“さっせんひろふく”といっても、ピンとこないかもしれませんが、最近の不動産業界でしばしば使われる用語です。三大都市圏以外の地方の主要都市である札幌市、仙台市、広島市、福岡市の地方4都市の頭文字をとったものです。コロナ禍で全国の地価がダウンしている中でも、この「地方四市」については上昇が続いていて、注目度が高まっています。マンションをはじめとする住宅価格も上がっていて、住む場所としての人気も高くなっているようです。

全国の地価が下落でも4市は上昇傾向

2021年9月21日に公表された『都道府県地価調査』(基準地価)では、図表1にあるように、全国の住宅地の平均は前年に比べて0.5%の下落でした。前年の0.7%に比べると下落幅は小さくなっているのですが、それでもまだまだ厳しい状況が続いています。基準地価は、毎年7月1日現在の地価を査定したものであり、今回は新型コロナウイルス感染症の第5波の真っただ中でしたから、それも仕方のないことでしょう。

三大都市圏を見ても、前年のマイナス0.3%から0.0%と横ばいに転じたとはいえ、三大都市圏の中でも、最もインバウンドの影響が強いといわれる大阪圏では0.3%の下落と、水面下にとどまっています。

三大都市圏以外の地方圏は0.7%の下落と落ち込んだままですが、その中で札幌市、仙台市、広島市、福岡市の地方四市については、4.2%の上昇で、前年の3.6%よりむしろ上昇率が高くなっています。基準地価における地方四市の住宅地が前年比で上昇したのはこれで9年連続です。

※▲はマイナス、カッコ内は前年。地方四市は札幌市、仙台市、広島市、福岡市。
(資料:国土交通省『令和3年都道府県地価調査』)

福岡県では新築マンション価格が上がり続けている

なぜ地方四市だけ地価がここまで上がっているのでしょうか。

最大の要因は、三大都市圏で進んできた中心市街地の再開発の波が地方圏の主要都市である地方四市に波及しつつあるということでしょう。

その代表格が福岡市です。最大の繁華街である天神エリアの再開発プロジェクトが多数進められており、2022年度には福岡市営地下鉄・七隈線が天神南から博多駅まで延伸予定です。そのため、基準地価でも商業地の上昇地点ベスト10のうち、8地点を福岡市が占めており、トップの福岡市博多区の博多蔵本ビルは前年比15.8%の高い上昇率を記録しました。

福岡市の中心部は西鉄福岡駅を中心とする、いわゆる天神エリアで、オフィスビルや飲食店ビルなどが建ち並んでいます。2011年の九州新幹線の全線開通を受けて、博多駅周辺の再開発が急速に進み、博多駅前エリアは天神エリアに匹敵するにぎわいを見せるようになりました。そのにぎわいが2020年代になって両エリアの中間部まで開発の波が押し寄せ、一層の活気を生み出しているのです。

福岡市はアジアに対する玄関口としての役割も大きく、インバウンド需要が回復すれば、さらににぎわいが増すのではないかと期待されます。

福岡市――福岡県の中古マンション価格は10ヶ月連続上昇

こうした動きを受けて、住宅市場も好調に推移しています。特に、福岡市中心部やその周辺での新築マンションの価格が上がり続けています。

中心エリアに近い赤坂や大濠エリアが住宅地としての人気が高く、価格が大幅にアップしています。
たとえば、積水ハウスの「グランドメゾン薬院ザ・タワーレジデンス」(福岡市中央区)は、110平方メートル台~165平方メートル台が1億3,000万円台~2億4,000万円台、東京建物の「Brillia Tower西新」(福岡市早良区)は101平方メートル台の3LDKが1億2,000万円台で販売されるなど、中心部では億ションがめずらしくなくなっています。

ただ、人気エリアでの分譲には限りがありますし、高くなり過ぎたこともあって、周辺の百道エリアや平尾エリア、東区の香椎エリアなどの都心周辺のエリアでの分譲が増えています。さらに、その流れが西鉄天神大牟田線の大橋駅(福岡市南区)やJR博多南線の博多南駅(春日市)、JR筑肥線筑前前原駅(糸島市)周辺などにも及びつつあります。

新築マンションの価格上昇に伴い、中古マンション価格も上がりつつあります。西日本不動産流通機構の調査によると、福岡県の中古マンションの成約件数、成約価格は図表2のようになっています。1平方メートル当たりの単価は、2020年9月には27.1万円でしたが、2021年9月は29.7万円と、前年同月比9.6%のアップです。福岡県の中古マンション価格の上昇はこれで2020年12月以降10ヶ月連続です。

