プレステ5、2つの技術革新で狙う「PS4超え」
ソニーが発売するプレイステーション5の販売は出足好調だ(ソニー・インタラクティブエンタテイメント提供)
「プレイステーション4の発売初年度実績である、760万台以上の達成を目指す」
ソニーの十時裕樹CFOは10月28日に開いた業績説明会で、11月12日に発売される次世代ゲーム機「PS(プレイステーション)5」の販売目標に初めて言及した。7年ぶりに投入する新たなゲーム機で、データの高速読み取りや没入感を重視した仕掛けを凝らした自信作だ。
初日販売分では予約のみで完売
出足は好調だ。日本国内でも、ソニーのオンラインストアや家電量販店の予約販売では抽選に外れる人が相次いだ。11月5日、ソニーは12日の発売初日の販売分は予約のみで完売したと発表した。
量販店に行列ができて、新型コロナの感染拡大につながることを防ぐため、取引先である量販店と協力して店頭販売をしないよう申し合わせたという。
ソニーのPS事業を担うソニー・インタラクティブエンタテイメント(SIE)のジム・ライアン社長は「12月以降も、ゲーマーの手にPS5を届けるために全力で在庫を積んでいる」と話す。
2021年3月までに760万台という販売規模は、生産体制にも負荷がかかっている。「搭載する部品の生産量から計算すると、限界の台数だった」と部品メーカー関係者は明かす。
PCやスマホによるゲームが拡大するなかで、PS5でソニーが最も重視したのは「圧倒的な没入感」だ。
SIEで製品企画の統括責任者を務める西野秀明氏は「PS5では、一度入り込んだら抜けられない体験を提供したい」と語る。PS5に搭載された新技術は、没入感を生み出すことを中心に構成されている。
プレーヤーの没入感にどうつなげるか
進化した技術の1つは、PS4まで記憶装置として使われていたHDD(ハードディスクドライブ)をSSD(ソリッドステートドライブ)という半導体メモリを使った装置に切り替えたことだ。これによりゲーム中にデータを読み込む時間が劇的に減り、プレーヤーの待ち時間が少なくなった。
SSD自体は、同時期に発売されるマイクロソフトのライバル機種「XboxシリーズX」も採用されている。近年の技術進歩を考えれば、当然の結果ではあるが、高速処理にとどまらず、それをいかにプレーヤーの没入感につなげるかがポイントになる。
「ゲームの途中でスマホを見て、ゲームに戻ってこないということがあっては困る」(西野氏)
没入感を演出するために、PS5のコントローラーは大きく進化した(編集部撮影)
そのため、メニュー画面やプレイ中のヘルプ表示など、細かな点についてもリサーチを重ねた。SSDの反応速度もゲームプレイに最適になるように調整し、PS4と比べてPS5の快適さは段違いに改善したという。
没入感を演出するための最も大きな進化はコントローラーにある。触覚を再現する「ハプティック技術」を追求したPS5のコントローラーには、新開発のアクチュエーター(モーターの一種)を搭載。きめ細かな振動を発生させることで、砂や氷の上を歩く感覚を詳細に再現することに成功した。
一部のボタンには反発力を持たせ、例えば銃の引き金を引くような感触を作り出した。「われわれの作るコントローラーとテレビの組み合わせでしかできない体験を作り出した」と西野氏は自信を示す。
もう1つ、PS5の成功を占ううえで見逃せないのが、ネットワーク機能への対応だ。
PS4が販売された7年間で、ソフトのダウンロード販売やインターネット対戦は飛躍的に拡大した。PSではダウンロード販売がディスク販売を大きく上回り、全体の約6割に達するほか、オンライン対戦などに必要なPSの月額課金サービス「PSプラス」の会員数も、全世界で4590万人にのぼる(2020年9月末時点)。
【2020年11月11日15時38分追記】初出時の数値を一部修正いたします。
新型コロナ禍の巣ごもり需要もあり、PSプラスの会員数はこの1年で900万増えた。さらに、PSプラスを含めたネットワークサービスのアクティブユーザーは1億人以上になる。
サブスク型ビジネスモデルへ転換
こうしたユーザーは、PS4などの旧来のゲーム機を保有している。こうしたユーザーを囲い込むために、PS5ではPS4のゲームソフトをそのまま利用できるようにした。西野氏は「PS4のユーザーが一夜にしてPS5に移行するわけがない。ゆくゆくはPS5で遊ぼう、そんなニーズを満たしたいという点を一番優先した」と開発経緯を振り返る。
SIEの西野秀明氏は「一度入り込んだら抜けられない体験を提供したい」と意気込む(ソニー・インタラクティブエンタテイメント提供)
PS5とPS4はゲームの基本設計が似ており、技術的に困難が少なかったことも理由だが、PS4時代に作り上げたコミュニティを手放すわけにはいかなかった。優れた互換性を売りにしているマイクロソフトのXboxと同じ土俵で戦う条件がそろった。
ユーザーを囲い込めれば、継続的な課金によるサブスクリプション型の収益が期待できる。ハード売り切りからサブスク型への移行は、PSに限らずほとんどのゲーム業界で起きている現象だ。今後、クラウドゲームなどが増えた際にPSが持つユーザーコミュニティは強みになる。
PS5の浮沈はソニー全体の業績を大きく左右する。2020年3月期に全社利益の4分の1に相当する2384億円の営業利益を計上したゲーム事業は、巣ごもり需要を取り込んで2021年3月期も順調に推移している。2020年4〜9月期の売上高は1兆1127億円(前年同期比22%増)、営業利益は2289億円(同64%増)だった。
新しいゲーム機の投入初期は巨額の開発費や宣伝費がかかるが、10月28日には2021年3月期の業績見通しを上方修正。売上高見通しを2兆6000億円(同31%増)、営業利益見通しを3000億円(同26%増)とした。米中摩擦などで、もう1つの稼ぎ頭である半導体事業が減速することもあって、全社利益に占めるゲーム事業の割合は4割超となる。
11月10日にはライバル・マイクロソフトのゲーム機「XboxシリーズX」が発売された。スマートフォンやパソコンなど、ゲームを楽しむプラットフォームが多様化する中、PS5のような据え置き型ゲーム機の存在感をどう打ち出すのか。PS5の成否はソニーの成長を占う上で試金石になる。