世にも不思議で哀愁たっぷりの「昭和遺産」の数々をご紹介(写真:著者撮影)

ブログ「昭和スポット巡り」で、2012年からジャンルを問わず「昭和が体感できるスポット」をレポートしてきた平山雄さん。これまで訪ねたスポット数は1700カ所。彼の新刊『昭和遺産へ、 巡礼1703景』から、どこか不思議で懐かしい「昭和遺産」の光景を一部抜粋・再構成してお届けします。

昭和遺産1:高崎白衣大観音(群馬県・高崎市)

1936(昭和11)年建立の高崎白衣大観音。高さは41.8mもあり、特撮映画さながらの迫力です!


参道の土産屋や食事処は完全に昭和のまま(写真:著者撮影)

山頂にある大観音へ続く参道には、昔ながらの土産屋や食事処が軒を連ね、買い物や食事も楽しめます。

参道の上のほうにある「観音みやげ」は、昭和の面影があるというレベルではなく、完全に当時のままです。手書きのトタン看板やテントが、朱色でそろっているのもカワイイ。

店頭でみそおでんが売られていると、つい衝動買いしてしまいます。

大観音を眺めながらいただきました。高崎観音山丘陵には、石仏が39体も祀られている「洞窟観音」もあります。


(写真:著者撮影)

昭和遺産2:喫茶エルボン(鳥取県・米子市)

訪問すると、「本日は終了しました」の札が下がっていました。まだ昼過ぎなのに閉まるの早いなー。そう思いながらふと店内をのぞくとカウンターの明かりが見えたのです。そして、ダメ元でノックしてみると……。

ママさんが出てきてくれたのです。

著者:「スミマセン、今日はもう終わったんですよね」(白々しく)


お金いらないからコーヒー飲まない?(写真:著者撮影)

ママさん:「今日は休みなのよ。この札は下げているだけ」

著者:「埼玉から来たんですけど、店内を少しだけ見せてもらえませんでしょうか」(図々しい)

ママさん:「埼玉から来たの? 入りなさい」

著者:「ホントですか、ありがとうございます! お休みのところスミマセン」

ママさん:「ここに住んでいるから大丈夫。カウンターに座りなさい。お金いらないからコーヒー飲まない?」

著者:「いやー、ちゃんと払いますよ!」

ママさん:「いいのよ、これ、さっき自分で飲もうと思って多めにいれて残ってたやつだから」

著者:「そうですか、じゃあ、いただきます」

こちらのママさん、とってもやさしくて、上品で、マジでほれました。

北海道を代表する昭和遺産「かに太郎」

昭和遺産3:かに料理 かに太郎(北海道・白老郡)


海沿いに建つギザギザ10角形屋根(写真:著者撮影)

ここは室蘭街道。屋根がギザギザになっていて、まるで王冠のような外観です。窓の外にはすぐ海が見えるというロケーションもうれしい。地元の人でも廃墟と思っている人が多いようですが、立派な現役店です。

「かにめし」は人気があるので、昼時を過ぎると品切れになることもあります。味はちらし寿司に近いかなぁ。かにのほかにもタケノコや玉子が乗っています。


(写真:著者撮影)

店内は外から想像するよりも広く、照明器具も個性的。窓辺には、古いレジスター、木炭コンロ、文机など、お店の歴史を感じさせるものがいろいろと置かれています。

席は窓に沿って、ぐるっと1周が小上がりになっています。窓は傾斜があるため、座ると錯覚で床が斜めになっているように感じるのがちょっと面白い。道内で最も再訪したいお店です。


(写真:著者撮影)

昭和遺産4:珈琲カンテラ(宮城県柴田郡)

ここは、「一目千本桜」で知られる白石川のほとり。宮城県は、昭和時代に開業した個人経営の喫茶店が比較的少ないイメージがありますが、偶然にも、旅の途中で出会ってしまった、料理がとてもおいしい喫茶店


つながったトンカツ屋から食事が届く(写真:著者撮影)

