野町 直弘 / 調達購買コンサルタント

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前回は、調達購買業務のDXが進んでいない理由や、昨今のDXブームの中で、次第に調達購買業務においてもDXが進みつつある、ということを述べてきました。

今回は調達購買業務のDXをどう捉え、どう進めていけばよいかを中心に話を進めていきます
。先ずその前に、もう一度調達購買業務のDXについて、整理していきましょう。

前回の記事でも述べましたが、調達購買業務のDXは大きく分けて、業務プロセスを直接的にデジタル化する、取引系(実行系)のシステムと、調達購買業務を通じて蓄積されたデータを活用して、業務の効率化や付加価値の向上を図る、情報系のDXに分けられます。

取引系(実行系)DXは、ソーシングプロセスとパーチェーシングプロセスのサポートに、層別できます。ソーシングプロセスは見積を取得し、比較検討を行い、交渉の上、取引先、価格を決定するプロセスであり、企業によっては、調達プロセスとか、S2C(ソースToコントラクト)とも呼ばれます。ここをカバーするシステムは、RFxとかSRMなどと呼ばれる、サプライヤとの見積をやり取りするシステムです。

パーチェシングプロセスは、購買要求〜発注〜納品〜検収〜支払い、までをカバーするシステムで、購買実行プロセスとか、購買プロセス、P2P(プロキュアToペイ)とも呼ばれます。このプロセスのDXは、発注システムやWeb-EDIなどで、取引先と連携を行うものです。

前回も述べましたが、取引系DXは、パーチェシングプロセスの自動化を目的とした、発注システムやWeb-EDIの導入が先行しています。一方で、ソーシングプロセスについては、見積のやり取りは、未だにメールとエクセルで行っている企業が多いです。

もう一つの切り口は間接材と直接材です。直接材は一般的には、製品の構成要素である原材料や部品であり、取引の頻度も多くなります。そのため、一般的に、直接材のDXは、間接材調達業務のDXよりも先行しているでしょう。間接材調達業務のDXは、直接材の後追いで進んできました。2000年位から、多くの企業において間接材調達の集中化が進み、コスト削減効果を創出すると共に、調達業務の標準化、効率化を目的に、間接材調達購買システムの導入
が始まったのです。

一方で情報系DXは、多くの企業で未だに進んでいません。情報系DXは、ナレッジマネジメントそのものです。ナレッジマネジメントで重要なのは、情報収集、情報分析、情報活用のプロセスを如何に回していくか、になります。

調達購買業務を行うことで、重要な情報を貯める(情報収集)、それを分析(情報分析)し、使う(情報活用)ようにする、最後は活用し、効果を出していくプロセスです。多くの企業で、例えば、情報は貯まっているが、分析されておらず、活用できていなかったり、分析・活用のサイクルはあるものの、収集に手間取っており、十分な情報収集ができない、というケースが多くあります。

次に、情報系DXの情報の種類について考えてみましょう。情報の種類は大きく分けて、購入品に関する情報、サプライヤに関する情報、マネジメントに関する情報の三種類に層別されます。

購入品に関する情報は、コストやコスト明細、品番、仕様、属性等の情報です。これらの情報を収集し、コスト妥当性の評価などの分析を行い、コスト査定などに活用することで、情報系DXのサイクルを回していきます。

購入品に関する情報系DXでの課題は、収集です。通常、何を、いくらで、どこから購入するか、という情報は、購買システムで収集蓄積できますが、いくらの詳細情報(コスト明細など)や、何を買うかという情報(属性情報)は、(なんらかの形で購入品に紐づけておかないと)集まりません。

次にサプライヤに関する情報ですが、これはサプライヤの企業概要などの基本情報や、サプライヤ評価の情報などになります。サプライヤに関する情報の収集は、比較的容易です。年に一回程度、調査票などのようなもので、社内外に対して、情報収集を行って収集する方法が、一般的に行われます。

しかし、課題は、分析〜活用のプロセスです。多くの企業で、評価情報を元に課題を抽出し(分析)、それをサプライヤへフィードバックし、改善を促す(活用)ことは、できていません。また、評価情報やサプライヤの当社に対する姿勢などを(分析)し、サプライヤ戦略を作成し、様々な関係性作りなどに活かしていく(活用)ことも、多くの企業でできていないことです。

最後は、マネジメントに関する情報です。これはKGI、KPIと言ったマネジメント指標になります。具体的には、コスト削減額や率、ユーザー部門の満足度指数などが、上げらるでしょう。

KGI、KPIの課題は、収集〜分析〜活用、全てのプロセスにわたります。まず、情報収集ですが、様々なKGI/KPIを設定したが、そもそも情報が収集できない、収集するのに時間がかかる、そもそも、KGI/KPIを設定したがらない、といった課題もあるでしょう。分析についても同様で、KGI/KPIを設定し、収集しても、それを分析するのに時間がかかる、集計作業やレポート作成に時間がかかり、実績を出すのに、一カ月かかってしまう、ということも少なくありません。

活用については、KGI/KPIの目標設定〜達成状況フォロー〜評価の実施などの、一連のサイクルがなければ、改善につながらず、活用しているとは言えないでしょう。このように、KGI/KPIに代表される、マネジメントに関する指標の情報系DXは、全般的に上手くいってません。

情報系DXはこのように情報の種類と、情報毎に収集〜分析〜活用のプロセスを整備することが必要であり、この観点が欠けていることが、日本企業の調達購買業務のDXが進んでいないことの、理由の一つでした。。

次回は、特にこのような情報系DXを進めていくために、企業の調達購買部門が、どのようなことに気をつけていかなければならないか、また、調達購買DXの今後の展望について、述べていきます。