石垣のりこ参院議員の公式サイトより

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立憲民主党・石垣のりこ参院議員が辞任を表明した安倍晋三首相について「大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない人物」などと記したツイートは、投稿から丸1日経っても批判が殺到している。2020年8月29日16時現在、関連する投稿と合わせたツイートは10万件以上リツイートされた。そんな中、一部では石垣氏を擁護する意見も出始めている。

著述家の菅野完(たもつ)氏は「どこが差別やねん。どこが酷い言い方や」とフェイスブックに書き込んだ。弁護士で日本労働弁護団全国常任幹事の渡辺輝人氏はツイッターで「あれで辞める必要、全然ないだろう」と、石垣氏の議員辞職を求める声に対して意見を述べた。

「『安倍しかいない』と、持病を抱える人に重責を押し付けてきた」

石垣氏の問題のツイートは28日16時ごろ、安倍氏が持病である難病、潰瘍性大腸炎の悪化を理由に辞任の意向を固めたと報じられた直後だった。石垣氏は「総理といえども『働く人』。健康を理由とした辞職は当然の権利。回復をお祈り致します」と労うも、続けて「が、『大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない人物』を総理総裁に担ぎ続けてきた自民党の『選任責任』は厳しく問われるべきです。その責任を問い政治空白を生じさせないためにも早期の国会開会を求めます」と続けた。難病に「癖」という言葉を使って揶揄したことに、同じ疾病を患う人々に対する差別ではないかと批判が集まっていた。

一般ユーザーの「こんな発言があるからブラック企業があるのですよ」という声に対しても、石垣氏は「第一次政権も体調不良でお辞めになり、この八年の間もなんども健康不良説が流れたわけです。なのに『安倍しかいない』と押しつけてきたわけです。もし自民党が会社ならば、これほどブラックな職場もないでしょう」とリプライ。主張を変えなかった。

その後の同日17時前、菅野完氏はフェイスブックに、冒頭の石垣氏のツイッターのURLを引きながら、「石垣のりこのこの発言に、『なんて酷い言い方だ』『差別じゃないか』と、群がってる。ってこれ、どこが差別やねん。どこが酷い言い方や」と投稿した。

菅野氏は「昔、俺の上司に、ナルコレプシー(編注:睡眠障害の一種)を患ってる人がいた。仕事は出来るが、突然寝る、というか落ちるんだ。お客さんと大事な打ち合わせしてるときでも落ちる。が、会社は彼を守ったし、事実彼は出世した。が、『落ちることが許されない業務』には絶対つかせなかった。彼が希望する業務でもつかせなかった。当然よね、危ないから。この会社の措置は、差別でもないし、ノーマリゼーションに逆行してるわけでもない。当然のことだ」と続けた。

その上で菅野氏は「翻って安倍政権。一度目の内閣を体調不良でやめ、そして、2度目の内閣もずっと健康不安がつきまとった。しかも同じ持病でだ。にもかかわらず、『安倍しかいない』と、持病を抱える人に重責を押し付けてきた。こんな無責任なことあるかい?普通の会社なら、労災だぞ。『安倍しかいない』と言う理由で、重病を抱える人間に仕事を押し付けてきたほうが問題に決まってるじゃないか。ブラックなのは自民党であり、ノーマリゼーションに逆行してるのは自民党。よく考えろ」と石垣氏への批判に釘を刺した。この投稿には「いいね」などの反応が169件ついている。

菅野氏は、保守系団体で自民党との密接な関係が指摘される「日本会議」について論じた『日本会議の研究』(扶桑社、16年)の著者として知られる。17年には森友学園問題で、籠池泰典元理事長らと財務省との会話の音声データを入手したことで注目された。

石垣氏「配慮が足りなかったと反省しお詫びします」

安倍氏は菅野氏の投稿直後となる17時からの会見で、首相辞任の意向を正式に表明。理由として潰瘍性大腸炎の悪化を明言し、経過を説明した。第1次政権時代も同じ持病の悪化で辞任したが、その後新しい薬が効いて体調は回復。第2次政権が発足すると「この8年近く、持病をコントロールしながら何ら支障なく総理大臣の仕事に毎日全力投球することができた」が、8月上旬に再発したという。

一方の石垣氏は同日22時すぎ、複数の報道機関から問い合わせがあり、回答書面を作成したとしてツイッターにもアップ。「与党自民党および政府は、『持病で職を辞す』という経歴をおもちの安倍晋三氏がその職責を十全に果たせるような措置をとりませんでした。職場のノーマリゼーションという観点からは、選任側の責任として、『同じ理由で辞めることのないように環境を整備する』ことが必要だったはずです」などとして、政府・与党の責任を引き続き追及している。

ほぼ同じタイミングで立憲民主党の枝野幸男代表は、石垣氏の問題ツイートに厳正に対処すべきとの指摘を受け、「申し訳ありません。執行部として不適切であるとの認識を伝え然るべき対応を求めました」とツイッターに投稿した。すると29日0時前、石垣氏は再度ツイッターを更新し、「先ほど福山幹事長より『"大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない人物"という表現は、不可抗力である疾病に対して使う言葉として不適切である』とご指摘を頂きました。確かにこの箇所の表現に、疾病やそのリスクを抱え仕事をする人々に対する配慮が足りなかったと反省しお詫びします」と謝罪した。

続けて石垣氏は「立憲民主党は綱領で『私たちは、一人ひとりがかけがえのない個人として尊重され、多様性を認めつつ互いに支え合い、すべての人に居場所がある「共に生きる社会」をつくります』と掲げています」「この綱領のもと、私も党の一員として、『身体的特性や疾病で、本人の就労意思が阻害されない、強くたおやかな社会』『全ての差別を克服する社会』を構築するため、今後も引き続き職務に邁進して参ります」との意思を表明した。

「揚げ足を取られる」

だが炎上はやまず、ツイッター上では「#石垣のりこ議員の辞職を求めます」というハッシュタグが一時トレンド入り。そうした中で29日にも、石垣氏を一部擁護する声があがった。

渡辺輝人弁護士はツイッターで「石垣のり子、あれで辞める必要、全然ないだろう。誰が書いたのか知らないが、下手な釈明文書作らない方が良かったのではないか。適切でない表現だった、と短く謝罪して消せば炎上しなかったのに」との意見を投稿した。

渡辺氏は続く投稿で、安倍氏の辞任について「事の本質は、安倍首相が持病を都合良く政治的に使っていることにある」とし、「そこで批判の仕方を間違えると、以前の私や今回の石垣のり子議員のように、揚げ足を取られる。安倍首相の設定した土俵(罠)に乗ってはいけない。批判の方法は、総理大臣としての責任を最後まで果たさせることに尽きるのである」との認識を示した。

弁護士の神原元はツイッターで29日、「たかがあの程度の発言でいちいち批判を浴びて発言を撤回するようでは、市民の発言の自由に対する萎縮効果が甚大である」として石垣氏に発言を撤回しないよう求めた。また、「民放のアナウンサーがコロナに罹患すると『危機管理がー』となるのに、一国の総理大臣が病気で公務を投げ出した時は、同じことを言った方が袋叩きになるんだからなぁ」とし、「前者を責めるのは間違いだ(後者もまぁ仕方ない)。しかし、あまりにもアンバランスなのが問題だ」としている。

潰瘍性大腸炎は、難病法にもとづく国指定難病(指定番号97)。難病情報センターのウェブサイトによると国内に16万人以上の患者がいる。多くの場合は症状の改善や消失(寛解)が認められる一方、「再発する場合も多く、寛解を維持するために継続的な内科治療が必要です」という。