「声の大きな人の相手をするだけでは不十分」勝手な人ばかり?暴言飛び交う避難所を再現したリアルすぎる訓練 - BLOGOS編集部PR企画

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※この記事は2019年03月11日にBLOGOSで公開されたものです

「おばさん、早く飯持ってきてくれよ!朝から何も食べてないんだよ!」

あなたが大規模災害に遭った状況を思い浮かべてほしい。震災直後、あわてて移動した避難所で、別の避難者からこんな声が上がったらどう思うだろうか?また、どのように対処するだろうか?

これは、2月上旬に「防災意識日本一の町」を目指す長野県下諏訪町にて行われた「被災者支援拠点運営人材育成訓練」の一コマだ。この研修では、大規模災害後を想定し、地域住民自らが避難所の設置・運営を行う知識を学ぶ。大規模災害では、避難所での生活が長期化することが多く、災害の直接被害から生き延びた命がその後の避難生活で失われることも少なくない。それを防ぐためには、障がい者、高齢者、子ども、アレルギーなどの疾患を持つ方、外国人などの社会的弱者・少数者や、被災者が抱える様々な事情に配慮が必要である。

また、情報が集まりやすい避難所は、在宅避難者や車中泊避難者など、周辺で被災したすべての被災者を支援するための拠点となり得る。災害発生時に被災者の誰もが安心できる避難所を自ら運営する人材育成のために、日本財団が実施している事業で、同町での実施は2019年で3回目になる。

研修では、下諏訪町で震度7を記録する大地震が発生したという状況を想定。50人ほどの参加者が、避難所に見立てた町内の公民館で実際に生活・宿泊を行った。

この記事では、当日の様子を詳しくレポートし、実際に避難所で起こり得るトラブルの事例を紹介する。

【避難所ロールプレイのルール】
・参加者には性別や年齢、職業、性格、シチュエーションなどが割り振られた「役割カード」が一人ひとり与えられる
・参加者は与えられた情報を元に丁寧に役作りを行うが、役割カードは他人に見せてはいけない
・訓練では与えられた役割カードの人物として行動する

どう対処する?避難所でのトラブル

避難所ロールプレイでは、初日から様々なトラブルや問題が発生する。一例を挙げると、避難者からこんな発言が出るシーンが見られた。

「町役場の職員はどこ?1人じゃ足りないよ!」
「誰だ犬を連れてきたのは!外につないでおけ!」
「飯はまだか!」「これじゃ足りないからもっと入れてくれ」
「被害状況が知りたいので、細かくアナウンスしてほしい」
「うちの避難所には、うちのルールがあるんだよ!」
「お酒が飲みたい」「なぜ昼から飲んではいけないのか」

もしあなたがこの避難所で生活していたら、どのように行動し、問題を解決できるかといった点を考えながら読み進めてほしい。

CASE①:「町役場の職員はどこ?1人じゃ足りないよ!」

職員「役場から参りました。すいません、避難所は町内に何箇所もあるので、ここは私が担当します」
老人A「そうなの?仕方ないな。ちゃんとやってくれればいいけど」

大地震直後は、パニックになっている避難者も多く、避難所の運営方法にも混乱が見られる。避難所の運営は役場の職員が行ってくれると思っている人が多いが、職員自身も被災していてそもそも避難所へ来られないこともあり、多くの避難所が立ち上がったときに24時間体制で職員が中心になって運営することは現実的には厳しい。

そのため、避難者一人ひとりが自ら避難所の運営に参加し、誰かに運営してもらうという意識ではなく、自分たちで自立的に動いて運営していくのがポイントだ。

職員「どなたか、協力していただける人は私の方まで声をかけてください」
若者A「手伝います。何をすればいいですか?」
自治会長「私は自治会の会長をやっているので、避難者の意見をまとめられます」

訓練では、年齢が若く元気な人や住民のことを知っている人を中心に運営側に回り、避難者の名簿作りや状況の確認を行い初期の混乱を収束させた。

CASE②:「誰だ犬を連れてきたのは!外につないでおけ!」

老人A「犬は連れてくるなよ!犬は嫌いなんだ」
飼い主「この子だって家族なのよ。小型犬だから良いじゃない。氷点下だから外には出せないわ」

避難所には生活習慣や暮らしている環境の異なる様々な人がやってくるため、そうした違いが摩擦を引きおこすことがある。近年はペット同伴の避難者が問題になりがちで、犬を家族のように思う人がいる一方で、犬は外で飼うことを当然と思う人もいる。こういったケースでは「犬は外につないでくれ」といった声の大きい人の意見だけを聞くのではなく、お互いが納得できる妥協点を探すことが重要だ。

