成長が続くフードデリバリー市場で、出前館は急拡大を続けている(写真:出前館)

軽減税率導入などを追い風に成長が続くフードデリバリー市場。活況を背景に、自分たちで料理を届けられない飲食店の配送を代行する「Uber Eats」や「楽天デリバリー」などのデリバリーサービスが事業を拡大している。

最大勢力は、出前を展開する飲食店とユーザーを仲介するポータルサイトを運営する「出前館」だ。2016年に飲食店のフードデリバリーを代行する「シェアリングデリバリー」事業を始めて以来、急拡大を続けており、今や配送拠点数は247カ所、加盟店も2万を超える(2019年12月末時点)。

一方で、直営の配送拠点と直接雇用の配送員が増えたことで、人件費などの販管費が増大。前2019年8月期は、売上高66.6億円に対して3900万円の営業赤字を計上。今2020年8月期も同様の先行投資が重なり、営業赤字は15億円にまで拡大する見込みだ。

2020年に入ってからの株価も1000円前後で推移しており、2019年8月期の決算が発表された2019年10月10日以前の水準(1500円前後)と比べると冴えない。

フードデリバリーはこれからどうなるのか。出前館の中村利江社長に聞いた。

フードデリバリーが徐々に認知されてきた

ーーフードデリバリーの認知度が高まってきています。現状をどうみていますか。

正直なところ「やっときたか」と思っている。これまで「出前に大した需要はないだろう」と言われ続けてきた。それが、2015年ごろからフードデリバリー市場は伸びており、日常使いされるサービスとして徐々に認知されてきた。ピザや寿司だけでなく、ファストフードなど気軽に頼みやすいものが届くようになり、利用シーンが広がったことも大きい。

すでにニューヨークや上海、北京では、2軒に1軒の飲食店がフードデリバリーをしている。地域の飲食店とユーザーをつなぐのがわれわれのミッションだ。目標としては、4〜5万店の飲食店に向けてデリバリーサービスを提供していきたい。

一方で、競合サービスも大規模な広告などを展開してきている。(DiDiモビリティジャパンなど)新規参入する事業者も増えて、競争は激しくなっている。

ーーデリバリーサービスを展開するアメリカ「ポストメイト」(Postmates)のバスティアン・レイマンCEOは、CNBCの取材に対して「サービス同士のすみわけができるので、フードデリバリーは勝者独り占めのビジネスではない。複数のデリバリーサービスによる共存共栄は可能だ」と発言しています。

私はそうは思わない。注文を受ける端末を置ける店内スペースは限られている。メニュー対応しなければならないことも考えると、注文数の少ないデリバリーサービスを飲食店側が利用するメリットはない。生き残れるサービスはせいぜい2つだろう。

全国で直営の配送拠点を増やし続けているのも、早いうちに多くのユーザーを確保するためだ。フードデリバリー市場が完成すれば、デリバリーサービスも自然と黒字化できる。今は痛みに耐えて先行投資する時期だ。

4〜5年以内に定期的に利用されるようになる

ーー「市場が完成する」というのは?

出前館のアクティブユーザー(直近1年間で1回以上オーダーしたユーザー)は314万人(2019年12月末時点)と、日本の総人口の3%に満たない。ところが、韓国の「ウーワ・ブラザース」(Woowa Brothers)やイギリスの「ジャスト・イート」(JUST EAT)を見ると、アクティブユーザー数はそれぞれの国の人口の2割弱だ。この水準にまで到達すれば、市場が完成したといえる。


中村利江(なかむら・りえ)/1964年生まれ。1988年リクルート入社。ハークスレイを経て、2001年にキトプランニングを設立。2002年に夢の街創造委員会(現・出前館)の社長に就任(撮影:今井康一)

日本でもおそらく4〜5年以内には、それだけの人々がフードデリバリーを定期的に使うようになるはずだ。配送量が増えれば配送効率も上がるので、コストが下がる。配送代行事業の利幅が狭いということはなく、1000万人程度アクティブユーザーを確保できれば十分な利益は出せる。

