約55分間で式典としては満たされたけれど、寂しさを吹き飛ばすほどの楽しさをもっと込めて欲しかった北京パラリンピック閉会式の巻。
「希望」をヨーロッパに託します!
長いようで短い北京パラリンピックが終わりました。大会のことだけを考えれば、相応の日数を重ね、いくつもの記憶が残るものではありました。しかし、同時並行で進んでいた戦争のことを思えば、侵攻する時間はあまりに長く、解決への模索は「何も進んでいない」と言えるほどわずかな進展しかありませんでした。あとどれだけの時間つづくのか。あとどれだけの時間がかかるのか。目まいがするような気持ちです。
戦火はパラリンピックにも暗い影を落とし、当初48の国と地域が参加するはずだった今大会は、大会直前に46の国と地域に減ることになりました。共生を求める大会が、分断によって引き裂かれてしまいました。「侵略者の国に生まれた者は、侵略者なのである」ということを、共生を掲げる者が追認してしまうような決断でした。これもまた戦争が残した傷跡なのかもしれません。
そんななか、せめてもの光となってくれたのはウクライナ選手団の活躍でした。過酷な状況を背負いながらも、バイアスロンとクロスカントリースキーで29個のメダルを獲得。開催国中国に次ぐ個数を得て、ウクライナという国の存在と、そこで暮らす人々の強さを、何度も何度も世界に示しました。困難に負けない、苦境に屈しない、その強さがウクライナの人々の光になり、世界を変える光になるように祈ります。
↓大会最終日はクロスカントリースキーのオープン10キロリレーで有終の金を獲得!
Ukraine 🇺🇦 end their excelllent #ParaNordic campaign with another #Gold!#Beijing2022 #WinterParalympics @ukrparalympic pic.twitter.com/dXwDGIDQjY
- Paralympic Games (@Paralympics) March 13, 2022
迎えた閉会式は、「長いようで短い」が時間感覚まで狂わせたかのように、一瞬で終わる簡素なものでした。2時間の放送枠を設けたライブ中継は、その半分しか使わずにセレモニーが終了したため、後半の1時間はお菓子作りを放映することになりました。最後に聖火が消えるところくらい見ようか…と思ってテレビをつけた人は、お菓子作りで台所の火が灯る映像を見て何を思ったことでしょう。
ということで、「いつもこんなに短かったかな?」という疑問の解消を兼ねて、北京パラリンピックの閉会式を振り返っていこうと思います。
【1】オープニング(約4分10秒間)
フィールドの中央にレコード盤を投影してセレモニーはスタート。カラフルな人々がレコードに針を落とすと、実施競技のピクトグラムが表示されていく。大会の名場面を振り返る映像とともに閉会式の始まりを告げる。
【参考】平昌パラリンピックではオープニング部分は振り返り映像などを表示(約3分間)
One last party! #ClosingCeremony #Beijing2022 #WinterParalympics pic.twitter.com/Nj2xM5KloD
- Paralympic Games (@Paralympics) March 13, 2022
【2】主催の紹介(約1分間)
習近平国家主席とIPCパーソンズ会長が着席。
【参考】平昌パラリンピックでは文在寅大統領とIPCパーソンズ会長が着席(約1分30秒間)
【3】国旗掲揚、国歌の斉唱(約1分20秒間)
中国国旗はポールにセットされており、すぐさま掲揚。つづけて国歌を斉唱する。
【参考】平昌パラリンピックでは国旗の入場にもたっぷりと時間をかけて行なう(約5分50秒間)。その後、旗手の入場の前に音楽パフォーマンスあり(約8分30秒間)
【4】旗手の入場(約8分30秒間)
46の国・地域の旗手が入場。日本は2番目に登場し、開会式と同様にクロスカントリースキー20キロ立位で金の川除大輝さんが旗手をつとめる。ウクライナの旗手は「引きでは映るが、寄りにはならない」という絶妙なカメラワークで、国際映像には大きく映らず。ソチ大会の際には閉会式で平和を訴えるTシャツを旗手が着用し、選手たちがメダルを隠して抗議の意志を示したことがあったので、アピールが映ってしまうことをあらかじめ避けたか。最後はフィールド中央のレコード盤が地球に変化し、共生をアピールして入場終わり。
【参考】平昌パラリンピックでは49の国と地域から旗手が入場(約5分50秒間)
Here come the flag bearers!#ClosingCeremony #Beijing2022 #WinterParalympics pic.twitter.com/r3aT6ufGK9
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【5】IPCアスリート委員の紹介、ボランティアの表彰(約5分50秒間)
新任のアスリート委員の紹介と、大会を支えたボランティアの代表を表彰。ボランティアの活躍をまとめた感謝の映像なども流す。
【参考】平昌パラリンピックでは映像での振り返りはなく表彰のみ(約3分20秒間)。その後、パラリンピックの精神を体現した選手を表彰する「ファン・ヨンデ功績賞」の授与を行なう(約8分20秒間)
【6】パフォーマンス(約3分間)
視覚に障がいのある4人の歌手による「You Raise Me Up」の歌唱と、聴覚に障がいのあるダンサーによるパフォーマンス。フィールド中央には障がいのある子どもたちが描いた絵を表示し、最後はスマイルマークとLOVEの人文字を表示して終わり。
