石塚 しのぶ / ダイナ・サーチ、インク

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コロナ・ウイルス感染拡大防止を目的とし、アメリカの全人口の95%が「ロックダウン」状態にある中、ファストフード・レストランおよびクイック・サービス・レストラン大手数社が、追加売上の獲得を睨み食品およびサプライの販売を始めています。

全米で2,000店舗以上を展開し、年商20億ドルを超える売上をあげるクイック・サービス・レストラン、パネラ・ブレッド(Panera Bread)は、「パネラ・グローサリー(Panera Grocery)」と銘打ち、グローサリーの販売を始めました。

パネラ・ブレッドはサラダやサンドイッチ、スープなどの軽食を主力商品とするお店ですが、「パネラ・グローサリー」のサービスを通して、基本的にこれらの軽食に用いる食材を販売しています。ベーグルやバゲット、食パン、ミルク、ヨーグルト、クリーム・チーズ、リンゴ、アボカド、ブルーベリー、ブドウ、トマトといったようなものです。各都市の外出禁止令に従い、飲食店はイート・インのサービスを全面的に停止し、現在、テイクアウトとデリバリーのみを提供していますが、イート・イン・サービスの停止に伴い売上が激減する中、1)食材の販売により売上を補完する、また、2)店舗での販売量が激減しているため、せっかく仕入れた食材が無駄になるのを防ぐという二つを意図したものと思われます。

また、サブマリン・サンドイッチのファストフード・チェーン、サブウェイ(Subway)は、カリフォルニア州、コネチカット州、オレゴン州、テネシー州、ワシントン州で250店舗以上を展開していますが、同社も「サブウェイ・グローサリー(Subway Grocery)」と銘打ち、主力商品であるサンドイッチやスープの食材であるパン、肉、卵、チーズ、野菜、冷凍スープなどを販売しています。サンドイッチの具ですから、「肉」といっても生肉ではなく、グリルされたチキンやバーベキュー・チキンなど調理済みの肉です。それを、「バルク」で買うことができます。たとえばグリルされたチキンを3ポンド(約1.4キロ)などというようにまとめ買いできるのです。アメリカ人は料理が嫌いな人も多いですから、ロックダウンされている中、こういった食材をまとめ買いしておいて、サンドイッチをつくって食べる、というのはなかなか需要がありそうです。

実は、こういった「工夫」を先んじて始めたのは中小独立系のレストランらしいです。ロックダウンの直後に、店を閉めなければいけないが、すでに仕入れてしまった食材をどうしよう・・・ということで多くのレストランが食材の販売を始めたのだそうです。そうしたスモール・ビジネスの「知恵」を大手が学んで取り入れているわけです。

ロックダウンが始まって以来、パネラ・ブレッドの売上は半減。サブウェイも同様に売上が減少し、本社の社員300人を解雇するなどの影響が出ています。「サブウェイ・グローサリー」は、フランチャイジーの売上を補完し、解雇の拡大を防ぐためだといいます。

また、やや小さめのサンドイッチ・チェーン、ポットベリー(Potbelly)も、「ポットベリー・パントリー(Potbelly Pantry)」という名前でグローサリーの販売を始めています。コロナ・クライシスが深刻化するとともに、この「グローサリー販売」のトレンドは大手のレストラン・チェーンにさらに広がっていきそうです。売上を補完する、食材の無駄を防ぐ、という利点のほかに、一般のスーパーで食材を買い求める人で長蛇の列ができる中、それに代わる食材調達の方法を顧客に提供し、ロイヤルティを高めるという意図もあります。

調理をする習慣があまりない「外食大国アメリカ」ですが、ロックダウンの中、生活者は普段の食費を外食からスーパーなどの買い物にシフトしており、その影響で3月中旬以降のスーパーの売上は約73%増加しています。その一方で外食産業が困窮しているわけですが、「グローサリー販売」という工夫が売上向上にどれだけ貢献するのか、そして究極的に、レストランを解雇や倒産から救う策になりうるものなのかは未知数です。しかし、生き残りをかけて様々な創意工夫を凝らす企業に敬意を表すとともに、生活者としても力を尽くして応援していきたいものです。