子どもの貧困が原因、給食が食べられず休み明けに痩せて登校する子どもたち - BLOGOS編集部
※この記事は2019年04月22日にBLOGOSで公開されたものです
夏休みには両親の田舎に家族で帰省、冬休みには家族でスキー。幼い頃、楽しかった思い出として多くの人の記憶に残る長期休暇ですが、その裏でひっそりと「つらい」「早く休みが終わって欲しい」と感じる子どもたちがいます。
いま、日本では子どものうち7人に1人が貧困状態とされ、その数は約300万人。
給食がなくて痩せてしまう、休み明けに友達の楽しそうな会話に入れないーー。厳しい環境の中で育つ子どもにとって長期休暇は「課題」だといいます。子どもたちを取り巻く現状について日本財団こどもの貧困対策チームリーダー、本山勝寛さんにお話を伺いました。【石川奈津美】
長期休暇明けに痩せて登校
いま、日本では子どものうち7人に1人が貧困状態にあるといわれ、その数は約300万人(1~18歳)に上っています。そうした環境の中で育つ多くの子どもにとって長期休暇は「課題」です。
例えば夏休みは約40日ありますが、休み明けにかなり痩せて学校に戻って来る子がいます。
貧困状態にある子どもにとって、「毎日お昼だけでも給食を取る」ということはとても大切です。普段から朝ごはんを食べない、夜ごはんも、食べていてもカップラーメンや菓子パン、良くてコンビニのお弁当など、栄養バランスが取れていない子が多い。1日の中で給食だけしか食べない子もいます。
また、長期休暇がきっかけで不登校になることも珍しくありません。子どもの場合は家庭の習慣に影響を大きく受けるので、親が夜に働いてたり、かなり遅く帰ってきたりする場合、子どもも夜型になります。学校に通っていた時にはできていた「朝起きて、日中活動して、夜寝る」という基本的な生活習慣が失われてしまうことで朝きちんと起きれなくなり、学校に行けなくなってしまいます。
「ご飯をまったく食べられない」「学校に一切来ない」といった深刻なケースになるとネグレクト(育児放棄)が疑われ、児童相談所に相談がいきますが、件数としては全体からみるとごくわずかです。
最低限生きていけるだけの食事を用意されれば、「なんとか生きていける」。その場合、通報に至ることはないので、子どもたちが置かれている状況には周囲の人たちも気づきにくい。「長期休暇明けに痩せてしまっている」というのは、そうした目に見えにくい子どもの貧困の一つの表れだと思います。
こども食堂は根本的な解決にはならない
近年、貧困家庭も意識しながら地域の子どもたちに食事を提供する「こども食堂」の取り組みが広がっています。ただ、子どもたちの状況を根本的に解決できるわけではないというのが現状だと思います。
まず、こども食堂の数と頻度の不足です。こども食堂の数は全国で約2300カ所ですが、自宅から子どもが歩いていける距離に必ずしもあるわけではありません。
また、ボランティア中心で行なっているので、実施回数も月に1~2回が平均です。今回のGW期間中にも実施するところはあると思いますが、10連休のうち毎日開けるわけではないので、こども食堂が子どもたちの食事をすべてカバーするには限界があるでしょう。
また、現在、こども食堂は広報・告知方法として「誰でも来てください」と謳い、チラシを配ったりSNSやHPに掲載したりしていますが、主催者たちからは「どこに本当に支援が必要な子どもがいるかわからない」と悩む声をよく聞きます。
様々な子がくるのはとても良いことなのですが、ただ、本来の目的として地域の中にいる本当に支援が必要な家庭の子どもたちに支援を届けなきゃいけないですし、そういう子たちに来てもらわないといけません。
学校や行政側は支援が必要な家庭がどこに住んでいて誰なのかを把握していますが、こども食堂の運営団体の多くは任意団体のため、簡単に個人情報を提供したり子どもを紹介したりするわけにはいかないというのが実情です。
そのためにも、こども食堂は開催頻度を上げるとともに、NPOや社会福祉法人など法人を設立したり、保健所に登録したりするなど責任体制を整え、行政との連携を深めていく必要があるでしょう。行政側も子どもたちの支援をボランティアの善意任せにするだけではなく積極的に働きかけていくことが求められていると思います。