若者B「ワンちゃんはこの部屋には入れずに、廊下につないでおくことにしませんか?」
飼い主「わかりました。犬は外で面倒を見ます」
老人A「まあいいけどよ。廊下でトイレさせるなよ!」

一見すると、犬が嫌いな人が自分の主張を押し付けているようだが、同じ避難所に犬アレルギーを持っている人がいるというケースもある。そのような場合は、ペット同伴OKな別の避難所への移動を考えることも必要だ。

CASE③:「飯はまだか!」「これじゃ足りないからもっと入れてくれ」

老人A「飯はまだか?備蓄品があるじゃないか。先に乾パンだけでもくれよ」
老人B「こっちに甘いものよこしてくれよ」

この場面で考えておくべきポイントの一つは、計画性と公平性の問題だ。交通網が寸断された状況では、いつ自治体や国から支援物資が届くかわからない。そのため手元にある物資は毎日使用する量を決め、計画的に使う必要がある。また避難所生活を円滑に行うためには、一部の人のワガママを許さず、各人が公平に扱われる運営が求められる。

もう一つは「厄介な隣人」とどう付き合っていくか、という問題。同じ空間で様々な人が暮らす避難所では、たとえ自分と合わないと思った人物が相手でもコミュニケーションを断絶することはできない。相手も被災者の一人であり、また放置しておくと避難所の雰囲気が悪くなる。そうした相手ともうまく意思疎通を図り、不満を解消しておくのも避難所運営のポイントの一つだ。

食料担当「量が少ないので、これで我慢してくださいね」
自治会長「今たくさん取ると、明日にはもっと少なくなってしまうかもしれませんよ。結構おいしいので、この食事を楽しみましょうよ」
老人A「そう、まあそういうんなら仕方ないか」

ただ、この場合も一般論としては公平が基本だが、避難者の中には病気を持っていて人よりも糖分や水分、食事量が必要だという人もいる。基本的なルールは皆で守りつつ、状況に応じて柔軟に対応できると良いかもしれない。

CASE④:「被害状況が知りたいので、細かくアナウンスしてほしい」

老人A「職員さん、自宅がどうなってるか知りたいんだ。道路状況を教えてくれないか?」
老人B「ラジオでは大きな町の情報しか入ってこないよ」
職員「今、こちらでも町に確認しているので、お待ちください」

食住のニーズが満たされ、ひとまずの生活が送れそうな環境が整うと、地域の被害状況を知りたいという声が多く上がった。町職員は情報が集まり次第アナウンスすると避難者に伝えたものの、仕事が多すぎて対応できない、そもそも情報が下りてこないといった理由で、情報伝達がうまく行われなかった。

若者B「すべて職員さんに任せると大変なので、ホワイトボードを連絡板にしたらどうでしょうか」
自治会長「では、1時間ごとに新しい情報があればこちらに記入するので見ておいてください」

避難所にある公民館や施設にあるものを有効に使うことで、コミュニケーションに関する負担が軽くなることがあるそう。また、メディアの報道は被害が大きな自治体の報道が多くなるため、地域の生活情報を集めるためには自分から検索するのが効果的。そのため、近年の避難グッズでは携帯ラジオよりもモバイルバッテリーが重宝されるという。

CASE⑤:「うちの避難所には、うちのルールがあるんだよ!」

(震災から1週間、避難所の統合が行われた場面)

元の住人「おいおい、ここは先に住んでいる人がいるから入るなよ」
移動してきた老人A「誰もおらず、空いているじゃないか!」

震災後、一定程度の日数が経つと、帰宅できる人も増え避難所が統合される場合がある。この時に見られるのが、元々住んでいた避難者と新しく移ってきた避難者との摩擦だ。

避難所は場所によって異なる運営ルールができるが、移動してきた避難者はルールの周知が足りなかったり、先にいる避難者ばかりが優遇されているように見えたりすることに不満を持つ場合がある。また先住者の目には、移動してきた人がルールを守らない自分勝手な人々に映ることもある。

