iPadで描く作品のクオリティがあがる!
マンガ家ホリプーさんが「MORISAWA PASSPORT for iPad」を使う理由

2020年11月9日
INTERVIEW&TEXT:編集部

iOS 13/iPadOS 13からカスタムフォント機能が搭載され、サードパーティ製のフォントを端末にインストールして利用できるようになりました。国内トップシェアを誇るフォントベンダーの株式会社モリサワも、いち早く同機能に対応した「MORISAWA PASSPORT for iPad」をリリース。広告や書籍、CMなどでよく見かける高品質なフォント491書体が定額で使い放題になるということもあって、プロのクリエイターを中心に大きな注目を集めています。

そこで今回、芥川賞作家・平野啓一郎さんの同名小説をコミカライズした漫画『マチネの終わりに 上下巻』(毎日新聞出版)などで知られる新進気鋭のマンガ家ホリプーさんに同製品を試してもらい、そのリアルな使い勝手や魅力を伺いました。

書体選びは作品の印象を大きく左右する

──今回、「MORISAWA PASSPORT for iPad」をどのように使用されましたか?

ホリプーさん:以前、SNSにアップするために描いた漫画があるのですが、そのリメイクに使用してみました。たとえば「みんな!燃えろ!本気になるんだ!」と男性が大声で叫んでいる作品や、CDを手にした女の子が「キター!!! 神曲」と叫んでいる作品。絵のイメージや伝えたいことに合わせて改めて「MORISAWA PASSPORT for iPad」からフォントを選び直してみたのですが、書体を変えただけで印象がガラッと変わり、よりしっくりくる表現になって……。「最初からこの書体を使えばよかった!」と思いました。


書体変更前の作品。極太の明朝体で叫び声を表現


筆のバサバサ感が残る極太の書体「ぶらっしゅ」に変更し、勢いのあるセリフに少しだけおバカな雰囲気を込めている


書体変更前の作品。「キター!!! 神曲」の部分は描き文字を使用


「キター!!! 神曲」部分を「ぶらっしゅ」に変更。より勢いと振動を感じさせるような表現になった

──確かに書体が変わると印象も全然違ってきますね。

ホリプーさん:マンガ家になる前にデザイナーをやっていたこともあって、広告や雑誌、漫画などでどんな書体が使われているかは常に意識しているんです。「これいいな」と思ったらどんな書体なのか調べて、自分でも同じものを使ってみたり……。たとえばマンガの場合だと、同じ「声」でも肉声と心の声、電話などの機械を通して聞こえる声とで異なる書体が使用されていることが多いんですよ。でも使用できる和文フォントが限られていると、どうしても似たような書体を使うようになってしまい、アイデアが広がっていかない。だから豊富な書体を使用できる「MORISAWA PASSPORT for iPad」のようなフォントのサブスクリプションサービスが登場したのはすごく嬉しかったですね。


使う書体によって作品の印象は大きく変わってくる


書体選びの大切さを語るホリプーさん

マンガ制作に「MORISAWA PASSPORT for iPad」が活躍

──普段からiPadでマンガを描くことが多いのでしょうか?

ホリプーさん:基本的にiPadとMacの両方を使用しています。どちらもアプリはCLIP STUDIO PAINTをメインで使っているのですが、クラウド経由で作業を引き継げるので、iPadは出先で作業したりネームを描いたりするときに利用し、本番原稿はMacBook Proと液晶ペンタブレットのWacom Cintiq Pro 24で制作するという具合に使い分けています。

SNSにアップするようなマンガや軽めの作業は、iPadでほとんどを仕上げることも。そんなときにフォントがあると、わざわざデータをMacに移さなくてもiPadだけで完結できるのがありがたいですよね。これまでは、出先で「あー、あのフォントがあれば作品をいますぐ仕上げて投稿できるのに」ということが多々ありましたから(笑)。


出先で作業するときはiPad Proとキーボード、テンキーを持ち歩いて使用するとのこと。テンキーはブラシサイズの変更などのショートカットキーとして活用しているそうだ


iPad版のCLIP STUDIO PAINTを使っているところ。SNSマンガなどはiPadで作業が完結することも多いという

──「MORISAWA PASSPORT for iPad」を導入して制作スタイルに変化はありましたか?

ホリプーさん:これまでだとマンガのセリフなどに使う書体はMacでひとつずつ試しながら選んでいたのですが、iPadで選ぶことが多くなりましたね。「MORISAWA PASSPORT for iPad」のアプリって、書体見本が一覧で表示されるのでイメージが湧きやすいんですよ。「これは恋している女の子のセリフだから、この書体が合いそう」などと、すぐ見当をつけられるのはすごく便利です。


「MORISAWA PASSPORT for iPad」のアプリで書体を探しているホリプーさん


「MORISAWA PASSPORT for iPad」のアプリ画面。収録フォントの書体見本が一覧で表示される

──作品の仕上がりに影響はありましたか?