休み明けにクラスメイトの会話に入れない
子どもたちの間にある格差は、単に「お金がなく塾や習い事に行けない」ということから生じる学力の差もあるのですが、もうひとつ顕著にあるのは、例えばお出かけや旅行に行ったことがあるかどうかや、博物館美術館に行ったことがあるか、親子でキャンプに行ったことがあるかなどの「機会の格差」です。
実はこうした経験は子どもたちの成長にとってとても重要です。
これらはいわゆる非認知能力と言われています。学校のテストの点数だけは表されないような「好奇心」や「やり抜く力」「物事を前向きに捉えたりする力」はこうした体験によって培われますが、貧困状態にある子どもたちはその大事な機会が足りていません。
夏休みやGWなどの休暇明けにはクラスの中で「キャンプに行った」「遊園地で遊んだ」という会話で盛り上がることでしょう。そこに入れない劣等感や疎外感を感じた場合、非認知能力のひとつで全ての力の基礎にもなる自己肯定感が著しく低下します。
「どうせ自分はダメなんだ」「うちは貧乏だからできない」という思いは、「勉強しても意味ない」「頑張っても無意味なんだよ」とネガティブな思考を作ります。結果として、成長して大人になったとき、何か仕事をしようとしても続かなくなってしまいます。
日本財団は、様々な困難を抱える子どもたちに居場所や生活・学習支援を行うため、「第三の居場所」と名付けた拠点を運営しています。2年間半で、全国で15カ所まで取り組みは広がっています。この施設に通う子どもたちと話していても、キャンプや旅行にはこれまで行ったことがないという子どもたちばかりでした。
そのため、この冬休みにいただいた寄付を活用し、県を越えてテーマパークに行くという親子旅行を施設で企画しました。子どもたちは「初めての旅行でうれしい」と喜んでいました。今回のGWでも、期間中どこか1回でも特別なとこに行くという機会を提供していけるよう準備を進めています。
子どもの貧困を放置した場合42.9兆円の社会的損失
子どもたちを貧困状態から救うというのは、単に福祉的な側面だけにとどまりません。2015年末に日本財団が発表した調査研究では、子どもの貧困を放置した場合42.9兆円の社会的損失に上るという推計結果が得られました。
つまり、子どもが成長して納税者として社会に経済的にも利益をもたらすのか・そうではなくなるのかということは社会にとっても大きな影響を与えることになります。その意味でも社会の中で貧困対策をしっかりと制度化していく必要があります。
情報化やグローバル化が急速に進み、目まぐるしく変わる社会の変化は今後も続くでしょう。そうした中、非認知能力はこれからの時代を生きる子どもたちに、より求められる力になっていきます。
教科のテストが測る「認知能力」は、見えやすい教育格差としてこれまでも社会のなかで認識されていました。
一方で、これから益々必要とされる非認知能力は、家庭の教育力に大きな影響を受けながら、子どもたちが身につけていくことになります。結果として家庭ごとの格差を生み出しますが、テストで測れない分、あまり社会的に注目されてきませんでした。しかし、非認知能力の見えづらい格差は、子どもが大きくなった時の所得の差へとつながっていきます。
今回のGWといった長期休暇はそうした格差社会の広がりを助長するひとつの象徴です。
もちろん「子どもは家庭で育つのが一番」は理想です。しかし、現実としてはそれだけでは子どもたちが健やかに育つのに十分でないケースがかなり増えており、それを保障するような社会になっていないのが今の日本社会です。
日本財団は、今後、全国で第三の居場所を100拠点作ることを目標としています。この拠点をモデルとして大学研究者と連携し調査を行い、子どもの認知能力に加えて、自己肯定感など非認知能力の改善などをデータとして検証していきます。
こうした非認知能力の低下は所得の格差につながることは海外の研究では明らかになっていますが、日本国内でも客観的なデータとして可視化させることで、子どもの貧困対策における国への政策提言を行い、貧困の連鎖を断ち切るためのきっかけにつなげていきたいと考えています。