トラックにATMや銀行窓口を搭載した移動式店舗車が、地方銀行を中心に導入されています。これには現金決済の減少や過疎化、コンビニATMの普及などの影響だけでなく、災害時のインフラ維持という側面もあるようです。

災害時なくてはならない“現金”どう用意?

「災害大国」と表現されることの多い日本。事実、毎年のように台風や大雨、地震などで大規模災害が発生、そのたびに避難所に身を寄せる被災者の姿が、テレビをはじめ様々な媒体で報じられます。
 
 そうした被災生活でも、現金は必要になります。昨今ではクレジットカード払いや、電子マネーを始めとした各種キャッシュレス決済が普及したとはいえ、それらは電気が通じていなければほぼ使用できないため、停電時などを含め、最も災害時に強い決裁手段は、現金というのは否めないでしょう。


千葉銀行が2021年2月9日に導入した「ちばぎん移動店舗車」(画像:千葉銀行)。

 ただ、まとまった現金を常時、手元に置いておかない限り、どこかのタイミングでATM(現金自動預け払い機)や金融機関の窓口に駆け付ける必要性が生じます。とはいえ、ATM含め金融機関が稼働するためにも電気が必要です。そのため、大規模災害時や停電時は金融機関も閉鎖されることが多々あります。

 そんなときに便利なのが、自動車の荷台にATMを搭載した「移動式ATM車」です。

 信金中央金庫によると、移動式ATM車(移動金融店舗車)が日本に登場したのは1970年代とのこと。当初はATM(キャッシュディスペンサー含む)搭載ではなく、カウンターやいすを用意して窓口業務を行うための車両だったようです。

東日本大震災が契機となった移動式ATM車の普及

 その後、金融機関の店舗整理や、コンビニエンスストアへのATM設置などにより移動店舗車は数を減らします。しかし、2011(平成23)年3月の東日本大震災において、被災地の金融機関が軒並み営業できなくなったなか、移動店舗車であれば継続しての金融サービス提供が可能だと周知されるようになったことから、改めて同車を導入する金融機関が増加するようになったとのこと。

 特に衛星回線・無線回線を利用するタイプは活動場所を選ばないので、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策としての導入効果を考慮して採用するケースが増えているそうです。ほかにも、災害時には車両に搭載した自家発電機を用いて、最低限の電力供給を行うことも想定されるといいます。


千葉銀行が2021年2月9日に導入した「ちばぎん移動店舗車」(画像:千葉銀行)。

 実際、農林中央金庫は、各地の農業協同組合(JAバンク)において移動店舗車の導入を推進しています。これは災害対策以外にも、過疎地域での金融サービスの提供維持や、店舗統廃合によるサービス低下の穴埋めなどといった側面も。それだけでなく、移動式ATM車の増加によるメリットは計り知れないものがあります。

 同様の流れは、信用金庫や信用組合、地方銀行など、地域経済に密着した金融機関ほど進んでいるようです。そこで2021年初頭に、移動店舗車(移動式ATM車)の運用を開始した千葉銀行に話を聞いてみました。

千葉銀行のきっかけは2019年の台風被害

 千葉銀行が移動店舗車を導入したのは2021年2月のこと。千葉銀行の車両は、3.5tトラックがベースで、ATMと窓口機能を搭載、入出金や振込みのほか、口座開設や税金の納付、公共料金の支払いなど幅広い業務が行えるのが特徴です。

――移動店舗車はふだん、どのような場所で待機しているのでしょうか?

 千葉銀行では、大規模自然災害が発生したときなど、有事の際に出動させることを想定していることから、平時は本店車庫に格納し、待機させています。コロナ禍のいまは、出動の機会がないものの、今後は当行主催のイベントを含む、地域のイベント会場での営業も検討していきます。


「ちばぎん移動店舗車」の車内(画像:千葉銀行)。

――大きさを3.5tトラックにした理由を教えてください。

 災害時には幹線道路が封鎖されたり、一般道でも倒木や電柱の倒壊などによって大型車両の通行に支障が出たりすることが想定されるため、必要な機能を備えつつも小回りのきくサイズにしたというのが理由です。その結果、3.5tトラックの改装となりました。

――導入には、やはり2019年の「令和元年房総半島台風」時の教訓などあったのでしょうか。

 もともとBCP強化の一環で、移動店舗車の導入を検討していましたが、2019年の令和元年房総半島台風で、鋸南支店が被災(店舗の一部損壊)した際に、TSUBASAアライアンス(※)で連携する東邦銀行(福島県)が派遣してくれた移動店舗車を用いることで、最低限の金融サービスを維持・提供できたことが導入の大きなきっかけになっています。

――2019年の台風災害の際、東邦銀行の移動店舗車が鋸南支店の業務代行をしていますが、そのときと同じように千葉県外にも応援などで出動することはあるのでしょうか。

 災害の規模や要請の有無にもよりますが、県外被災地(業務提携する地方銀行の営業地域など)に派遣することも考えています。

――今後、導入数を増やすような予定・計画はありますか。

 いまのところ台数を増やす計画はありません。ただ、移動店舗車とは別に自家発電車両も保有していることから、これらを災害時に有機的に連携させて活用していくことを当面の課題と捉えています。

※TSUBASAアライアンス:千葉銀行、第四北越銀行、中国銀行、伊予銀行、東邦銀行、北洋銀行、武蔵野銀行、滋賀銀行、琉球銀行、群馬銀行などが参加した地方銀行間の広域連携システム

ミニバン搭載型ATMも登場

 千葉銀行の話を聞くと、移動店舗車は災害時だけでなく大規模イベントの際や、BCP対策といった側面から用意しておくと便利な車両であることは間違いなさそうです。たとえるなら、携帯電話会社の移動基地局車に類似したサービス車両といえそうです。

 なお、これまでは移動式ATM車というと、トラックベースのものが主流でしたが、窓口機能を有しないのであれば、もっとコンパクトな車両にすることもできるようです。


キャブオーバー型商用バンがベースの渡島信用金庫(北海道)の移動ATM車「おしま信金号」(画像:OKI)。

 OKI(沖電気工業)は2017年頃から、小型ATMを搭載した一般車両ベースの「移動ATMカー」を鹿児島銀行や宮崎銀行、渡島信用金庫(北海道茅部郡森町)などに納入しています。

 これらは、ミニバンまたはキャブオーバー型の商用バンをベースとしているため、従来のトラックタイプの移動ATM車では入れない細い路地や、駐車スペースの狭い場所でも用いることができる特徴を有しているそう。また大型車両運転手の手配などが不要なため運用しやすく、かつ車両がコンパクトなことから導入コストや維持コストを大幅に削減できるというメリットもあります。

 車内容積が限られるため、ATMの搭載に特化しているものの、大型のトラック型車両を導入することが難しい、中小規模の金融機関でも導入しやすい車両なのではないでしょうか。

 大規模イベントなどでも活用の可能性を含んでいる移動式ATM車/移動金融店舗車、今後は見かける機会も増えそうです。