※この記事は2019年04月18日にBLOGOSで公開されたものです

新たな元号「令和」が導入される5月1日。この前後では10日間にわたる大型休暇の時期が訪れる。従来のゴールデンウィークのように、観光地は人であふれ、交通渋滞も発生しそうだ。

ゴールデンウィークや夏休み、年末年始は休みがとりやすい一方で、いざ旅行に出るとなると、宿泊費用や航空運賃などが高くなったり、人混みにもまれたりする。閑散期にゆっくりと、低額で家族旅行を楽しめたら、どんなに良いだろう?

そんなことを考える親は日本だけではない。イギリスでは、子どもに学校を休ませて旅行に出かけた親に対する罰金の件数が急増している。学期中に勝手に休みを取らせてしまうのはご法度だが、あえてこれを実行する親たちがいる。

「校長の許可なしに子どもを休ませた」罰金の支払い件数が前年より93%増

教育省によると、英イングランド地方で子ども(5歳から15歳)の通う学校の学期中に休暇を取らせた親に対する罰金の件数は22万3000件に上った(2017-18年)。前年よりも93%の増加で、ほぼ倍増と言える。

イギリスでは親は子どもに教育の機会を与えることが義務化されており、学校に「定期的に通学させない」行為は違法だ。ただし、校長が「例外的な状況」と判断したときは別である。

子どもの学期中、親が校長の許可なしに学校を休ませた場合、地方自治体は子ども一人につき60ポンド(約8600円)の罰金を科すことができる。罰金通知から21日以内に支払われないと、金額が120ポンドに増え、28日以内に支払いがないと、親が訴追される。

「罰金を払ってもお釣りがくる」という親の声

実際に子どもに学期中の休暇を取らせた親の声を拾ってみよう。

イングランド地方南部マーゲートに住むジェイン・リンチさん(37歳)さん。夫とともに保育業界で働いているリンチさんは、子どもたちを連れた旅行を計画するときに、罰金の支払いも費用の中に入れているという。

みんなが休みを取るときに旅行すれば、「費用は2倍になる。だから、罰金を払ってもお釣りがくる」(BBCニュース、3月21日)。 「学校の試験期間の前後に休ませることはない」という。それに、「1年に1回、学期中に休ませるからと言って、学業にそれほどの支障が出るとは思えない」。リンチさんは、これからも罰金を払いながら、家族旅行に出かけるつもりだ。

ヘザー・スワインさんは、イングランド地方北部リンカンシャー州に住むシングルペアレントで、2歳と13歳の子どもを育てている。生活はかつかつで、「みんなが休みの時に旅行に出かければ、衣食住に支障が出る」(BBCニュース、昨年3月16日)。2017年、週末と前後の日にちを利用して、3人でアメリカに旅行した。

学期中だったので、費用は752ポンド(約10万円)。もしこれが休暇中だったら、「2500ポンド(約36万円)以上になる」。学期中に休暇を取らざるを得ない場合も、「例外的な状況」の中に含まれるべきとスワインさんは考えている。

筆者の隣人で、中国から来たリーさん。夫は大学で教えている。娘はようやく3歳になったばかりで、地元の私立の保育園に週に3日、通わせている。年齢的に先の罰金対象にはならないが、中国への里帰りには「一般的な休暇の時期を避けるしかない」という。

年末年始に帰ろうとしたところ、「親子3人で飛行機代だけで7000ポンド(約100万円)相当になると分かって仰天した」。中流家庭のリーさん一家だが、それでも大きな負担だった。閑散期に行けば、かなり減額できるという。

罰金件数急増の理由とは

校長からの認可なしに、学期中に子どもに休みを取らせ、罰金を科せられた総数は26万件。このうちの22万3000件が休暇目的での休みだった。

後者が前年から急増した理由の一つが、学期中の欠席が認められる「例外的な状況」の定義のあいまいさがあると言われている。

2013年まで、規則ははるかにゆるやかだった。出席率が高い生徒は、学期中に最長2週間の休暇を取ることが許されていた。しかし、その後、家族や親しい人の葬式や宗教上に重要なイベントに出席するなどの例外を除き、学期中の休暇は取れないようになった。

しかし、規則の厳格化にも関わらず、親の一般的認識として「2週間の休暇」が「権利」として受け止められるようになったと言われている。

最高裁で戦った父親

子どもを学期中に休暇に連れて行く権利をめぐって、最高裁まで戦った父親がいる。

2015年、米フロリダ州にあるディズニー・ワールドに娘を連れて行こうと決めたジョン・プラットさんは、娘の出席率が90%以上であったことを背景に、7日間の休暇申請届を学校に出した。この時、プラットさんはすでに規則が厳格化され、出席率が高ければ一定数の休暇を取れる仕組みがなくなっていたことを知らなかった。

120ポンドの罰金を科されたプラットさんは、訴訟を起こした。子どもの休暇申請のために学校と地方自治体に提出させられた書類には、休暇を取るために休めば罰金が科されることは明示されていなかったという。

下級裁判所で有罪となったプラットさんは、最高裁に上訴した。しかし、2017年6月、裁判官はプラットさんを規則違反で有罪とし、今度は2000ポンドの罰金を科されてしまった。

2013年に学期中に休みを取る規則が厳格化されたとき、親の反応は芳しいものではなかった。試験に影響を及ぼさない期間に、限られた日数を早い段階で休ませる権利を親が持つべきではないか、と。「一体、何が問題なのか」という考え方だ。

教師の労働組合も家族連れで休暇に出かけることには「文化的・社会的意義」があり、高額な旅費や宿泊費を負担できる家庭だけがこれを利用するようであってはならない、としている。地方自治体協会もこれに同意し、ケースバイケースで運用するべきとしている。

しかし、それぞれの地方自治体によって、学期途中の休みを許すのか、許さないのか、どれほど許すのかといった対応が異なるのが現状で、今後もしばらく混乱が続きそうだ。

休暇期間中に急激に費用を上昇させる旅行業界にも、責任の一端があるという人もいる。

筆者の生活感覚からすると、イギリスではもし学期中の休みについて厳格な規則がないと、「なし崩し」になる可能性があり、規則があること自体は責められないと思う。

しかし、いくつかの具体例でも分かるように、低所得層の家庭事情と深く結びついている問題もあり、「情状酌量」で罰金を科さない方向に行くべきではないかと思っている。

罰金が地方自治体に行くのも、ひっかかる。例えば、イギリスでは路上駐車で違反行為があった場合(指定の場所・時間帯以外に駐車した、駐車料金を払わなかったなど)、該当する地方自治体が罰金を科す。こうした罰金から得る収入が馬鹿にできないほど大きいと聞いている。

「駐車違反を取り締まる」のが目的ではなく、「違反者を見つけ、罰金収入を得ること」が主眼になっているのである。学期中の休みに対する罰金も、件数の上昇で地方自治体が利を得る結果となっている。

罰金件数の急増は、「通常の休みの間に巨額を払えない・払いたくないが、子どもに何とか旅をさせたい」親の悲鳴にも見えてくる。

小林恭子(こばやし・ぎんこ)

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(英国ニュースダイジェスト)、「欧州事情」(メディア展望)、「最新メディア事情」(GALAC)ほか多数  Twitter: @ginkokobayashi