被保険者である退職者は何もすることはありません。

ただし、再就職の意志があり雇用保険の失業手当を受け取りたいのであれば、職場から離職証明書を受け取るようにしましょう。

参照元:厚生労働省「事業主の行う雇用保険の手続き」

転職したときの社会保険料の扱い方

退職後、ほかの企業に転職する場合は、無職や自営業になる人とは違った社会保険料の扱い方になります。転職時の社会保険料はどうすればよいのか解説します。

すぐに転職する場合
転職先が決まっている状態で退職し、その後すぐに転職するときは、国民年金や国民健康保険への加入は必要ありません。引き続き転職先を経由して社会保険料を支払うかたちとなります。

転職先に健康保険資格喪失証明書などの必要書類を提出し、新たな健康保険証を受け取るようにしましょう。

転職までの期間が空く場合
転職予定ではあるけれど、転職まで数ヶ月の期間が空く場合は、その空白期間は職場の健康保険や厚生年金に加入できなくなります。そのため、その間だけ国民健康保険や国民年金に加入するようにしましょう。

転職後、国民健康保険、国民年金から、職場の健康保険、厚生年金に切り替える手続きを行うようにしてください。

退職前の職場の健康保険に2ヶ月以上継続して加入していれば、退職後2年は引き続き退職前と同じ健康保険に任意継続として加入することも可能です。ただし、職場との折半ではなくなるため、負担額は2倍となります。ただし、退職(資格喪失)時の標準報酬月額が平均標準報酬月額より高い方については、標準報酬月額が平均標準報酬月額まで引き下げられるので、退職(資格喪失)時の保険料の2倍より安くなる場合もあります。

退職後、社会保険料を支払わないとどうなる?

社会保険料は職場を通じて自動的に支払っていたため、退職後払い忘れてしまうこともあるかもしれません。そのまま支払わないでいるとどのようなことが起きるのか解説します。

国民健康保険
国民健康保険料を支払わないでいると、督促状が送付され、場合によっては延滞金まで発生します。それでも支払わないと、通常の被保険者証は使えなくなり、「短期被保険者証」というものが交付されます。

事情を伝えれば、減免や分割納付も可能ですが、とくに理由なく1年以上滞納すると、被保険者証を返納し、代わりに交付される「被保険者資格証明書」を使わなければなりません。この証明書を使って医療機関を受診した場合は、医療費をいったん全額負担することになります。その後申請をすれば払い戻しを受けることが可能です。

ただし、1年半以上の滞納があると保険給付額が差し止めとなり、払戻金が滞納保険料に充当されます。

国民年金
国民年金も支払いが滞ると、納付勧奨が行われます。年金を支払えるにもかかわらず納付勧奨に応じないでいると最終催告状が送付され、それでも仕払わないと督促状が発送されます。この督促状で指定された期日を過ぎても支払いをしない場合には延滞金が発生するため、それまでに支払うか免除の申告をしておきましょう。

年金の未納期間が1年あると受け取れる年金が年間約2万円の減額となり、それが年金受給後一生涯続いてしまいます。納め忘れは2年までさかのぼって納付できるため、受給する年金を減らしたくない人はあとからでも納付しましょう。
参照元:日本年金機構「国民年金保険料を納めていない期間がある方にお知らせをお送りします」
参照元:日本年金機構「国民年金保険料の延滞金」

まとめ

雇用されている労働者の場合、社会保険料は基本的に職場を通じて支払います。そのため、退職後は自分で国民健康保険や国民年金に加入するようにしましょう。すぐに転職する場合は、転職先の健康保険、厚生年金に切り替え可能です。

社会保険料を払わないと、医療費を全額負担したり、将来受け取れる年金が減ってしまったりするため、忘れずに納付するようにしてください。