月収公開ライン工、ビジホでコンビニ飯OL…ネクストブレイクYouTuberは「日常感」がポイント - 放送作家の徹夜は2日まで

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※この記事は2021年12月13日にBLOGOSで公開されたものです

テレビとは違うスターが誕生するYouTubeの世界。かつてはラファエル、ヒカルのようにお金を湯水の如く使う勝ち組YouTuberが台頭していた時代がありました。一方、最近注目されているのは社会的には勝ち組ではないかもしれないけど、人生を楽しく謳歌するYouTuber。今回のコラムでは、そんな彼らのYouTubeチャンネルをご紹介します。

放送作家のおおたけです。既存のメディアでは現れないような切り口のYouTubeチャンネルからスターが次々と生まれてくるのがYouTubeの世界。

最近ではYouTubeからネクストスターを探すのも放送作家の仕事の1つになっています。そこで、若い頃から徹夜で鍛えられてきたリサーチ力を駆使して新時代のYouTuberを調べてみました。

手取りも明かすネガティブYouTuber『絶望ライン工』

「生きてるのつらいよ、悲しいよ、苦しいよ。絶望ライン工です」

そんなネガティブな挨拶ではじまるのが絶望ライン工chです。このチャンネルでは、39歳独身、絶望ライン工こと工場勤務の男性が支給されるお弁当や自身の給与明細などを公開しています。リア充とは対極の存在である絶望ライン工が1日のたわいもない出来事を淡々と流すvlog要素のある動画ですね。

顔出しをしていますが、声は別録りしたものを差し込み、テロップ付き。BGMもシーンに合わせて変えるといった丁寧な仕事。絶望ライン工本人が、編集をしているとすればなかなかのセンスの持ち主です。

なお本人は、YouTubeチャンネルの概要欄に「当チャンネルは1人と1匹によって運営されている」と明記しています。(1匹というのは、絶望ライン工が飼っている愛犬のこと)

『絶望ライン工』というタイトルと、どこか悲哀を感じる内容から気持ちが暗くなりそうだなと思いましたが、決してそんなことはありませんでした。

というのも、テロップがとにかく秀逸。狙いすぎない冗談が随所にあり、音楽も効果的に使用しています。印象的だったのは、『【38歳独身】派遣ライン工の一日【工場勤務】 | 東海道線・小田原へ』内の新幹線の車内で作ってきたおにぎりを食べるシーン。

3個のおにぎりを次のように表現しています。

「左からご紹介します 梅です 昆布です 塩です 三人併せて 握り飯弁当です」

「3」という共通点からアーティストPerfumeの自己紹介をオマージュし、突然Perfume風のサウンドが流れ出す中「では、かしゆかから」とたたみかけます。おにぎりとPerfumeをかけた冗談だけでなく、BGMも変えるという芸の細かさ。

フリー音源からPerfume風のテクノを探したのか、それともオリジナルで作ったものなのかはわかりませんでした。さらに、この回のエンディングでは次回の動画の予告をしているのですが、これがテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の予告編風になっており、BGMもアニメに寄せた音楽になっています。もしかすると音楽も作れてしまうマルチクリエイターライン工なのかもしれません。

やらせ!?虚構!?絶望ライン工に流れる噂

登録者数がグングン伸びる一方、ネット上では絶望ライン工chがやらせではないかという噂が流れています。確かに第三者が絶望ライン工というYouTubeで話題になりそうなキャラクターを考えて、テロップや音楽などプロが参加していると考えることもできます。それほどクオリティが高いためです。

真実はわかりませんが、どちらにしてもYouTubeでこれだけの登録者数(※2021年12月6日時点で10.7万人)がいるのは紛れもない事実です。

この問題に関して、絶望ライン工本人はこのようなツイートをしています。

「『すべて幻で実在しない』と表記せざるを得ないのかを、お察しいただければ幸いです」ともつぶやいており、脚色の是非はさておき、ある程度の演出があるのかもしれません。

ビジホでコンビニ飯を食べる姿を晒すOL『酒飲み独身ぴや子の宿泊記』

2人目はこの方

こちらのチャンネルは、普段は会社員として働くぴや子が、趣味の食い倒れ旅をYouTubeにアップするというもの。顔と声は出さず、心の声はすべてテロップで表示しています。

ポイントは食い倒れ旅の内容。インスタで見かけるキラキラ系女子とは正反対で、都内のビジネスホテルで缶チューハイにコンビニ飯を食べるのが幸せといった動画が中心です。

缶チューハイ、コンビニ飯、ビジネスホテルと聞くと、おじさんのイメージが浮かびますが主人公は女性。そしてこの方、とにかくよく食べます。スシローの持ち帰り寿司を食べるシーンがあるのですが…。

この量の食事も、お酒を飲みながらペロッと完食。

ビジネスホテルではない動画もあります。

【女一人旅】1日5組限定の小さな宿/小田原/独身女/アラサー【江の浦テラス】の動画に登場する朝食ビュッフェでも食べる!食べる!食べる!

