野町 直弘 / 調達購買コンサルタント

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今回は、昨今取組みが増えている、調達購買業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)について、その内容や進め方のポイントなどについて、3回に分けて執筆します。-----------------------------

私が、購買業務を実務で経験したのは、自動車会社で約35年前、外資系企業で約20年前ですが、当時と比較しても、調達購買業務のDXはあまり進化していないようです。

おそらく、約20年前位から、間接材購買のシステムの導入が多くの企業で進んだこと。従来の業界標準のVAN(付加価値ネットワーク)からIPを活用したWeb-EDI化が進み、発注情報などのやり取りの電子化が、進んだ位かもしれません。

調達購買業務は、物品やサービスをサプライヤから購入する業務ですが、何を購入するか、という購買品に関するデータや、どこから購入するか、というサプライヤに関するデータの収集、分析、活用が進んでいる企業は、そう多くないでしょう。

調達購買業務でのDX活用は、層別すると、取引系データと情報系データの活用に分類されます。取引系データとは、見積依頼〜見積取得〜サプライヤ/価格決定〜発注〜納品〜検収〜支払、の一連の調達購買業務プロセスでの情報流を、電子化するものです。

一方で、情報系データとは、購入品やサプライヤに関するデータであり、例えば、価格情報や、見積の前提となる仕様、生産数量などの情報だったり、サプライヤの評価の情報だったりします。

この2つのデータの中でも、情報系データのDXは、圧倒的に進んでいません。

何故、このように調達購買業務のDXは進んでいないのでしょう。この理由について、まずは、考えてみます。

理由の一つ目は、調達購買担当者自身が、あまり不便を感じていない、という点です。多くの企業で、調達購買担当者は、長期間、同じサプライヤや品目を担当しているケースが多いでしょう。品目や、その市場の専門性が、求められるからです。このようなベテラン調達購買
担当者は、過去に、どのような価格査定を行い、価格交渉を行ったか、各担当の頭の中に入っています。
彼らは情報の電子化や共有の必要性を、感じていません。

何故なら、ノウハウは頭の中にあり、情報は紙のファイルとして保有されており、直ぐに取り出すことができるからです。

情報活用の視点ではなく、見積依頼や見積取得、契約業務などの、取引系データの活用についても同様でしょう。量産品の購入部品の見積依頼は、発注件数に比較すると、おそらく1/10か、それ以下の件数です。

そのため、見積依頼〜取得業務をDXツールで実施する必要性はあまり高くなく、依然として、メールにエクセルの見積依頼書兼回答書を添付して、業務を行っています。これでも、十分に業務は回るのです。

二つ目の理由としては、日本企業のDXに対する考え方が、上げられます。日本企業の場合、DX(IT活用)は、主に業務コストの削減を目的に行われてきました。ですから、多くの件数の処理が発生する、発注業務などの一部の業務を除き、調達購買業務のDXの必要性は、あまり高くなかったのです。

何故なら、現状の非効率な業務プロセスを、そのままDX化しても、大きな業務コスト削減効果がでないので、優先順位が低くならざるを得なかった、というのがもう一つの理由でしょう。

しかし、昨今状況が変わりつつあります。全社的なDXが叫ばれ始めたのです。全社DXの専門組織が設置され、それなりの投資が進みました。一方で、全社業務の中でもDXが進んでいない代表的な業務として、調達購買業務が槍玉にあがったのです。

また、昨今のDXのツールの進化も調達購買業務のDXを進めるきっかけになっています。

調達購買業務は、従来から要求部門、調達購買部門、検収部門、支払部門、サプライヤ、という関係者間の紙や伝票のやり取りを行うものです。ですから、一つのシステムから他システムへの転記や入力、照合などの業務が頻繁に行われます。これらの業務プロセスの自動化ができる、RPAは調達購買業務と親和性が高かったのです。

このように、昨今の全社的なDX推進などをきっかけに、調達購買部門が転記、入力、照合などの業務プロセスをRPA化する企業が多く出始め、一層のDX推進の呼び水になったと言えます。

取引系データについては、今後重要になってくるのは、リードタイムの短縮やプロジェクト管理の機能です。現状、調達購買プロセスはユーザーにとって、時間がかかりすぎる業務と言えるでしょう。

一方で、バイヤーは時間があれば、より良い購買ができると考えています。より、上流段階で
購買情報が把握できれば、仕様提案や、サプライヤの紹介などを通じて、より安価な購買が可能になるからです。

このように、要求部門と調達購買部門のニーズは、相反するのですが、この二者の情報流をスムーズにして、リードタイムの短縮につながるようにするために、調達購買プロセスを、プロジェクトとして情報共有・管理できるようにする必要があります。

特に、最近日本の製造業では、多量少品種量産モデルから、少量多品種少量生産モデルへと、
その強みが移行しつつあり、その点からも、調達購買プロセスのプロジェクト管理のニーズが
高まるでしょう。

次回は、攻めのDXである情報系データの活用と課題、今後の展望について述べていきます。