ーーただ、2020年8月期は15億円の営業赤字を見込んでいます。現状のアクティブユーザー数は、2019年8月期に達成するとした目標数(441万人)を大きく下回っています。

アクティブユーザーになってもらうには、まずはフードデリバリーの利便性を実感してもらわなければならない。初回の利用は、クーポンによる割引などで増やせる。問題となるのは、いかにリピーターになってもらうかだ。容器製造の「エフピコ」とともに、汁漏れ防止や保温可能な麺類用の容器を開発したのも、顧客満足度を高めることで何度も出前館で注文してほしいからだ。

最適価格も見極めなければならない。例えば、吉野屋とは価格を下げる実験を進めている。当初は牛丼(並盛)を570円で届けていたが、店頭価格(380円)と比べて割高だったため、利用するユーザー数は限られていた。どの価格ならば飲食店にとって無理なく、かつユーザーにとって利用しやすいのか、飲食店から(出前館が)受け取る配送手数料(注文金額の一定割合)を引き下げながら調べている。

われわれは飲食店からのサイト利用料で収益を上げられればよく、配送拠点1つひとつで必ずしも黒字化する必要はない。配送手数料を引き上げれば、10カ月ほどで配送拠点は黒字化できる。そうしないのは、ユーザー数と注文数を増やすことに注力しているからだ。価格が高くなって誰も利用しないのでは意味がない。先行投資としてかかったコストは、フードデリバリー市場の拡大とともに回収できるので問題ない。

(新聞配送のネットワークをデリバリーサービスで活用する狙いがあった)朝日新聞社との業務提携を解消したのも、臨機応変に配送手数料を変えるためだ。手数料率(注文金額に対する比率)が3割を超えていては、一般ユーザーがなかなか利用できない。

ーー手数料を引き下げるには、配送コストの抑制が重要となってきますが、どのような施策を打っているのでしょうか。

配送量の平準化と配送の効率化だ。注文は昼食と夕食の時間帯に集中しがちだが、食事の時間帯以外での配送が見込める商品を扱うことで、配送量を平準化する。スイーツや日用品を扱うことも考えており、EC(ネット通販)荷物の配送受託も検討している。


出前館の配送拠点はおよそ半径3キロ以内を管轄している(写真:出前館)

各配送拠点はおよそ半径3km以内を管轄しているが、エリアごとのユーザー数と注文数を増やして、さらに範囲を狭めていきたい。

そのためにも地域住民から支持されている人気の飲食店にも利用してもらい、品ぞろえを充実させなければいけない。デリバリーサービス開始時は手当たり次第に加盟店を増やしていたが、注文の少ない飲食店ばかり獲得しても非効率的だ。今はユーザーの(購買)データに基づいて、エリアごとに営業を重点的にかける飲食店を選んでいる。

配送品質で差別化していく

ーー物流業界では人手不足が深刻化しています。配送の担い手を確保できるのでしょうか。

扱うものが基本的に軽くて綺麗なものなので、少し年配の方や女性でも活躍できる。配送拠点の近隣に住む人々をしっかりと採用できており、大手宅配事業者のドライバーから転職する人もいる。「ASA(朝日新聞販売所)」だけでなく、地場の中小運送会社にも任せている。

【2020年2月10日12時45分追記】配送委託に関する初出時の記述を一部修正いたします。

配送品質のよさは競合サービスとの差別化要素であり、配送時間を5〜10分以内に収めるなど、しっかりと教育・研修を実施している。初期コストはかかるが、配送品質が悪かったことでユーザーが離れてしまってはいけない。遠回りに見えて一番の近道だと思う。

ーーユーザーの購買データの活用についてはどのような展望を持っていますか。

すでに利用回数に応じたクーポンの提供や、ユーザーデータに基づくレコメンドなどは実装している。これからはAIの開発・活用もしなければならないので、そうした人材の採用も進めている。食事は嗜好性が高く、そのときの気分など注文を決定した動機は個人によって異なる。しっかりとパーソナライズしていくことで顧客満足度の向上につながるだろう。また、飲食店には、これまでメニュー開発の支援など行ってきたが、データに基づいた改善提案も一層強化できるはずだ。