この状況でも「コロナ感染者ゼロ」と発表し、ミサイルを撃ち続ける北朝鮮。そんななか、3年前に発覚した「クーデター計画」の詳細が明らかに。そこには、国家の中枢にかかわる人物が……。

金正恩暗殺」――。それは、けっして荒唐無稽な話ではない。2017年5月、北朝鮮の国家保衛省が、ある「声明」を発表した。それこそが「暗殺作戦」の存在を知らしめるものだった。

 元韓国国防省・北朝鮮情報分析官のコウ・ヨンチョル氏が、その全貌を明かす。

「声明には、こう書かれていました。『我々の最高指導者を暗殺しようとする、テロリストを摘発した』『テロリストには、米CIAと韓国国家情報院が深くかかわっていた』。この声明で北朝鮮は、米韓に謝罪を求めています」

 明らかにされた「暗殺作戦」は、以下のように詳細で具体的だった。

 CIAや国家情報院が、ロシアのハバロフスクに森林伐採作業で派遣されていた北朝鮮人労働者「キム某」に複数回にわたり接触。スパイ化教育を施した。

 キム某は北朝鮮に帰国後、金正恩委員長の暗殺を画策。放射性物質や、毒物を含む極小の化学物質の使用を計画し、さらには軍事パレードなど主要行事の最中に、爆弾による委員長暗殺を図ろうとした――。

「この『作戦』は、2014〜2015年に立てられたものです。当時、韓国の朴槿恵政権は、南北経済協力を進める一方で、密かに金正恩政権の『レジームチェンジ(体制転換)』を画策していたのです。北朝鮮内には、米韓がクーデターを仕掛ければ、それに呼応するグループが存在していました。

 しかし朴槿恵はその後、不祥事で弾劾されて力を失い、支援要請に応えられなくなった。北朝鮮のクーデターグループは自分たちで資金を集めたのですが、実行直前になって作戦が発覚して、中止せざるを得なくなったんです」(コウ氏、以下同)

 それ以降、「暗殺作戦」について語られることはなかった。だが、ごく最近、韓国でこの「幻の計画」にふたたび光が当てられた。みずからも脱北者である姜哲煥・北韓戦略センター代表が、脱北者の証言から驚くべき事実を入手したのだ。

 それは、「北朝鮮の国家保衛省に、金委員長を除去するためのクーデターグループがいた」というものだった。

「国家保衛省は、1973年に国家保衛部として発足した機関で、秘密警察と防諜を任務としています。いわば北朝鮮版のCIAのような組織です。つまり、クーデターを首謀したのが、情報機関の職員だったのです。しかも計画には、高官級を含む15人が加わっていたことがわかりました」

 2017年、米韓による「金正恩暗殺作戦」を発表し、非難したのが、まさにこの国家保衛省だった。じつはそのトップが、「金正恩暗殺作戦」を主導していたというのである。

 当時は公にはされていなかったが、保衛省のクーデターメンバー15人は逮捕され、トップの金元弘国家保衛相が解任されるなど、国内では大々的な粛清が、すでにおこなわれていた。

「金元弘元保衛相は、『処刑された』とも、『政治犯収容所に送られた』とも、いわれています。クーデターを企てた15人は処刑され、その家族も収容所送りになったといいます」

国防省情報本部で北朝鮮情報の分析官を務めたコウ氏

 金正恩委員長は、何度かテロと疑われる事態に遭遇している。

「2012年の暮れに、彼の視察先で、1丁の機関銃が見つかっています。機関銃には銃弾が装填され、どの部隊に支給されたかがわかる『通し番号』が消されていたそうです。

 過去には、国内の飛行場で大量の爆薬が見つかったと報じられたことがありました。身の危険を感じた金正恩は、これを叔父の張成沢一派の仕業と思い込み、それが張成沢を処刑する引き金になったという情報もあります」

「暗殺作戦」が後を絶たない背景には、金正恩体制に対する、根強い不信と不満がある。北朝鮮内部には、体制の転換を望む民衆が潜在的に相当数おり、そして国外では、「金正恩体制打倒」を目指す国際組織「自由朝鮮」が存在する。

「暗殺された金正恩の兄・金正男の長男である金漢率の身柄を保護し、北朝鮮からの密出国を支援しているといわれる組織です。

 ここには、多くの脱北者も参加しています。在スペイン北朝鮮大使館を襲撃し、コンピュータなどを奪ったことでその名を知られました。彼らはCIAの資金援助を受けており、米国とも連携しているのは確実です」

 さらにCIAは2017年、韓国に「コリア・ミッションセンター」を組織。対北朝鮮工作を担わせているという。

「韓国国内だけではなく、中朝国境地域で北朝鮮に出入りする北朝鮮人や、中国国籍の朝鮮族に資金を与え、スパイ候補を探しているのです」

 コウ氏は「ここにきて『暗殺作戦』が実行される可能性が高まっている」という。その理由は、北朝鮮の軍内部での体制への不満が、爆発寸前にまで達しているからだ。

「農作物の不作と経済制裁により、軍の食糧の補給が70%も削減されました。それに加え、コロナウイルスの拡散で物流が止まり、軍の食糧補給がより厳しくなっています。クーデターがいつ起こってもおかしくない状況にあるといえます。

 とはいえ、北朝鮮のような相互監視社会では、クーデター計画があればすぐに発覚してしまう可能性が高い。そのため、陸海空軍を巻き込むような大がかりなクーデターではなく、少人数によるプライベートクーデターの可能性が考えられます」

 新型コロナウイルスについて、北朝鮮は「我が国には一人の感染者もいない」とWHOに報告している。だが、コウ氏によれば、感染拡大を裏づけるこんな情報がある。

「感染した人の家の扉に釘を打って隔離し、治療が受けられないまま家族5人が亡くなったという話や、国境封鎖の指示を守らず中朝国境を出入りし、処刑された例もあるといいます」

 内側の不満と外側からの圧力、さらにコロナ問題。金正恩体制を追い詰めるのは、何か。

写真・提供:KNS/KCNA/AFP/アフロ

(週刊FLASH 2020年4月28日号)