コント動画の再生回数が伸びなかった渡辺直美さんがすっぴんでご飯を食べるだけの動画をアップしたところバズったり、サンドウィッチマン伊達さんがカツ丼を食べているだけの動画は151万回再生を記録したりと、人間がもぐもぐと食事をする動画は人気です。

ぴや子さんの場合は、顔と声は出していないため食レポとしての情報量は少ないのですが、飾らない場所で飾らない食事を取るのがウケたのでしょう。

もう1つのポイントは、コミュニケーションが豊富な点。YouTubeはコメント欄やチャットで視聴者とメッセージを通じた交流ができます。

ぴや子さんは、コメントでのコミュニケーションが活発。丁寧なメッセージのやり取りはもちろんのこと、プレミア公開でチャット欄にもご本人が登場。視聴者と楽しくチャットで会話しています。このようなコミュニケーションの取り方は、かつてラジオの強みだったのですが、今はYouTubeやSNSで手軽にできるようになりましたね。

妻と娘にモテたい夫のクッキング動画『筒井チャンネル』

3人目はこちら

「妻と娘にモテたい」という一点突破のコンセプトで、夫であり父である筒井さんがクッキング動画を投稿しています。

いわゆる男の料理のレベルを超えた華麗な手さばき。妻と娘にモテるがコンセプトのため、「こんな手料理を自宅で食べられたら幸せ」と思わせるプロ並みの料理が並びます。

料理のクオリティはもちろんですが、流れるテロップが秀逸。家庭内における妻と娘の地位を高くし、自らを下げる。夫の鏡とも呼べる家庭内ポジショニングから繰り出される哀愁あふれるテロップにご注目ください。

サラリーマンが出勤前に作る朝ごはん【卵チャーハンと唐揚げ】

朝から晩ご飯のようなメニューだなと思って動画を見ると、その理由がテロップに綴られています。

「昨日は妻と喧嘩してイライラしています。なので今日は妻への復讐として朝から唐揚げとチャーハンを食わせます。俺を怒らせるとこうなるって事を思い知らせてやるぜーー!ヒャッハーー!!」

はい、センス抜群。

復讐という言葉は強いですが、復讐の手段が手料理というギャップがあります。その優しさにほっこりするのでしょう。

2015年に話題となったエッセイ『今日も嫌がらせ弁当』。2019年には篠原涼子さん主演で映画化された作品で、反抗期の娘への仕返しとして、あえてキュートなキャラ弁を作るというものでしたが、どちらも復讐が愛に溢れているという共通点がありますね。

動画タイトルの付け方が秀逸だなと感じたのは「サラリーマンが出勤前に作る朝ごはん」。こちらはシリーズ化されて、卵ホットサンド、キーマカレー、炊き込みご飯など書き出したらキリがないほど。

忙しいサラリーマン、それも一般的に料理が苦手とされがちな男性(古い考えではありますが)が出勤前のわずかな時間を使ってどのような朝食を作るのかと思いきや、サムネを見てびっくり!料理の腕前が超一流、もしくは前日の夜に必死に仕込んでいないと作れないようなクオリティです。

これだけの料理とYouTubeの再生回数で得たお金で妻と娘にはすでにモテているとは思うのですが、そのスタンスは崩しません。ここがミソであり、今回ご紹介した3者の特徴だと感じています。

3者の共通点は自虐であり、ウイークポイントをさらけだすことで人気となっているように感じました。特に『絶望ライン工ch』と『酒飲み独身ぴや子の宿泊記』は、いわゆる勝ち組ではない人たちが主人公。キラキラしていない日常を綴るvlogスタイルです。

視聴者からすれば動画で大金を得たYouTuberよりも、自分たちと同じような境遇の人を見て、共感したり癒やされたりしているのではないでしょうか。

インフルエンサーといえば、キラキラした生活の切り売りをする印象が強いですが、紹介した3人はどんな生活環境、社会的立場にあっても発信することで人生を楽しむことができるということを伝えている気がします。

一方で、人気を得たことで収入が増え、これまで通りの立ち位置で動画投稿することに矛盾を感じる点もあります。私は性格がねじ曲がっているからそう思うのですが、テレビの大家族密着番組で、とても有名になったにもかかわらず家電の1つも変わっていない時に「あれ?」と感じてしまうことがあります。

それと同じようにYouTube効果で富と名声を得ても、これまで通りのスタンスを貫くのか、新たなストーリーを紡いでいくのか。それも含めて楽しめるところがYouTuberの魅力なのかもしれません。