※この記事は2019年04月24日にBLOGOSで公開されたものです

「子どもの命よりも、学校関係者のほうが大事なの?」。いじめ防止対策推進法の改正案が議論されている。同法は、附則で「施行後3年を目処」に、施行状況を見ながら、改正をすることになっていたが、2013年6月の施行からすでに6年が経とうとしている。超党派の国会議員による勉強会(座長・馳浩衆議院議員)で関係者のヒアリングを行った結果、座長試案が示された。しかし、その内容が12月段階に示されたものから大きく後退したとして、いじめ自殺遺族らの有志が座長試案に反対。意見書を提出した。

現行法と12月案、座長試案の対照表(会見資料)
https://shibutetu.files.wordpress.com/2019/04/ijime.pdf

馳座長に意見書に名前を連ねたのはいじめ自殺遺族やいじめ被害者家族ら43人。また、同法成立のきっかけにもなったいじめ自殺事件のあった大津市のいじめ対策推進室も同席し、市としての意見書を提出した。小西洋之参議院議員にも面会をした。その後、遺族らは文科省で記者会見おこない、12月段階の案に戻すよう訴えた。

「現場が萎縮する、教師の仕事が増えるとの声を鵜呑みにしないで」

大津市いじめ自殺の遺族らによると、試案は、学校関係者からのヒアリングを元にしたものだが、具体的には、数カ月以内の、全国の小学校、中学校、高校の校長会でのヒアリグだった、という。

「望んでいた12月の案が、座長試案によって大幅に削除された。子どもたちの代弁者として強く反対し、意見書を提出した。遺族や被害者家族としては、昨年末までの条文案のイメージがあり、賛同していた。しかし、馳座長は、全国の小学校や中学校、高校の校長会でのヒアリングをし、急変したかのように大幅に削除した。12月の案通りだと、現場が萎縮するとか、教師の仕事が増える、というのが理由だというが、本当にそうなのか。鵜呑みにするのではなく、確認してほしい。12月案のもとで、しっかりとしたガバナンスができるし、担任教師に押し付けることなく、子どもと向き合うことができるはずだ。(現行法のもとでもいじめ自殺が起きているが)多くの命を奪った現行法と変わらない法改正では意味がない」

意見書では、「現行法下では多くの規定が努力義務で留まっており、そのために学校関係者によって放置された子どもたちが自殺に追い込まれ、学ぶ権利を奪われた被害児童が学校に通えないで苦しみ悲惨な事件が多発している」「学校関係者である大人たちが現行法下で子どもを守らなかったことが、これら悲惨な事件を生み出していることはこれら事件の根本的な背景であることは間違いない」とした上で、具体的な指摘をしている。

いじめの定義の限定解釈を禁止する項目が削除

例えば、いじめの定義について。「児童等が心身の苦痛を感じている行為には、児童等に心身の苦痛を与えるものと認められる行為を含むものとする」(第2条第2項)や「これらの規定に規定するいじめの定義を限定して解釈するようなことがあってはならない」(同第3項)が削除されている。

学校の設置者等の責務については、「教育委員会の教育長及び委員並びに教育委員会の事務局の職員は、いじめの防止等に関する法令、基本的な方針、通知等の十分な読解を通じてこれらに精通し、これらに関する正しい理解の下に適切にいじめの防止等に関するその職務を行わなければならない」とされていた。ところが試案では、「正しい理解の下に」は「十分に理解し」と弱い表現へ変更され、文末も「職務を行うものとする」と、義務規定ではなくなっていた。

学校、校長及び教職員の責務も「学校の教職員は、いじめを受けた児童等を徹底して守り通す責務を有し、いやしくもいじめ又はいじめが疑われる事実を知りながらこれを放置し、又はいじめを助長してはならない」と記述されていたが、削除された。いじめの中には、スクールカーストを教師が形成・利用することで、クラス内のいじめを煽ったりする例がある。また、いじめを放置することで、深刻さが増す事例もある。そうしたことを禁止する条文が削られた。

記録の作成や保存は「いじめの発生後」のみ?

いじめに関する記録の作成及び保存については、「学校によるいじめの防止等に関する措置について、経緯を含めた措置の過程を跡付け、又は検証することができるよう」とあった部分が、試案では、「学校によるいじめに対する措置について検証することができるよう」となっている。12月案では、いじめが起きるまでの学校の対策も検証できるが、試案ではいじめ発生後のみの記録と読めてしまいかねない、としている。

中立かつ公正な調査については、調査委員会の設置に関して、12月案では「利害関係のないものでなければならない」としていたが、試案では「調査を行う組織の委員に利害関係のないものを2名以上含めなければならない」としている。これは、2人以外は、利害関係者でもよい、とも読めるため、大津市いじめ自殺遺族は「後退以外の何物でもない。なぜ、わざわざこう変えたのか?」と困惑を隠せない。

懲戒処分の削除に、遺族・被害者家族が反対の声

また、地方公共団体の長による調査についての項目が削除された。そもそも学校や学校設置者は当事者になる可能性が高く、学校等が不利益になることを積極的に明らかにすることは考えられない。市町村長や都道府県知事に対して、当事者や保護者が学校等の対応が不服がるときは、市町村長や都道府県知事に対して調査の申し立てができるようにするという内容だった。国立学校に関しては、文部科学大臣に対する意見書の提出が同様の項目としてあったが、同じく削除されている。

いじめを放置し、助長するなど、法律の規定に反した教職員に対する懲戒規定も削除された。この規定の削除については、会見に出席した遺族や被害者家族から最も懸念の声が多かった。川口市のいじめ被害者家族は「川口市は、国や県から指導されていたにもかかわらず、誰一人処分されずにいる。子どもたちは犠牲になるだけ」と発言。新潟工業高校いじめ自殺遺族は「息子の件に関しては懲戒処分があったが、元校長はすでに退職になっていたために、懲戒の意味はない。反省もしてない。いまだに逃げている」と怒りをあらわにした。茅ヶ崎市のいじめ被害者家族は「(子どものケースも)懲戒処分はあったが、担任にすべての責任を押し付けた形だ。教頭、校長になるにしたがって処分は軽くなっていった。一般企業とは真逆。処分はあるべき」と述べた。