株価が急落したため、マーケットでは「岸田ショック」という言葉も飛び交い始めた。だが本当に岸田首相のせいなのだろうか(写真:つのだよしお/アフロ)

日経平均株価が8営業日連続で下げた。10月7日になってようやく止まったが、8日続落は2009年以来のことである。TOPIX(東証株価指数)に至っては9日連続で下げて、日経平均からさらに1日遅れて8日に反転した。

外国人投資家は岸田新内閣に「最低評価」


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日本株がかくも弱いのは、中国の不動産大手、恒大集団の経営悪化、アメリカの債務上限問題、そして原油価格の上昇など、海外の悪材料をいくつも指摘することができる。

とはいうものの、外国株と比べると日経平均の約6%下落は突出している。岸田文雄氏が自由民主党総裁に選ばれた9月29日から、実に2000円も下げているのである。

9月3日の菅義偉前首相の不出馬発言から、一時は年初来高値をつけた日経平均は同月末から反落し、文字どおり「行ってこい」になってしまった。すでにマーケットでは、「岸田ショック」などという言葉も飛び交い始めている。

特に外国人投資家の間では、自民党総裁選挙の結果への失望が強い。彼らの間では、「高市総裁なら女性初の首相誕生となり、それは日本の変革を意味するから買い。河野総裁誕生でも、今後の変化が期待できそうだから買い」という期待があった。しかるに結果は、いかにも現状維持といった感じの岸田氏の勝利であった。

総裁選当日のThe New York Times紙の報道も、こんな風に突き放したトーンであった (The choice for Japan’s prime minister is a party stalwart who lagged in opinion polls.)。

エリートのパワーブローカー(有力者を陰で操る実力者)が世論をねじ伏せ、日本の与党はこの水曜日、岸田文雄元外相を次期首相に選出した。党内穏健派の岸田氏を自民党の総裁に選出することで、党の幹部たちは世論の選択を無視し、去り行く不人気な菅義偉首相(当時)と差別化できないような候補者を選択した。

アメリカのような直接民主主義の国の感覚では、党員票で1位だった河野太郎氏が勝つべきであって、議員票でそれと違う結果が出るのはケシカラン、となるらしい。

とはいえ、日本は間接民主主義であり、自民党総裁選は元来が議員票の戦いであった。1972年の「三角大福決戦」であまりに現金が乱れ飛んだので、あとから党員票という制度を付け加えたという経緯がある。今回の結果は、「岸田氏の圧勝」とみるのが国内的には順当であろう。

ちなみにNY Times紙は「岸田氏は菅氏と大差がない」と言っているが、これは事実誤認と言えよう。真っ先に総裁選に名乗りを上げて、菅首相に勝負を挑んだのが岸田氏であった。出馬宣言自体は確かに高市氏も早かったけれども、恐縮ながらその時点で周囲の見方はまだ懐疑的だった。

逆に菅氏は、河野候補を支援して何とかして勝たせようとしていた。一部には、「河野政権誕生なら、小泉進次郎官房長官、菅義偉官房副長官」などという読み筋もあったとか。何もそこまでワーカホリックにならなくても……、と言いたくなるところだが、真面目な話、前首相の肩入れはむしろ河野氏にとって逆効果となっていたのではないか。

金融所得課税の本当の影響はどれだけ?

ともあれ、岸田政権発足に対する海外の見方は散々なようである。というより、「わかってないなあ」と言いたくなるところだ。国内的にはどうかと言うと、10月4日の新内閣発足を受けて行われた世論調査の結果は、以下のように幅が広いものとなった。

日経新聞 支持59%、不支持25%
読売新聞 支持56%、不支持27%
共同通信 支持55.7%、不支持23.7%
毎日新聞 支持49%、不支持40%
朝日新聞 支持45%、不支持20%

各社によって尋ね方が違うので、日経と読売が高めに出て、朝日と毎日が低めに出るのは毎度のことだ。事前の想定よりもやや低め、という感もあるが、不支持率が低いこと、この間に自民党支持が上昇している(日経51%、共同50.8%、読売43%、朝日37%、毎日34%)ことを考えれば、今月31日に控える総選挙を戦うにはまずまずの状況といえるだろう。

マーケットが岸田政権を嫌気する理由として、「金融所得課税強化を狙っている」ことが挙げられる。合計所得1億円以上の人は所得税負担率が低くなる、という「1億円の壁」なるものも注目され始めた。これまで、自民党で税調会長を務めていた甘利明氏が幹事長に転じたので、後任は岸田氏のいとこである宮沢洋一参議院議員になる、と言われている。今年度の税制改正では、金融所得課税が検討課題となる公算が大であろう。

とはいえ、「大金持ち」がそんなに多くはないわが国においては、年収1億円を超えるのは2万人強に過ぎない。しかもこの人たちは、すでに所得税の最高税率45%に住民税や社会保険料などを払っている。仮に現行税率の20%を30%に引き上げたところで、そんなに大きな財源とはなりそうにない。「貯蓄から投資へ」という流れにも逆行するので、金融所得課税の強化が「好手」であるとは考えにくい。

