2018年にMicrosoftとアメリカ陸軍の間で契約が締結された「軍用Hololens」が延期後の納期に間に合う見通しが立っていないと報じられました。この一件は最大219億ドル(約2兆5000億円)という大型契約でしたが、開発から3年経過時点における進捗は「戦闘用ゴーグルとしての性能を実証していない」という評です。

Microsoft’s (MSFT) $22 Billion Army Goggles Still Aren’t Combat-Ready - Bloomberg

https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-01-25/microsoft-s-22-billion-army-goggles-still-aren-t-combat-ready

Microsoft's HoloLens still isn't good enough yet for US military testing - OnMSFT.com

https://www.onmsft.com/news/microsofts-hololens-still-isnt-good-enough-yet-for-the-us-military-testing-it

2018年11月、Microsoftはアメリカ陸軍と複合現実(MR)ゴーグル「Hololens」のカスタマイズ版を10万台超納入するという契約を締結しました。当時の報道では、アメリカ陸軍は夜間でも周囲の状況を見ることができるナイトモードや相手の温度を感知するサーモグラフィー、相手の息づかいを検知する機能などを搭載した軍用デバイスを望んでおり、総額4億8000万ドル(約540億円)という価格で入札を勝ち取ったのがMicrosoftということでした。

Microsoftはアメリカ陸軍向けに10万台以上の特製HoloLens(ホロレンズ)デバイスを製造する契約を交わす - GIGAZINE



by Jean-Pierre Dalbéra

そして2021年4月には、上記の契約の延長としてMicrosoftとアメリカ陸軍は「ナイトモードやサーモグラフィーに加え、ホログラムで地図やコンパス、味方の位置を表示する機能」を実装した軍用Hololens12万台を納入するという契約を新たに締結しました。Microsoftは当時の発表の中で、「この契約は5年間有効かつ5年間延長するというオプションまで存在しており、仮にオプション込みで10年間の契約となった場合には最大219億ドル(約2兆5000億円)になる」と大々的にアピールしていました。

Microsoftが2兆円超でアメリカ陸軍に「HoloLens」12万台を供給する契約を締結 - GIGAZINE



一連の契約に暗雲が垂れ込め始めたのが2021年10月のこと。前述の軍用Hololens12万台を納入するという契約は、Microsoft側が2021年9月30日から順次納入を行うという予定でしたが、予定日を過ぎてもデバイスの納入は行われず、納入開始日が1年延長されることとなりました。

納入停止の理由については、初期のプロトタイプ版に雨で壊れるという不具合が存在したため「耐久性にまだ問題が残っているのでは」という推測やMicrosoft社員から軍隊への技術提供に対して不満の声が挙がっていたことから「社員からの反発が影響したのでは」という推測が報じられましたが、詳細は不明という状況でした。

そして2022年1月25日、新たにアメリカの経済紙大手のBloombergが「Microsoftの軍用Hololensはいまだ実用レベルに至らず」と報じました。Bloombergによると、改良版の軍用Hololensは「成長能力を実証」し、「快適性と視野の広さにおいて改善した」とのことですが、アメリカ陸軍は2022年5月に行われる試験に対し、「前もって既知の欠陥に関する改善を定量化する試験と評価戦略を策定すべき」という評価を下したとのこと。

Bloombergは国防総省の運用試験部門の担当ディレクターが「戦闘用ゴーグルとしての性能をまだ実証していない」と非公式に語ったとも報じています。これについて運用試験部門の広報担当官は「2022年5月の試験で運用に有効だと示すためには、軍用Hololensを装備した近接戦闘部隊が現実的な作戦環境の中で戦闘教義に基づいた任務を達成できるか否かです」と回答しています。