悪いことは言わない ちゃんとした保育士を呼ぶべきだ - 赤木智弘
※この記事は2019年03月24日にBLOGOSで公開されたものです
自由民主党が、子育て中の議員のための「託児ルーム」を党本部に設置することを決めたという。
しかし、託児ルームに保育士はおらず、議員秘書らが面倒をみる仕組みだという。(*1)
このニュースの結論を先に言うと「保育の仕事を舐めるな」という言葉にしか至らないだろう。
議員秘書は議員の仕事の手伝いをするために務めているのであり、議員の子供の保育のために務めているのではない。
というか、議員の子供を保育するという仕事を、保育の素人である議員秘書ができると思っている時点で、保育の仕事を不当に見下しているのである。
例えば僕自身も、スーパーや肉屋でトンカツを買ってきて、それをカツ丼に調理して食べることはある。
自分のための調理であるから、玉ねぎが生煮えでも、玉子に火が通り過ぎてても、特に文句を言わずに食べる。というか文句を言う先がない。自分で作った料理を自分で食べて不味ければ、それは自分で受け入れるしかないわけだ。
しかし一方で、他人にお金を払って作った料理が不味ければ、文句の1つも言いたくなるだろう。そして実際、文句を言う人もいる。
保育の仕事もそれと同じである。自分の子供を自分で育てる上で、不注意で子供が骨折などの怪我を負ったとしても、その親は自分をいちいち非難したりはしないだろう。
しかし、幼稚園や保育園に預けた子供が、怪我の1つもすれば、その親はいくらでも文句を言うことができる。そして何より保育士自身が、子供の怪我を防げなかったことに、大きな心の傷を負ってしまう。
だからこそ、保育士たちは預かった子供たちに怪我などの問題が発生しないように、ひたすらに気を配って、責任ある仕事として子供たちを見ているわけだ。自分の子供ではなく、他人の子供だからこそ、自分の子供よりもしっかりと気をつけて、子供の安全を守らなければならないのである。
自分の子供を育てることと、他人の子供を預かること。それは全く別のスキルである。
他にも、議員秘書と議員という関係性にも、大きな問題がある。
2017年に当時自民党の衆議院議員であった豊田真由子議員が、議員秘書に対する暴言を繰り返したことがマスメディアに取り上げられ、自民党から離党したという問題があった。
今回の託児ルームは議員秘書が面倒をみるということだが、明確な権力関係において、議員の下にある議員秘書が、その議員の子供を預かっているときに、もし怪我をさせたとしたら、果たしてどのような問題が発生するのだろうか。想像するに、恐ろしい結果を生むことにしかならないのではないかと思う。
そして何より、議員秘書には議員の仕事を手伝うという最も重要な仕事があるのだから、その仕事をないがしろにしてほしくはない。
職場が働く人たちの子供の面倒をみようとすることは、決して悪いことではない。
しかし、多くの人が自分の子供の面倒をみることができるとは言っても、そのことと他人の子供の面倒をみることは、全く別の話である。
餅は餅屋という言葉もある。
せっかく託児ルームを作るなら、議員秘書が面倒をみるという雑なものではなく、ちゃんとした経験のある保育士を雇い、議員が安心して子供を預けられる環境を整えてもらいたい。
*1:自民党本部に「託児ルーム」(時事ドットコム)https://www.jiji.com/jc/article?k=2019032200651