シンガポールでは新型コロナの流行が始まって以降、外国籍の働き手が大量に国外に流出した(写真はイメージ)

シンガポール政府は3月15日、新型コロナウイルスの防疫対策を一段と緩和し、外国人の入国手続きを大幅に簡素化した。「ワクチントラベルレーン」(訳注:新型コロナワクチンの接種完了者に隔離なしの渡航を認める制度)の対象国・地域からの渡航者は、迅速抗原検査キットを使った到着前24時間以内の自己検査結果が陰性なら、隔離期間なしで入国できる。

この措置の背景には、シンガポールが直面する深刻な人手不足がある。2年前に新型コロナの世界的大流行が始まってから、シンガポールでは外国籍の働き手が大量に国外に流出した。シンガポール人材開発省が2月に発表した最新の報告書によれば、2021年末時点の求人数は11万7000人と、1998年以降で最多の水準に達している。

同じく報告書によれば、シンガポールの就業人口は2020年の1年間に16万6000人減少。その内訳のなかで、外国籍またはシンガポールの永住権を持つ外国人の就業者数は18万1500人減少し、全体の減少数を上回った。また、翌2021年は国全体の就業人口が4万1000人増加した一方で、外国籍または永住権を持つ就業者数は約3万人減少した。これは外国籍の働き手の流出がずっと続いていることを意味する。

建設工事の遅延が常態化

深刻な人手不足は、シンガポールのさまざまな産業に多大な影響を与えている。なかでも外国人労働者への依存度が高い建設業界では、政府の入国規制のために必要なマンパワーを確保できず、工事の遅延が常態化している。医療・看護業界では、新型コロナ対策のために勤務時間と仕事の負荷が増加し、大量の離職者が出て人手不足に拍車がかかっている。

こうした実態を受け、シンガポール社会では外国人の入国制限の緩和を求める声が高まっていた。

シンガポール政府は2021年8月の段階で、それまでの厳格な防疫対策を徐々に緩和し、ウイルスとの共存を目指す「ウィズ・コロナ戦略」を打ち出した。だが、その実行のプロセスは順調とは言いがたい。


本記事は「財新」の提供記事です

政府の当初の計画では、2022年2月25日から防疫対策を大幅に緩和するもくろみだった。ところが2021年12月にオミクロン変異株の市中感染が確認され、あえなく延期に追い込まれた。

その後、シンガポールの1日当たり感染者数はピーク時に2万人を突破。しかし3月に入ると、感染者数が1万人を切って減少傾向に転じたため、政府はようやく規制緩和に踏み切れた格好だ。

(財新 駐シンガポール記者:楊敏)
※原文の配信は3月15日

(財新 Biz&Tech)