純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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不安定な新興国でのビジネスには勇気がいる。せっかく投資し、苦労して供給網や販売網を築いても、ある日とつぜん政策(パラダイム、ゲーム)が変わって、それらがすべてダメになることがあるからだ。これを「カントリーリスク」と言う。

今回、ロシアをデフォルト(債務不履行)に追い込んで、金融市場での信用を毀損しようと、米国とその一味は、その対外資産(つまりドル)を「凍結」した。だが、本来、金融機関は、預金(債務)の引き出しに応じる義務がある。にもかかわらず、引き出しを拒否する、ということは、それこそデフォルト(債務不履行)だ。つまり、ドルは、「凍結」という名目に錯覚して、みずからデフォルトをやらかしてしまった。米国と敵対すると、ドルは紙クズになる。ドルには、大きなカントリーリスクがある。

1971年、日本やドイツなどの敗戦国の急激な復興で、すでにソ連だけでなく米国もまた製造力を失い、ドルは金兌換を停止せざるをえなかった。ところが、その直後のオイルショックで、ドルは事実上の石油兌換となり、かろうじて世界の基軸通貨であり続けた。そして、あれから半世紀。IT関連で米国は勢力を盛り返したものの、新興国の驚異的な製造力の伸張に圧倒され、すでにドルは対金で往時の50分の1の価値しかない。ただ、米国の一味に入れてもらうには、あいかわらず必要なだけ。言ってみれば、米国遊園地の子供銀行券。

だが、いまさら金でも、石油でもあるまい。天然ガスもある。今回の一件は、環境主義とやらでむしろ石油離れに向かう国際動向に危機感を持った米国が、安全保障兌換通貨としてドルを再々定義して延命しようと世界に仕掛けた大きな絵図とも言える。それで、中国やロシアの危険性を煽るが、しかし、アフガンその他で失敗続きの「安全保障」など、説得力が無い。まして、ドルがないと半導体が手に入らないぞ、ハンバーガーが食べられなくなるぞ、などと「脅す」に至っては、見苦しいばかり。

盛者必衰。ローマ、イスラム、モンゴル、スペイン、フランス、英国、そして米国。「パクス○○」と呼ばれるような国際ヘゲモニーは、かならずシフトする。長年の付き合いのあるその一味はともかく、その連中の資源搾取・販売市場としての植民地的な支配から脱却し、自立を図る新興国や発展途上国は、もはやドルから距離をおくことが政治的絶対目標となりつつある。

今後、地球が温暖化するか、寒冷化するか知らないが、いずれにせよ、もっとも不安定で危機的な喫緊の国際問題は、食料と冷暖房だ。それゆえ、食料と環境エネルギーを支配する国が次の国際ヘゲモニーを握り、その通貨が基軸となる。過去のしがらみで義理立てするより、ドライなポートフォリオでリスク分散していくことこそ、政治家としての国の舵取りだろう。