【参考】平昌パラリンピックではダンスパフォーマンス(約10分間)と、大会のハイライト映像を表示(約2分40秒間)
【7】フラッグハンドオーバーセレモニー(約9分間)
パラリンピック賛歌を演奏し、パラリンピック旗を次回開催地のミラノ・コルティナへ引き継ぎ。イタリア国歌の歌唱、イタリア国旗の掲揚、ミラノ・コルティナによるピーアール映像の表示を行なう。
【参考】平昌パラリンピックでは映像の表示以外にも、北京によるライブパフォーマンスを実施(約13分間)
After an incredible Winter Paralympics, the flag is lowered, and handed over to Italy @milanocortina26 🇮🇹#ClosingCeremony #Beijing2022 #WinterParalympics pic.twitter.com/I1q3Yfm23U
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【8】組織委員会会長、IPC会長によるスピーチ(約10分間)
パーソンズ会長のスピーチは開催都市北京と中国への祝福と感謝からスタート。ボランティア・参加選手・各競技連盟・関係者・メディア・パートナー企業への感謝を述べ、アスリートへ賛辞を贈る。「逆境のなかで多様性の力強さを示した」「違いによって分断されることなく、共通の未来に向かうためにひとつになれた」というアスリートへの賛辞に重ねて、「大事なのは平和への希望」「世界のリーダーたちがパラリンピアンの行動に倣うことを望んでいる」と平和と共生への希望を訴える。
【参考】平昌パラリンピックでも組織委員会会長とIPCパーソンズ会長がスピーチ(約13分間)
#ChangeStartsWithSport ❤️💙💚#Beijing2022 #WinterParalympics #ClosingCeremony pic.twitter.com/X8Utf326Q4
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【9】聖火消灯パフォーマンス(約7分間)
大会に関わったさまざまな人を映像で振り返ったのち、再びフィールドにレコード盤を表示。レコード盤が時計に変化すると、文字盤によるカウントダウン形式で大会のハイライト写真を表示する。時間と記憶がレコードと時計に刻まれ、バイオリンの演奏とともに聖火台が下降。聖火が消える。
【参考】平昌パラリンピックでは書道アートやバンドによる演奏を披露したのち聖火が消える(約6分間)
【10】クロージング(約5分間)
子どもたちの歌声とともにお別れ。スタジアム上空に花火で「北京2022」の文字を描く。花びらの映像を映すなかで、社交ダンスのパフォーマンスで厳かに終了。
【参考】平昌パラリンピックでは聖火が消えたあとも、バンド演奏とダンスパフォーマンスを継続して、盛り上がりのなか流れで放送終了(約8分50秒間)
オープニングからクロージングまでの時間で言うと、北京パラリンピックの閉会式は約55分間で、平昌パラリンピックの閉会式は約97分間でした。ちなみに、夏と冬とでは参加国・地域の数が違うので単純な比較はできませんが、東京パラリンピックの閉会式は約123分間に及びました。印象だけでなく、実態として北京パラリンピックの閉会式はとても簡素なものでした。
大きくカットされたのは幕間のパフォーマンスと、東京パラリンピック時点で廃止されていたファン・ヨンデ功績賞の部分で、旗手の入場やスピーチに関しては尺をカットされたわけではありません。必要最低限をしっかりやった、ある意味で「引き締まった」式典だったとは思います。
ただやはり、寂しい気持ちが強く残る閉会式でした。セレモニーには特に関心がない選手もいるでしょうが、この場を自分へのご褒美や労いとしたい選手もいたでしょう。ともに過ごした世界の仲間たちと別れる寂しさもこみ上げる頃でしょう。それを慰めるように、華やかに、楽しく、盛り上げて終わるような閉会式であって欲しかったなと思います。
今、こうしたご時世ですので、ドンチャン騒ぎはふさわしくないということは理解しつつも、フィナーレは寂しさを吹き飛ばすほどの楽しさがあるといいのになと率直に思います。開会式や閉会式は選手のためにあるものです。頑張ってくれよと盛り上げ、お疲れ様でしたと労うためのものです。その気持ちがちゃんと込められていたのか、必要最低限にまとめることだけを考えていやしないか、そんなことを思う式典でした。個人的にはあまり賛成しかねるものでした。
さて、しばらくアジアでの開催がつづいた五輪は、2024年パリ大会と2026年ミラノ・コルティナ大会で久々に欧州へ帰ります。東京と北京は楽しさも中くらいに抑制するような大会となりましたが、パリやミラノ・コルティナはしっかりと楽しくやってもらいたいなと思います。
ドンチャン騒ぎをしても安心安全で、
楽しいお祭りをできる程度に平和な世界。
そういう状況になっているように欧州全体での取り組みを期待したいもの。たくさんの国が地続きになっている地域なのですから、一部分だけが安心安全平和であればOKなんて話はありません。全体的に安心安全平和になってはじめて、楽しい大会は戻ってくるのです。東京と北京が這いずりながら何とかつないだバトン、ちゃんと活かして欲しいところ。フランスあたりは特に、頑張ってもらいたいですね!
会自体は短く簡素に、名残を惜しむ時間は長く楽しく、なら賛成です!
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