新型コロナウイルスの感染拡大がスペインホテル業界に影響を及ぼしているという(写真:Manel Subirats/iStock、スペイン・バルセロナ)

新型コロナウイルスの感染拡大がスペインホテル業界に深刻な影響を及ぼしている。何しろ2020年の外国人観光客数は前年から6100万人も減少。ワクチン接種が始まった国があるとはいえ、当面観光業が回復する見通しはたたず、多くのホテルが資金繰りに苦慮している。政府からの支援もほぼないに等しい中、身売りを決めたホテルも出てきた。

これに目を光らせているのが、外国人投資家である。スペインといえば、フランスに次ぐ外国人観光客数を誇る観光大国だけに、このタイミングでホテルを手に入れようと考えているわけだ。

客室数50以下のホテルで売却希望が多い

2020年11月20日付の観光業界紙『ホテルトゥル』によると、スペインでは約550軒のホテルが売りに出されている。『エル・コンフィデンシアル』(2020年12月24日付)は、ホテルの売買を専門にしているブローカー「スターズフォー(Starsfour)」が1550軒のオファーを受けていると報じた。

中でも客室数が50以下のホテルの経営状況が厳しく、500軒以上が売却を規模しているが、買収の動きがあるのは最低でも部屋数が80〜100室あるホテルだという。

昨年3月、新型コロナによるロックダウンが始まった頃は、身売りを考えるホテルはまだ少なかった。2019年まで毎年利用客が増えていたことで資金的に潤っていたこともあり、当面は持ちこたえられると考えていた。7月は難しいとしても、8月頃からいくぶんか観光客が戻ってくると期待していたからだ。

ところが、8月に入っても感染の度合いは収まるどころか、逆に第2波が押し寄せてホテルを開けているよりも閉店しておいたほうが出費は少なくなるという状態に。昨年12月の時点でもスペイン国内に1万8300軒あるホテルうち、7600軒は休業状態にあった。

ただし休業はしていても一定の固定費は毎月発生する。その一方で期待されていた政府からの支援金の給付はない。こうした事態が長引くにつれ、多くのホテルで資金繰り問題が深刻になっていったわけだ。

営業を継続しているホテルでも現在の客室稼働率は地域によっても異なるが30〜40%の枠を超えることがない状態にあるという。販売可能な客室1室当たりの売り上げ(RevPAR)も従来比65%まで下落。営業すればするほど赤字が膨らむ状態となっている。

しかも、新型コロナの感染拡大がある程度抑えられ、観光業が回復するのは2022年とも2023年とも言われている。さすがにこの状況をあと1、2年続けるのは難しい、と多くのホテルが売却を考えるようになったようだ。

アンダルシア州では114軒が売りに

前述の『ホテルトゥル』は、売却を希望しているホテルの軒数を自治州ごとにリストアップしている。それによると、アンダルシア114軒、カタルーニャ101軒、カスティーリャ・イ・レオン67軒、バレアレス59軒、バレンシア43軒、ガリシア32軒、カナリア26軒、マドリード19軒などとなっている。

スペイン南部に位置し、日本人にも人気が高いアンダルシア州でも売却希望が最も多いのがマラガ県の39軒に上る。同県にはマルベーリャ、トレモリノス、ベナルマデナなど高級リゾート地があり、そこには多くのホテルが林立している。

次がグラナダ県の32軒。グラナダの4星ホテルホテル・アバー・デ・グラナダ(Hotel Abba de Granada)」の場合は、数カ月前にファンド会社が900万ユーロ(10億8000万円)で買収した。同ホテルはバスクの建設業者がホテル事業に乗り出したチェーンホテルであるが、グループの資金流動性を高めるため同ホテルを売却したと伝えられている。

カタルーニャ州ではバルセロナ県で49軒が売却リストに挙がっている。日刊紙『エル・パイス』(2020年12月7日付)によると、バルセロナのサンス駅近くのホテル「アクタ・シティ−(Acta City)」もこの1つ。1992年建設の4星ホテル(88部屋)で、売却希望価格は2650万ユーロ(31億8000万円)。

ホテルは国際会議や国際展示会の参加者が多く利用することで知られているが、昨年は2月に11万人の訪問が予定されていたモバイル・ワールド・コングレスが中止となったのを皮切りに、予定されていた展示会は軒並み中止に。国際会議も同様の状況で経営が立ち行かなくなったようだ。

バルセロナといえば、新型コロナ発生前は年間観光客数が約3200万人と、人口の約20倍に上り、オーバーツーリズム問題から2年前から新たなホテルの建設が禁止されていた街。ホテル売却という話題が上がることなど一切なかったのが、たった1年あまりで状況は大きく変わってしまった。

売却希望数が4番目に多いバレアレスは、マヨルカ島とイビサ島などがある自治州で、まさに観光で潤っている諸島である。イビサにある敷地面積4000平米、60台駐車可能な駐車場を擁する7階建てホテルの売値は5250万ユーロ(63億円)。これが現在売値ベースでスペインで最も高いホテルだとされている。

バレンシア州の場合は、地中海で最大のリゾート地ベニドルムがあるアリカンテ県で20軒が売却リストに掲載されている。カナリア諸島だと例えばラス・パルマスにある客室数185(バルコニー付きで各部屋オーシャンビュー)あるホテルの価格は、3100万ユーロ(37億2000万円)となっている。

バルセロナとマドリードの違い

マドリードでも5つ星ホテルが売却を希望しており、その価格は6500万ユーロ(78億円)と、8000万ユーロから値下げされている。

最も、同じ大都市でもバルセロナに比べてマドリードで売却を希望しているホテルが著しく少ないのは、マドリード市が固定資産税を50%減額するなどの支援をしていることが1つ挙げられる。またカタルーニャが独立の動きを強めて以降、バルセロナへの投資が鈍化していることも背景にあるようだ。

スターズフォーによると、売却を望んでいるホテルはどこも「水がもう首のところまで来ている状態」だという。一方、買い手は購入した価格から年率8%の収益が見込める必要があるとしている。そこで買収を希望している投資家は大幅な値下げを求める可能性が高い、と同ブローカーは指摘している。

いずれにしても、売却する場合に1つの目安となっているのが、客室数80以上あるホテルだと、1部屋当たり20万〜50万ユーロで総額1500万(約18億円)〜5000万ユーロ(約60億円)が相場となっていると、スペインの通信社エウロパ・エクスプレスは報じている。

これまでのところ、買収については多くの報道はないが、今後どういう投資家や企業が買収に名乗りをあげるのか気になるところだ。