ホリプーさん:書体の印象を作品づくりに活かしやすくなりました。これもリメイクしたものですが、「彼女の目は水に浸すラムネを見ていた」という作品では、コピーの書体を、少し懐かしくて、でも古くなく、エモーショナルな雰囲気を持つ書体に変更してエモさや青春っぽさをより際立たせています。また、駄菓子屋のおっちゃんと少年のやりとりを描いた作品では、セリフやモノローグに合わせて書体を細かく変更してみました。書体見本を見ながら選べる「MORISAWA PASSPORT for iPad」があったからこそ、できたことですね。


書体変更前の作品。先端が丸く処理されたオールドスタイルの明朝体で、エモーショナルな雰囲気を表現


エモーショナルな雰囲気を出しつつ、「懐かしいのに新鮮」という感じをより強めたかったので、伝統的な隷書の特徴を明朝体に取り入れた「解ミン 月」を選択


書体変更前の作品。セリフやモノローグはすべて明朝体を使用


中段のセリフは、おじさんのガラガラでデカイ声を想定して「ぶらっしゅ」に変更。下段のモノローグ部分は、レトロな雰囲気の「シネマレター」に変更して過去の記憶であることを表現

プロ品質のフォントが作品を格上げしてくれる

──ほかに使ってみて気に入った書体はありますか?

ホリプーさん:洗練されたフォルムの「フォーク」や画線の交差部分に墨だまりのある「A1明朝」などは、以前からお気に入りの書体。それがiPadで使えるのはすごく嬉しかったですね。また、素朴な味わいのあるかわいらしいデザイン書体「はるひ学園」は、気になっていたけれど使いどころがいまいち分からなかった書体。今回試してみてキャラクターのセリフなどに使うのもおもしろそうだと気付かされました。ほかにも雑誌や広告などでよく見かける定番の書体が数多く収録されていたり、ウェイト(書体の太さのバリエーション)が豊富に揃っているのもありがたいです。


露骨に甘えるか弱い女の子を思わせる書体として「はるひ学園」を選択


淡々としゃべる声をオーソドックスで端正なゴシック体「太ゴB101」で表現している

──たくさんフォントがあると、どれを選べばいいのか迷いそうです。

ホリプーさん:「MORISAWA PASSPORT for iPad」のアプリにはブックマーク機能があって、ブックマークをつけた書体だけをまとめて表示することができます。気になる書体や使ってみたい書体をどんどんブックマークして、それぞれを比較したり、意識して名前や形を覚えたりすると勉強になりますし、書体選びの感覚も身についていくと思います。

また、基本的なルールを知ることも大切。たとえば絵の輪郭線などの太い線に書体の太さを合わせると、文字が読みやすく絵にもなじみやすくなるんです。手書きの文字を使う場合は全部を手書きにしてしまうと緩い印象になるので、どこかにカチッとした読みやすいフォントを使うと、コントラストがついて互いを引き立たせられますよ。


輪郭線の太さとセリフの書体の太さを合わせた例。スタンダードな明朝体やゴシック体は数種類文字の太さが用意されていることが多いので、絵になじむ太さを意識して選ぶのが大切


手書きのロゴを使用した例。セリフにカチッとしたフォントを使うことでコントラストがついて絵やロゴが映える。セリフに使用した書体は繊細なイメージの「明石」。そのままだと細すぎるため、可読性を意識して文字を少し太らせている

──「MORISAWA PASSPORT for iPad」はどんな人に向いていると思いますか?

ホリプーさん:マンガやイラスト、デザインなどの仕事をしている人はもちろんですが、趣味でお絵描きをはじめた人にもぜひ使ってみてほしいですね。とくにSNSなどに自分で描いたマンガやイラストをアップしたいと考えている人には強くおすすめします。書体に気をつかうことでクリエイターとしての視野が広がり、表現力や作品のクオリティもアップしますから。

モリサワのフォントって実際にプロの制作物に使用されている高品質なものが多いので、取り入れれば絵の出来がいまいちでもちゃんとした作品に見えちゃうことがあるんですよ。逆にOSやアプリに標準搭載されている書体しか使わないと、絵がうまくても表現の幅が広がっていかないし、他の作家さんとも差別化しにくくなってしまう。その意味では、作品のクオリティをあげたいと考えているクリエイターに向いていると思いますし、おすすめですね。


今回、「MORISAWA PASSPORT for iPad」を試用したホリプーさん。普段の作品づくりはもちろん、インスタライブなどでも活用してみたいと語ってくれた

「MORISAWA PASSPORT for iPad」

モリサワフォント409書体、タイプバンクフォント82書体の計491書体が定額で使い放題

モリサワ、タイプバンクの人気書体から厳選された和文書体に加え、多言語フォントや最新書体もラインナップ。iPadでのデザイン、創作をサポートする充実したフォント環境を提供する。
URL:https://www.morisawa.co.jp/products/fonts/mpapp/

価格:月額500円(2020年12月31日まで)※2021年1月〜は月額880円
互換性:iPadOS 13.1以降。

ホリプー
マンガ家。コルク所属。アイスメーカーでデザイナーを経験後、幼い頃の夢だった漫画家を目指し、30歳から再出発。『マチネの終わりに』(原作:平野啓一郎)などの作品がある。
URL:https://note.horipu.com