その一方で、株式譲渡益や配当への課税は、国際的に強化される流れにある。また、非居住者である外国人投資家から見れば、本件は文字どおり「どうでもいい話」であろう。確かに「マーケット・フレンドリー」ではないけれども、この問題が「日本株売りの主犯格」と見るのは考えすぎであろう。

宏池会の会長である岸田氏は、自民党においては「20年ぶりのセンターレフト派閥出身の総裁」となる。海外においても、アメリカでは昨年、共和党のドナルド・トランプ大統領を破って民主党のジョー・バイデン政権が誕生した。先月行われたドイツの総選挙では、長らく政権を担ってきたCDUの得票をSPDが上回った。世界的に貧富の格差が拡大し、なおかつコロナが追い打ちをかけている状況にあって、左派政権が増えているのは自然な流れと言えよう。

岸田総裁はファーストペンギン!?

そこで世界各国で、「中間層の復活」や「社会的包摂」(Social Inclusion)といったかけ声が上がるわけだが、これまでのところ何か格差是正の「妙手」が見つかったわけではない。岸田内閣もまた、「新しい日本型資本主義」や「成長と分配の好循環」というテーマを掲げている。とはいえ、具体策はなかなか見えてこないのが実情だ。

この問題について、10月1日に行われた木原誠二官房副長官の勉強会で、甘利明幹事長が「岸田総裁はファーストペンギンだ」と語ったそうである。氷の上で群れているペンギンのうち、最初の1頭が海に飛び込む。海の中にエサとなる魚がいるかどうかは、もちろん氷の上からはわからない。それでも最初の1頭が飛び込むと、あとに続くペンギンが現れる。最初から「できっこない」などと言ってないで、とにかくやってみろ、というわけだ。

10月8日の所信表明演説において、岸田首相は「分配戦略」と銘打って、企業の四半期開示の見直し、下請け取引に対する監督体制の強化、賃上げを行う企業への税制支援、子育て支援、看護・介護・保育などで働く人々の収入を増やす、あるいは財政単年度主義の弊害是正などを訴えた。が、いかんせん新味を感じさせるものではなかったようだ。

とはいえ、岸田内閣が景気を回復させ、株価を再び上昇に向かわせることは十分に可能なのではないか、と筆者は考えている。

自民党は大きくは負けず、第2次岸田内閣発足へ

まず、10月31日の総選挙では自民党は大きく負けないだろう。となれば、10日後くらいに特別国会が召集され、そこで第2次岸田内閣が発足する。真っ先に取りかかるのは補正予算である。出馬宣言の直後から、岸田氏は「数十兆円規模」という大胆な言い方をしてきた。これは事前に財務省と何らかの「調整」があったからだろう。だったら話は早い。

バイデン政権の「インフラ投資」予算は、議会の与野党対立の中でほとんど五里霧中であるが、議会制民主主義の日本では予算はちゃんと12月までに成立する。中小事業者や生活困窮者への給付金などが盛り込まれる見込みだ。

そして以前にも当欄で寄稿したように、日本経済には巨額の強制貯蓄がある (日本経済には36兆円もの埋蔵金が眠っている)。2020年度分で計算してみたところ、コロナ下で生じた「意図せざる貯蓄」は実に38.2兆円にもなった。このうち半分でも消費に回ってくれれば、それだけでブームを起こせるはずである。

もちろん年内にもコロナの第6波が到来するかもしれないし、中国経済の減速や資源価格の高止まりなど海外経済の影響を受けるおそれもある。ただし現下のマーケットの反応は、やや慎重になりすぎているのではないかと感じているところである(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承下さい)。

最後はお馴染み、競馬コーナーだ。G1レースがある週末はもちろん楽しみだが、東西で重賞レースが2つ、という週末もまた味わいがある。特に毎日王冠(10日の東京競馬場第11R、芝1800メートル、G2)と京都大賞典(同日、阪神競馬場第11R、芝2400メートル、G2)が重なるこの日は、秋の競馬シーズンの本格的な幕開けを告げる。筆者の誕生日が近いこともあって、昔から楽しみな1日である。

毎日王冠はダノンキングリーで「万全」

毎日王冠はダノンキングリーで万全と踏む。安田記念では、あのグランアレグリアをアタマ差で制して5歳にして初G1勝利を得た。これが本格的な覚醒であるかどうかは未知数なるも、とにかく「久々のレースのときは強い」という妙な馬なのである。安田記念から直行という日程ならここは買いだ。単勝、もしくは馬単の頭でドンと行ってみよう。対抗にシュネルマイスター、単穴にポタジェ。

一方の京都大賞典は荒れると見て、アイアンバローズを狙う。阪神2400メートルでは1着1回、2着2回と距離適性は見逃せない。ここからワイドで、アリストテレス、ヒートオンビート、ステイフーリッシュなどへ流してみる。こちらは欲張らずに少額で。