新製品がパソコンだらけ、ファーウェイはパソコンメーカーに転身するのか(佐野正弘)
米国からの制裁によって、スマートフォンの開発が思うようにできなくなってしまったファーウェイ・テクノロジーズ。それでも同社は調達できるパーツを可能な限り使ってスマートフォン開発を継続しており、中国などでは縦折り型の折り畳みスマートフォン「HUAWEI P50 Pocket」などいくつかの機種を継続的に投入していますが、OSがHarmony OSであったり、5Gに対応できなかったりと制約も多く、販売は一部の国や地域にとどまっているようです。
そうした事情も影響しているのか、先日スペイン・バルセロナで開催されていた携帯電話の総合見本市イベント「MWC 2022」に合わせて実施された同社の新製品発表会では、モバイル向けイベントに合わせて実施されたにもかかわらず、スマートフォン新機種が1つも出てこないという意外な内容となっていました。
実際、そのイベントにおける発表の中心となったのはWindowsを搭載したパソコンの数々。ハイエンドノート「HUAWEI MateBook X Pro」の最新版や、一体型デスクトップの「HUAWEI MateStation X」、そして有機ELディスプレイを搭載して復活した2in1の「HUAWEI MateBook E」など、そのラインアップは非常に充実しています。
それ以外にも新しいタブレット「HUAWEI MatePad」や、E-Inkディスプレイを搭載した「HUAWEI MatePad Paper」など「HarmonyOS 2」を搭載したタブレット、さらにはレーザープリンターの「HUAWEI PixLab X1」やポータブルスピーカーの「HUAWEI Sound Joy」などを発表しており、かなり意外性のあるラインアップであることが分かります。
ファーウェイ・テクノロジーズは元々、MWCでスマートフォンのフラッグシップモデルを発表したケースは少なく、スマートウォッチだけだったり、パソコンがメインだったりしたことは何度かありました。
ですがその際には、後にフラッグシップモデルの発表イベントを実施することを明らかにするなど、スマートフォンを期待する人達に対して何らかのフォローをすることが多かっただけに、ここまでパソコンにシフトした発表内容となったのにはかなり意外でした。
そしてその傾向は、日本でもそのまま引き継がれることとなります。実際日本法人のファーウェイ・ジャパンは2022年3月8日に新製品を発表していますが、その内容もやはりパソコンが主体だったのです。
実際同日に発表された国内向けラインアップを確認しますと、MWC Barcelonaで発表された「HUAWEI MateBook E」のほか、「HUAWEI MateBook 14」と「HUAWEI MateBook D 14」のノートパソコン2機種、そして既に国内販売済みのディスプレイ「HUAWEI MateView」から一部機能を除いて価格を引き下げたスタンダードエディションの2つ。もはやスマートフォンメーカーの面影が見られないラインアップとなっています。
なぜファーウェイ・テクノロジーズがパソコンへのシフトを進めるのかといいますと、1つはパソコンがスマートフォンほどOSやチップ調達などの制約を受けていないためでしょう。Harmony OS 2は中国外であまり受け入れられていませんが、Windowsは大抵の国で使われているので、中国以外の国々で販売しやすいのは大きいといえます。
ですが筆者はより大きな理由として、かつて同社が打ち出していた「1+8+N」戦略にあると見ています。これは「1」となるスマートフォンをハブとして「8」となる周辺デバイス、さらに「N」となる多様なIoT製品を連携させ、独自のエコシステムを構築するというものです。
ですがこの戦略は、肝心のスマートフォン自体の事業展開が困難となったことで見直しが必要になり、新たなハブとなるデバイスが求められていました。そこで白羽の矢が立ったのが、先で言う所の「8」を構成するデバイスであり、なおかつ広く利用されているパソコンだったといえるでしょう。
実際ファーウェイ・テクノロジーズは、MWC Barcelonaでのイベント、そして日本での製品発表に合わせて「Super Device」を同社製パソコンから使えるようにしたことをアピールしています。これはスマートフォンやタブレット、パソコンから周辺機器に至るまで、同社が提供するデバイス間の接続と連携を簡単な操作でできるようにする機能です。
Super DeviceはHarmonyOS 2の目玉機能の1つとして打ち出されていたもの。それだけにパソコンへの対応を進めたことは、パソコンを新たなハブの1つとしてエコシステム構築を推し進めようとしていると見て取ることができる訳です。
また日本向け製品での対応は打ち出されていませんが、ファーウェイ・テクノロジーズは「HUAWEI Mobile App Engine」も発表しています。これは同社製スマートフォン向けのアプリストア「AppGallery」のアプリをパソコンから利用できる仕組みであり、こうした点からもパソコンを新たなハブにして自社製品の販売を拡大しようとしている様子を見て取ることができるでしょう。
もちろんファーウェイ・テクノロジーズは今後も可能性がある限りスマートフォンの開発は続けていくでしょうが、米国の制裁が解除される見通しは立っていないだけにそれも厳しくなるのは確か。中国外での事業を成立させ販売を回復させるためにも、スマートフォン抜きでエコシステムを構築する現実路線に踏み出したといえそうです。
ただパソコンを構成する部材も米国にかなり依存しているだけに、仮にパソコン事業が大成功を収めれば、それはそれで米国の目が厳しくなってしまいそうな気もします。ファーウェイ・テクノロジーズが非常に難しい状況に置かれていることは、やはり変わらないと言えそうです。