サステナビリティーと向き合ううえで、企業はまず何から手を付けるべきでしょうか? (写真:Cecilie_Arcurs/iStock)

グローバルでは、アパレル業界におけるサステナビリティーの取り組みが加速化している。たとえば、フランス政府は、アパレル企業の在庫廃棄に罰金を科す法律を昨年閣議決定した。企業レベルでも、パタゴニアやケリングといった企業がカーボンニュートラルに向けた取り組みを加速化している。

他方、日本においては、ファーストリテイリングやアダストリアなど一部の大手企業で取り組みが先行しているものの、多くの企業で取り組みが不足している状況だ。そもそもサステナビリティーに対する理解が低い、どこから手を付けてよいかわからないという会社も多い。サステナビリティーと向き合ううえで、企業はまず何から手を付けるべきだろうか。

著書『2030年アパレルの未来 日本企業が半分になる日』が7刷を突破し話題を呼んでいるコンサルタントの福田稔氏が、「アパレル業界のサステナビリティーの現状と、今何をすべきか」について解説する。

「サステナビリティー対応」は全世界的な社会課題

繊維・アパレル産業は、「環境負荷の高い」産業である。たとえば、CO2排出では、繊維産業は全産業界の中で約8%を占め、自動車産業と同程度のCO2を排出している。


殺虫剤による土壌汚染では、世界の中でわずか3%の作付面積にすぎない綿花畑が、約15%の殺虫剤を使用し土壌汚染を引き起こしている。淡水の水質汚染では、原因の約20%が繊維産業の染色によるものだ。

なかでも、CO2排出を端緒とする「気候変動問題」は、いまや全世界的な社会課題と認識され、取り組みが急がれている。日本でも、2020年政府が「2050年に温室効果ガス排出実質ゼロ」を宣言し、話題となったことは記憶に新しい。

世界に目を向けると、気候変動対応で先行する欧州では、2019年に発表された「欧州グリーンディール政策」において、「2050年にカーボンニュートラル」を目指すことを発表

同年の先進国G7サミットでは、ラグジュアリー大手のケリングが「2050年までのカーボンゼロ」を掲げる「ファッション協定」を提案し、約150のブランドが賛同・署名。「サステナビリティー対応」は今、欧米のファッション業界全体に拡大している。

このようななか、現在アパレル企業が注視している動向として、「欧州グリーンディール政策」の「New Circular Economy Action Plan(新循環型経済行動計画)」の進捗がある。

欧州では、繊維・アパレル業界は資源消費量、炭素排出量が多くリサイクルも進んでいないため、「積極的に循環型経済への転換が必要な業界」と認定されている。

そのなかで、足元ではアパレル業界の「カーボンニュートラル」と「サーキュラーエコノミー」の実現に向け、包括的な施策や規制が検討されている。実際、先行して検討が進んでいる自動車業界向けの規制では、「2035年以降ハイブリッド車を含むガソリン車の販売が禁止」となったことは記憶に新しい。

これは、自動車メーカーにとって、今後の戦略を左右するインパクトを持つ規制である(とくに、ハイブリッド車を得意とする日本企業への打撃が大きい)。

このように、早晩、強制的に「サステナビリティー対応」が求められると予測されるアパレル業界では、企業レベルで「サステナビリティー戦略」を具体化する必要がある

しかしながら、国内アパレル業界を見渡してみると、具体的な戦略、施策を講じている企業は限られる。最も重要な「カーボンニュートラル」においても、多くの企業が政府同様ようやく目標を掲げて、これから戦略やロードマップを考えようという段階だ。

「サステナビリティー戦略」を構築する「3つのステップ」

それでは、企業はどのように戦略を検討・策定していけばよいのだろうか? 効果的な「サステナビリティー戦略」を構築するには、大きく3つのステップで進めることが必要だ。

【ステップ1】自社の環境負荷を「見える化」する

はじめに、「自社の環境負荷を見える化すること」である。なかでも「CO2排出量の見える化」は喫緊の課題だ。企業は、バリューチェーンの各所でCO2を排出している。

アパレル企業であれば、素材製造・加工・縫製・輸送など、ものづくりの各工程でCO2を排出しており、とくに素材から縫製に至るまでの段階で約9割のCO2を排出している。

