Vol.110-1

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは2021年のテック業界振り返り。半導体不足の影響や空間オーディオ、独自半導体の広がりを解説する。

↑2021年に登場したMacBook Proは「Apple M1」を基にして、主にCPU/GPUコア数を増やすことでパフォーマンスアップを図ったプロセッサー「M1 Pro」「M1 Max」を搭載。ミニLEDをバックライトに採用したLiquid Retina XDRディスプレイにより、より引き締まった黒を表現することが可能になっている

 

半導体不足が招いた人気商品の品薄状態

「2021年中には終息を」と願っていたコロナ禍も、残念ながらまだしばらく尾を引きそうだ。2021年のテック業界も、2020年同様、新型コロナウイルスの影響から逃れることができなかった。

 

最たるものが「半導体不足」だ。ヒット商品の多くが品不足に見舞われている。スマートフォンはなんとか順調に出荷が進んだものの、デジタルカメラや、PlayStation 5に代表されるゲーム機は苦しんでいる。この傾向は2022年も続く予定で、「欲しいものはできる限り早く入手しておく」のがベストシナリオとなりそうだ。

 

もうひとつ、顕著な変化だったのが「オーディオ」である。アップルとアマゾンは、それぞれが運営するサブスクリプション型音楽配信で、コスト追加なしでロスレスと空間オーディオの提供を開始した。コンテンツの供給は始まったばかりだが、特に空間オーディオの価値向上は目覚ましい。一方、大手2社が実質的なコスト競争を展開した結果、他社は厳しくなり、サービスの見直しを強いられつつある。

 

一方で、テレワーク向けのニーズもあってか、耳をふさがない「骨伝導タイプ」のヘッドホンの人気が急速に高まったこともポイントだ。自宅内などで「ながら聴き」する用途が拡大している。音楽は、品質と聴取スタイルの両面で変化が起きた年になった、といって良さそうだ。

 

独自半導体の採用で話題をさらったMac

3つ目が「独自半導体」だ。ご存知のように、アップルは以前よりiPhoneやiPadなど、多くの製品に自社設計半導体を採用している。そして、2020年にはMac向けに「M1」を開発し、主要製品すべてを自社設計半導体に移行した。M1搭載Macは複数登場したが、性能・デザインともにどれも申し分ない。プロ向けの「MacBook Pro」では、より高性能な「M1 Pro」「M1 Max」も使われるようになった。

 

Windows PCでインテルやAMD以外のCPUを採用する流れは進まなかった。とはいえ、インテル・AMD両社の最新CPUの完成度が高かったこと、Windows 11が登場したことなどが霞むほど、2021年のPC業界は「M1搭載Mac」に注目が集まってしまった。

 

スマートフォンでは、グーグルがアップルの後を追いかけた。「Pixelシリーズ」のプロセッサーを、グーグルの設計による「Tensor」にすることで、機能刷新を図ったのである。これにより主に変わったのは「AI処理」の性能だ。ネットに接続していなくても各種AI処理が可能になってきたので、動作速度とプライバシー保護の両面で大きな改善が見られた。

 

もちろん、スマホ向けプロセッサーの最大手であるクアルコムも黙っていない。アップルやグーグルの独自路線に対抗するかのように、2022年向けの新プロセッサーでは性能・消費電力・AI処理の3点を大幅に改善している。半導体を自社設計できる最大手と、それ以外の企業のスマホがどう違いをアピールしていくかが注目点だ。

 

Web版では、これらの3点について、より深掘りした形で解説していくことにしよう。

 

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