不妊の48%は男性が原因という衝撃 吉川雄司さんが夫婦で読める妊活本「妊活大事典」への思い語る - BLOGOS編集部
※この記事は2019年03月12日にBLOGOSで公開されたものです
不妊治療に取り組んだことのある夫婦は5.5組に1組で、「不妊治療大国」と呼ばれる日本。体外受精で生まれる子どもは約5.5%、18人に1人の割合にのぼる。
世界保健機関(WHO)の調査によると、不妊の原因は「男性のみが原因」「男女ともが原因」を合わせると48%にもなるが、不妊原因の約半数が男性側にあることはあまり知られていない。
珍しくない男性不妊にも関わらず、男性不妊患者を診察できる専門医は非常に限られており、治療内容や患者の悩みといった実態はわからない。そればかりか「精子は溜めたほうが良い」といった噂話や迷信など根拠のない情報もいまだに多く出回っている。
そんな中、妊活・不妊治療の正しい知識を社会に普及させようと挑戦する29歳の男性がいる。ヘルスアンドライツの代表取締役・吉川雄司さんだ。若い男女向けに性教育イベントを開くほか、今年1月末からは夫婦向けの妊活・不妊治療本「妊活大事典」の出版を目指しクラウドファンディングに挑戦している。吉川さんに活動に込める思いを伺った。【取材:石川奈津美】
学校では子作りの仕方を教えてくれない
吉川さんは昨年1月、不妊治療支援事業を運営する同社を創業した。現在は産婦人科医など専門家とタッグを組みながら、若い男女を対象とした性教育イベントの開催や、不妊治療の記録管理ができるアプリの運営などを行っている。
吉川さん自身も、両親の不妊治療の末に生まれた子どもだ。吉川さんは「母が僕を産んだのは30年前のことなので、今よりもっと医療は発達しておらず、当時は排卵誘発剤を服用して、薬用酒を飲んで、ヨガをして…といったものだったそうです」と話す。
起業のきっかけは、大学を卒業後、消費財メーカーの営業や人材紹介会社の新卒採用支援事業のコンサルタントとして働く中で、深刻化する日本の少子化に問題意識を感じるようになったことだった。
「少子化の原因として晩婚化や晩産化が言われる一方で、自分の周囲にいる20~30代の友人たちから『避妊をやめたらいつでも子どもがすぐできる』といった声を聞くなど生殖に関する知識が不足していることに気づきました」
「学校では避妊の大切さを学びますが、じゃあどうしたら妊娠をするのかということは先生からは教わらなかったので、勝手に思い込んでしまっていたんですね。『僕たちは子どもの作り方を知らずに大人になっている』と思いました」
男目線で書いた「夫の不妊バイブル」
吉川さんが昨年8月、男性向けの不妊治療情報をまとめた『夫の不妊バイブル』をネット上で発表すると、TwitterなどSNSを中心に一気に拡散。約1ヶ月間でダウンロード数は1万件を超えた。公開をやめた今でも月に数件、問い合わせがあるほどだという。
【図解】不妊治療でこれから二人が向き合うこと#夫の不妊バイブル お待たせしましたぁぁぁああ ٩( 'ω' )و
- 吉川雄司@不妊治療アプリたまのーと (@UG_0117) 2018年8月20日
夫婦で読んでくださいb
以下より無料ダウンロードできますᾝ9♂️
1スマホ閲覧https://t.co/br0f3voHS5
Ὅc印刷用https://t.co/YQkePHxurl #全国の夫婦に拡散RT希望
画像に説明あり↓ pic.twitter.com/dSxZrj2F1K
「“夫の不妊”と男性目線で書いたきっかけは、相談を受ける中で女性から、『夫が全然協力してくれない』『知識がなくてイライラする』という不満の声を聞いていたことでした。でも、妊活や不妊治療に関する本を実際に手に取ってみると、『男はあまり読む気にならないな…』と思ったんです」
「書店に並ぶ本でも、妊活・不妊治療関係のものは明らかに女性だけを意識しているものでした。表紙もピンク色の本ばかりで、内容も『OLが女医のアドバイスのもとで授業を受けながら学んでいく』ようなものだったり、妊娠しやすい体づくりのための食事やヨガについてだったり。男性向けの本を調べると不妊治療に関する専門書はあるのですが内容が難しい。一般向けに発信されているものは、ほぼゼロだと思いました」
そしてそれは、書籍に限らずメディア全体でも同じだと吉川さんは指摘する。
「ビジネスとして考えると、現状では女性の方が圧倒的に意識を向けるので、女性目線でメディアを作るのはある種自然なことだと思います。ただ、結果としてこうした社会における情報の偏りが、『夫は何もわかっていない』と男女の分断を生むきっかけになっているのではないかなと感じたんです。その分断を埋めるためにも、男性を対象にした情報をもっと発信していくことは社会全体としてもとても大切なことだと思っています」
19時間で100万円を集める
今年1月、「妊活大事典」のクラウドファンディングを始めると、開始から19時間で目標の100万円を達成。開始後約30分間はアクセスが集中し、ページを開くことができなかったという。
この本は「男性向け」「女性向け」ではなく「男性も女性も」読める点が特徴だ。
吉川さんは「夫婦はチームです」と話す。
「いつ欲しいのか、何人欲しいのかということを話し合うと同時に、生活する場所や仕事内容などお互いのキャリア・ライフプランを知り、認識の齟齬をなくすことが大切です。人材会社にいたという経験からもキャリア設計の部分にも触れたいと思っています」
「そして『子供の授かり方』だけではなくて、もし子供を授かれなかった場合にも夫婦2人で生きていくという『夫婦のあり方』や養子縁組なども含めた『家族のあり方』にも触れられたらと思っています」
不妊を突きつけられ陰で傷つく男性
女性の問題として捉えられがちな妊活や不妊治療だが、吉川さんは「女性がすごく苦しむその陰で、男性不妊を突きつけられてすごく落ち込んでいる男性もたくさんいます」と語る。
女性はTwitterで妊活や不妊治療アカウントを作り情報交換を活発に行っているというが、男性はそうした交流はなく、また友人間での会話でも妊活の話題がほとんど出ないため情報量が少ない。その結果、『男としての能力がない』『男性不妊で恥ずかしい』と自分を責めてしまう傾向にあるという。
「スポットライトを当てたいというわけではないのですが、でも、男性不妊が約半数にのぼる中で、それは決してその人ひとりだけじゃないということを伝え『自分たちが抱えている問題にも社会が目を向け始めてくれているんだ』と当事者の方に思ってもらうことができたらと思っています。女性から見て『男性が妊活に取り組んでくれない』という思いは分断ですが、男性から見て『自分たちの問題は誰にもわかってもらえない』という疎外感もひとつの分断。こうした社会における分断をひとつずつなくしていきたいです」
*妊活大事典プロジェクトのクラウドファンディングはこちら
https://readyfor.jp/projects/ninkatsudaijiten