たとえば、ケリングでは素材の製造から縫製に至るまでの過程で企業活動全体の84%のCO2を排出している。これは同社の本社から排出されるCO2の約5倍である。

製造段階で発生する製品ごとのCO2の見える化が、繊維・アパレル企業がまずは行うべき第一歩である。

幸い、SACの「Higg Index MSIスコア」のように、素材別のCO2排出量を算出できる仕組みが世の中に出てきており、すべてを自前で行う必要はない。

弊社のような外部のコンサルティングサービスを活用することも可能だ。すでにある知見を活用し、「自社のCO2排出量を早急に把握すること」が、はじめの一歩となる。

「目標」だけではなく「具体的な施策」まで落とし込む

【ステップ2】「施策設計とKPIのひもづけ」を行うこと

第2のステップは、事業に削減活動を組み込むための「施策設計とKPIのひもづけ」を行うことである。

自社の排出量を見える化し、トップダウンで削減目標を決めるのは重要だが、実現に向けては目標設定のみでは不十分だ。

全体目標を削減するために、生産・輸送・販売など、企業のバリューチェーンごとにどの程度CO2を削減する必要があるか、目標額を割り振り、どのようにそれを実現するか、具体的な施策まで落とし込まなくてはならない

同時に、各施策が計画どおり実行されているかを管理する指標、いわゆる「KPI」を設定することが必要だ。

たとえば、アパレル企業が「全社で50%のCO2排出削減」を掲げたとする。そのためには、製品レベルで8割のCO2を削減しなくてはならず、その削減策のひとつとして「CO2排出量の低い再生繊維の構成比を、現状の1割から5割に上げること」を施策にしたとしよう。

この場合、この構成比がKPIとなり、モニタリングする指標となる。削減目標を達成するには、このように事業活動に削減目標が埋め込まれるよう、「施策とKPIを丁寧に設計すること」が肝要だ。

【ステップ3】削減活動の実行を担保する「組織・ガバナンス設計」

第3のステップは、削減活動の実行を担保する「組織・ガバナンス設計」にある。多くの企業では、環境活動をコーポレートのCSR推進室が行っている。

しかしこれでは、「モニタリング」はできても「実行」にはつながらないことが多い。なぜなら、現場の企業活動に首を突っ込む、時には変えさせるような「権限」を持っていないからだ。

たとえば、世界最大のアパレルOEM企業、Li&Fungでは、環境活動を推進する「サステナビリティー委員会」は、「取締役以上の全役員」により運営されている

なぜなら、そもそもCO2排出の多いアパレルビジネスにおいて排出量を減らすためには、「従来の企業活動・バリューチェーンを大きく見直すこと」が必要だからだ。

当然、そこには痛みや現場の反発が生まれる。それらを抑えやりきるためには、実行主体に相応の権利・権限を付与することが必要になる。「経営陣レベルのメンバーが、コミットし、自分ごと化して推進すること」、これがサステナビリティーを実装する「最後のピース」である。

アパレル企業は「環境規制動向」の準備と対策が必要

コロナ禍でのワクチン接種の遅れは一部で「ワクチン敗戦」と揶揄されている。そして、日本はサステナビリティー対応においても遅れが目立ち、このままでは「グリーン敗戦」となる懸念がある。実際、エネルギー政策の問題から日本は先進国で最もカーボンニュートラルに向け遅れている国だ。

ただし、気候変動対策は地球規模で進めていく必要があるため、ガラパゴス化は許されない。今後日本においても外圧からさまざまな規制が検討されることが予想され、前述のとおり繊維・アパレル業界への波及もあるだろう。アパレル企業は、「グローバルの環境規制動向」を注視しながら、先んじて準備と対策を進める必要があるのだ。

最後に、筆者が所属するコンサルティングファームのローランド・ベルガーでは、「2028年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすること」を発表している。この削減目標設定に先立ち、自社の企業活動でどの程度CO2を排出しているか調べたのだが、その多くが社員の「移動」で発生することがわかった。

とくに、ジェット燃料を燃やす飛行機による移動はCO2排出に大きく寄与しており、出張や移動そのものを大きく見直すことが求められている。

気候変動はもう待ってはくれない。どうやら、コロナ禍が終息したとしても、リモートワークは終わりそうにない。