このような状況では、新しい避難者への運営ルールの説明、避難者同士の顔合わせ、役割の割り振りなどが一つの対応策になる可能性がある。

CASE⑥:「お酒が飲みたい」「なぜ昼から飲んではいけないのか」

老人A「我々はやることがないから、酒でも飲もう」
老人B「いつになったら帰れるのかなあ。飲むしかないよなあ」

避難所に移ってから1週間ほどが経つと、衣食住など基本的なニーズ以外に避難者から様々な要望が上がる。お酒が飲みたいといった声もその一つだ。

昼からお酒を飲みたい、という要望はどのように考えれば良いのだろうか。「普段から日中にお酒を飲んでいる」という人に「集団生活だからお酒はダメ」というだけでは納得させられない。こうした場面でも、しっかりとコミュニケーションを図り、お互いが納得できる落とし所を見つけるのが得策だ。

若者A「避難所運営の仕事をしている人もいるから、お酒はやめましょう」
老人A「そんなこと言ったって、俺たちはできることがないんだ!お酒を飲まないと足元も冷える」
若者A「周りがどう思うか考えてください」
老人B「他人はどうでも良いんだ。飲ませてくれ」
自治会長「それでは、時間と場所を決めて飲めるようにしたらどうでしょうか」

今回のロールプレイでは、話し合いの場でお互いの主張をぶつけ合い、双方が受け入れられる解決策として時間と場所を限定した飲酒OKのルールができた。

うまくいっているようで配慮が足りない

参加者が自分の設定を演じることで、実際の現場さながら様々なトラブルが起こった今回の避難所訓練。

与えられた役割カードは、日本財団が訓練の実施を委託している(一財)ダイバーシティ研究所と各地の避難所支援で接してきた避難者をモデル化して作ったもので、自然と多様な人たちの視点が入るように設計されている。

ここまで避難所をイメージしながら読み進め、どのような感想を持っただろうか。

老人が自分勝手すぎた?
コミュニケーションをとって、うまく問題に対処できていた?

どちらも正しいが、実はここに落とし穴があるという。このようにうまく避難所を運営できているように見えて、実は不十分な面があるということに気づくのも今回の目的の一つなのだ。

企画を主催した日本財団の担当者である、災害対策チームの石川紗織さんは次のように説明する。「こういった研修に参加する人は地域のリーダー的な立場の人が多く、皆が積極的に運営に回ってしまいます。そのために、この訓練では実際に起こる問題を発生させるための役割を与えています。運営側からの視点ではうまく運営できていると思っても、要配慮者の立場から見ると配慮が足りてないことも多くあるのでそれに気づいてもらうことも目的です。たとえば、聴覚障害者の方が避難所で繰り返されるアナウンスに気づくことができず、食事の支給がされていたにも関わらず3日間も食事を採れなかったという過去の事例もあります」

一見、何かトラブルが起きた時に周囲の人々が協力して解決していたように見えて、避難所には子連れ、持病持ちの人、家族が被災していて運営に回れない人、など様々な立場がいる。そうした中で、声を出しにくい人に対する配慮が不十分な面もあったという。

石川さんは「声の大きな人の意見ばかりが注目されがちですが、困っている人が要望を的確に周囲へ伝えるとは限りません。声をあげられない人のことをどこまで考えてすくい上げるのかという配慮が問われます。目に見える要望に対症療法的に対応するだけでは不十分です。どういった方がここにいてどういった配慮が必要かを丁寧に把握すること、一方で特別な配慮が必要な方も自らどうしてほしいかを伝えること、双方向の協力が必要です」と説明。

続けて「避難生活は支援する/されるの2分割ではありません。避難生活で亡くなる方を生まないために、避難生活する方が全員で協力する必要があります。出された要望に運営側が対応するという、する/されるの関係ではなく、状況を改善したいと思われている方を協力者にして、みんなで解決していくという視点を持つことも必要です」と話した。その上で「今回の訓練はあえて混乱が生まれるように設定しています。そうした視点を学んで帰ってもらえれば嬉しいです。運営側でも気づきが多くある良い訓練でした」と締めくくった。