出典:公益社団法人西日本不動産流通機構「西日本レインズ月次サマリーレポート」(2021年9月度)

広島市――広島市最高階数の53階建てマンションも

広島市では、2025年の開業に向けて、JR山陽本線・山陽新幹線などの広島駅の南側と北側で大規模な再開発が進められています。「ビッグフロントひろしま」「エキシティ・ヒロシマ」などの超高層複合ビルが誕生し、多種多様な機能を併せ持った街に変貌します。

その周辺では、各種のタワーマンションの開発などが進行中で、広島市中区の広島大学本部跡地では広島市最高階数となる53階建て、総戸数665戸の免震マンション、「hitoto 広島 The Tower」の建設が進められています。専有面積110平方メートル台が1億円と広島市ではまだめずらしい億ションも含まれています。

中古マンションに目を向けても、図表3のオレンジの折れ線グラフにあるように、月によって多少の上下動がありながら、全体としては右肩上がりのカーブを形成しています。2021年9月の広島県の中古マンション成約価格の1平方メートル当たりの平均は30.5万円で、2020年9月の29.4万円に対して3.7%の上昇です。これで6ヶ月連続の上昇であり、これからもジワジワとした上昇が見込まれています。

出典:公益社団法人西日本不動産流通機構「西日本レインズ月次サマリーレポート」(2021年9月度)

仙台市――中古マンション価格は落ち着いた動き

仙台市は、東日本大震災での被害が沿岸部よりも少なく、被災した人たちが移り住むなどしたため、マンションや戸建ての価格が急速に上昇しました。そのため、新築マンションが次々と建設され、高値で販売されました。青葉区、若林区などの中心部の新築マンションは4,000万円超えが当たり前になって、最近では中心部からやや離れた、太白区の「あすと長町」などの大規模開発が注目されています。

中古マンションに目を向けると、宮城県はもともと地震の多い土地だったこともあり、ほかの大都市に比べて早くから免震マンションが建設されてきた点が大きな特徴です。そうしたマンションは東日本大震災後も価格が上がり続けてきました。

ただ、新築マンションと同様にここに来て高くなり過ぎたこともあって、ほかの地方3都市に比べると比較的落ち着いた動きになっています。図表4にあるように、中古マンション成約価格の1平方メートル当たりの単価は20万円台後半から30万円台の入り口辺りで安定しています。2021年9月の単価は26.55万円で前年同月比0.5%のアップにとどまっているのです。成約件数も落ち着いた動きになっていて、今後も中古マンション価格は横ばいに近い推移になるのではないでしょうか。

出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「月例速報Market Watchサマリーレポート」(2021年9月度)

札幌市――新築マンションの開発は中心部から郊外に

札幌市では、三大都市圏と同じように、2010年代の半ば頃から新築マンション価格上昇が始まり、2021年後半までその状態が続いており、当分この流れが続くのではないかとみられています。

2030年には北海道新幹線が札幌まで延伸し、それを見据えた駅前再開発が進められており地価上昇が続きそうなこと、人件費・資材費の上昇により建設費が高止まりしていること、今後さらに高齢化が進み、雪かきが不要で、便利な場所にあり、原則バリアフリーであるマンション人気が一層高まりそうなこと――などが背景にあります。

ただ、利便性の高いエリアの新築マンションの価格は4,000万円を超え、厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2020年の東京都の平均37万3,600円に対して、北海道は27万2,800円と東京圏などに比べて平均賃金の低い札幌市では、簡単には売れなくなっており、立地先は地価が比較的安く、リーズナブルを価格帯で分譲できる郊外部に移りつつあります。

そんな中、相対的に割安感のある中古マンションの人気が高まり、価格は上昇傾向です。図表5にあるように、成約価格の1平方メートル当たり単価は2021年9月が27.00万円で、前年同月比では13.1%の大幅なアップです。新築マンションの価格が高くなっていますから、しばらくは中古マンション人気が継続、価格も上がっていくことになりそうです。

出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「月例速報Market Watchサマリーレポート」(2021年9月度)

まとめ

一口に“さっせんひろふく”といっても、それぞれの地域におけるマンション事情は異なっています。福岡市や札幌市のように、中古マンション価格が上がり続けているところもあれば、仙台市のように比較的安定しているところもあります。
それぞれのエリアの事情を十分に理解したうえで住まい選びを行う必要がありそうです。