※この記事は2019年04月20日にBLOGOSで公開されたものです

政府が「就職氷河期世代」の呼び方を「人生再設計第一世代」という呼び方に変えることに決めたようだ。

4月10日に開かれた第5回経済財政諮問会議で、就職氷河期世代を人生再設計第一世代として、今夏から約3年間の集中支援を行うことが検討されたという。(*1)

さて、呼び方はともかく、就職氷河期世代に集中支援を行うと言っているが、それは本当だろうか?

多分、本当だろう。そしてこれまでと同じように、ロクな成果もなく撃沈して終わるのだろう。

記事(*1)にもあるが、これまで国は就職氷河期世代に対して、決して無策だったわけではない。雇用助成金などを中心に、就職氷河期世代の雇用を促進しようと頑張って来たのである。

しかし残念ながら、その対策は結局は実を結ばなかった。

就職氷河期世代がまだ20代後半や30代の頃、企業は雇用助成金を得るために一時的に雇っては自己都合退社ということでポイ捨てを繰り返した。いうなれば少し処分するのが面倒なキャッシュカード扱いである。

今は多少は助成金を審査する側もうるさくなっているのだろうが、それはそれで助成金の利用を遠ざけるだけの結果となり、就職氷河期世代が40代になった今、助成金目当てですら就職氷河期世代を雇おうとする企業はなくなってしまった。それが予算に比して、あまりに低い利用率となって現れているのである。

結局の所、企業が自ら「就職氷河期世代を雇おう」という珍奇な目標でも掲げない限り、わざわざ就職氷河期世代を雇おうとなどしないのである。

それを考えれば、雇用助成金など、企業にカネを渡すことで、雇用を確保しようとする方法が失敗するのも当然であろう。

結局のところ「企業の良心」や「企業のお情け」を期待して政策を打ったところで、企業だって営利で動いているのだから、儲からないことはやらないというだけの話である。なので、政府がいくら「集中支援」とやらを行ったところで、同じ失敗を繰り返すのは目に見えている。

この「人生再設計第一世代」という言葉自体も、その失敗を見据え「どうして政府は不況の被害者である就職氷河期世代の雇用を促進できないのか」という政府責任としての批判を産むことを避けて、「どうして政府が手を尽くしているのに、人生再設計第一世代は人生の再設計をできないのか」という自己責任としての批判にすげ替えるための言い換えであることは言うまでもないのである。

さて「人生再設計第一世代」の再設計が失敗するのは当然として、本来であれば人生を再設計しなければならない本当の世代がいたはずである。

就職氷河期世代は、社会に出たときに不況であったことから、就職がうまく行かず、履歴書が汚れ、それ以降の苦労を余儀なくされた世代である。

ならば本来、人生を再設計しなければならなかったのは、就職氷河期世代が社会に出た際に、すでに社会に出て、バブル崩壊や不景気に責任を負うべきにも関わらず、ぬくぬくと正社員の椅子に座り続けた世代なのである。

彼らから正社員の椅子を引き剥がし、不況を生み出したその結果として、正しく露頭に迷わせ、人生を再設計させることだけが、その後の日本をまっとうな経済成長へ、もしくは国民が安心して生活できる社会へ導くために、日本人ができる唯一のことであったと言っていい。

しかし、その好機はとうの昔に過ぎ去ってしまった。

それどころか「氷河期のような苦労はしたくない」「正社員の椅子でぬくぬくしたい」という欲望が下の世代に蔓延し、これまでのぬくぬく世代が退社した椅子を、次の「新ぬくぬく世代」が占拠。これを「自民党政権による経済成長の恩恵」などと勘違いしている現状である。

「人生再設計第一世代」という言葉に対するTwitterの反応を見ていたら「第一世代ということは、その後に第二世代や第三世代が生まれるのか?」という疑問を呈している人がいた。

これは実にいい疑問である。

日本社会は不況を経た結果「人々の生活を不況が来ても揺るがないように社会保障を強化する」という結論に至らず「不況は自己責任であり、割りを食った世代は放置」という結論に至ってしまった。

そうである以上、次にまた長期的な不況が日本を襲った場合に、そのときに社会に出た不幸な世代が「人生再設計第X世代」と呼ばれるようになるのである。

そのときにこそ、人生再設計第X世代が正しく、ぬくぬく世代から椅子を取り上げる事ができる社会であってほしい。次の好機にこそ、日本社会を正しい方向に導いてほしい。

僕自身も、せめて次の再設計世代が動きやすいような爪痕を、少しでも多く残して消えるつもりである。

*1:政府が「就職氷河期」を「人生再設計第一世代」に変更!「バカにしてる」と怒り爆発(エキサイトニュース)https://www.excite.co.jp/news/article/Weeklyjn_18408/