昭和時代から何も変わっていないと思われる、とても落ち着く店内。それに加えて、ママさんがとてもキレイです。

お隣のトンカツ屋と店内がつながっているようで、注文したカツ丼とそばが、お隣から運ばれてきました。本格的な食事が楽しめる喫茶店は貴重です。

東京・上野にもあった「昭和遺産」

昭和遺産5:上野公園 東照宮第一売店(東京都・台東区)


トタン屋根の下にはお面、奥は小上がりの食事処(写真:著者撮影)

上野東照宮の参道入り口にある売店。トタン屋根の建物にストライプの庇が掛けられた、ノスタルジーがあふれてくるたたずまいです。店頭には子どもが喜びそうなおもちゃが並んでいますが、店内は庶民的な食事処です。


(写真:著者撮影)

店内の奥にある小上がりが味わい深いです。小さなお店ですがメニューは豊富で、ラーメン、ざるそば、親子丼、カレーライスなどなんでもそろっています。


(写真:著者撮影)

場所柄、利用者は観光客がメインと思いましたが、ほかの席のお客さんは、どなたも近所から来店された様子です。意外と、地元の常連が多い店なのかもしれません。

コーヒーをいただきました。上野公園には、今までに何度も足を運びましたが、売店の奥に食事処があることに、ずっと気づいていませんでした。上野の楽しみ方が、また1つ増えました。

昭和遺産6:金沢中央味食街(石川県・金沢市)


21世紀美術館とは対局、中心部に残る奇跡の風情(写真:著者撮影)

屋台横丁とも呼ばれる風情ある町並み

片町といえば、大きなビルが立ち並ぶ繁華街のイメージが強いですが、表通りからちょっと裏通りへ入ると、「新天地」という昔ながらの飲み屋街があったりします。そして、その中でもとくに味のある一画がここです。


(写真:著者撮影)

夕方早めなので人通りはありませんが、ほとんどの看板に灯りがついています。古い建物ばかりなのですが、現役店が多いようです。


(写真:著者撮影)

風情がある町並みだなぁ。現在の建物になる以前は屋台が並んでいたため、屋台横丁とも呼ばれているそうです。

なれない街の小さなお店に入るのは、ちょっと勇気があります。入店しようか迷いましたが、つい通り過ぎてしまいました。

昭和遺産7:喫茶 ニューコロムビア(新潟県・長岡市)

「お客さん来ないから暇でさ〜。さっきまで水槽の掃除をしてたよ(笑)」


起毛素材の壁紙が全面に張られて(写真:著者撮影)

マスターはいい具合に方に力が入っていない方で、コーヒーをいただきながら笑いっぱなしでした。全面に起毛素材の壁紙が張られた渋い内装です。


(写真:著者撮影)

開業は昭和31年。

著者:「内装のデザインはマスターが手がけられたのですか?」

マスター:「いや、親父が全部やったんだよ」

著者:「これだけすばらしいと内装目当てのお客さんも多いんじゃないですか?」

マスター:「ん〜、年に2〜3人はそういう人もいるけどね。この前も絵描きが来て絵を描いていったよ。まぁ、そういう客は一度来たらもう来ないけどね(笑)」

お店は地下ですが、もともとは1階に店を構えていたそうで、十数年後に地下へ移ったそうです(1階と地下の両方で営業していた時期もあったそうです)。

マスターに聞くのを忘れましたが、1階で営業していたときは、店名の「ニュー」がなく、ただのコロムビアだったのかもしれません。

宇宙船のような通路がすてきな「ハトヤホテル

昭和遺産8:ハトヤ ホテル(静岡県・伊東市)


♪伊東に行くなら……この連絡通路!(写真:著者撮影)

近未来的な連絡通路がすてきすぎる!


まるで宇宙船の内部のようにラウンドした壁。連続した目のような形の窓。そして、側面にまで張られた斜めストライプの絨毯が、異空間的な視覚効果を生んでいます。

連絡通路を外側から見ると葉巻型UFOのようで、窓の境にある雨樋が、アンテナのように見えてさえきます。

連絡通路が完成したのは1970(昭和45)年。昔はテレビでハトヤのCMがよく流れていたので、記憶に残っている人も多いでしょう。