作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。今回は、梅雨でジメっとするこの季節、どのように暮らしているのかつづってもらいました。

第74回「湿気の季節を楽しみたい」

●わが家に除湿器がやってきた

湿気がすごい。髪がうねるなんてレベルではないわけですね。

一昨年も、湿気で台所のシンクの中がカビる問題について書いたけれど、この間いきなり夫が除湿機を買ってきた。いや、いきなりではないそうだ。確かに除湿機がどうだこうだと話をしていたような気はするが、上の空だったのか私はあまり覚えていない。

除湿機って思ったよりでかいんだなあ。湿気なんて夏限定なのだから私はいらないと思うけど、確かに「買っていいよ」と言ったらしい。

湿気が多いということは植物もよく育つということで、農作物にとっては恵みの季節。シンクの中でカビたものは、太陽が出たらまた干せばいいだけじゃないか。

と言っても、買ったものは仕方ない。よし、つけよう。お前の力、見てやろうじゃないの。シンクの扉を全部開けていざ除湿機のスイッチをON! ゴーッっと換気扇のような音がする。もうこの音が嫌だ。初めは、湿度70%と表示されていたが、次第に67まで下がっていった。「裸足で歩いたらじっとりしていた床がなんだかさらっとした気がする」と夫が言う。確かに、さらっとしている。これは効果ありかもと喜んでいたが…30分もすると、マシーンから排出される温かい空気で、部屋の中が段々と蒸し暑くなってきた。

私は耐えられなくなって、窓を開けようとした。

「いや、開けたら湿気が入ってくるでしょ」

「いや、開けた方が風があって絶対気持ちええわ」

しばらくの問答のあと、ガラガラガラ…私は窓を開けた。雨上がりの自然風が網戸から入ってきて、ひんやりと気持ちいい。湿度はどんどん上がって80になった。夫はため息をつく。

除湿機には、ハイブリッド式、デカント式、コンプレッサー式があるそうで、家のコンプレッサー式の除湿機はエアコンと同じく湿気を水滴にしてタンクに溜める、かなり省エネタイプのようだ。2時間もすると、下のタンクにどっさり水が入っていて面白い。なるほど、私達は魚のように海では暮らせないが、ある程度の水の中で暮らしているんだなと思ったりした。

冬場にはコンプレッサー式は弱く、デカント式が強いらしい。でも音はさらに大きいし、部屋の温度を上げてしまうらしいからどれも一長一短だ。全てを兼ね備えたハイブリッド式が優秀なようだけど、でかいらしい。ふーん。電化製品にあまり興味がないので、夫が買ったあとに色々調べて、無理やり納得する私なのだった。

●この季節は頑張りすぎず過ごしていい

私は、雨季のベトナムとかカンボジアを旅していたので、このくらいの湿気は朝飯前なのだ。向こうだと、体中に霧吹きをかけられるように肌が水滴をまとった。3日干したって洗濯ものは乾かない。でも、スコールのあとの涼しさや、自然とともに暮らす人々のおおらかさを見ていると雨は地球の恵みだと思うようになった。雨が降れば心身ともに浄化されていくようだ。

奄美大島の宿で、雨音を聞きながら一日中本を読んで過ごした旅も贅沢だった。雨のリズムに埋もれながらいつの間にか寝ていた。豪雨でなければ、雨音は子守唄のように心地よいものだ。梅雨時期は体も湿気を吸い込んで重たく、むくみやすい。そんな季節は、頑張りすぎずに過ごせばいい。

植物にとっては一番の成長期、今朝も芽を出して伸びていたトマトと柿の苗をポットから植え替えた。梅雨があけると、植え替えても植物はなかなか定着しない。今がチャンスとばかりに、愛媛の畑の方でも雨合羽を着て、苗の植え替えをする。そして、草取りをしながら大きくなるのを待つ。

昨日も雨音を聞きながら、ソファでうとうとして昼寝をしてしまった。除湿機ともできるだけ仲良く過ごそうと思う。