■修繕積立金めぐり住民が真っ二つ!?

日本各地で猛威を振るった台風19号。神奈川県の武蔵小杉では、災害に強いと言われるタワーマンションでも浸水被害があった。人的被害がなかったのは不幸中の幸いだが、気になるのは修繕費。保険が下りたりデベロッパーが負担に応じれば問題ないが、そうでない場合、共用部分については管理組合が修繕積立金を使って修繕を行うことになる。

写真=iStock.com/dreamnikon
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他のマンションの住民にとっても人ごとではない。一般的に修繕積立金は不足する傾向にある。修繕計画を立てたときより建築資材が値上がりしたり、そもそも売りやすくするために最初は修繕費が低めに見積もられる業界事情があるからだ。ただでさえ不足気味なのに、災害などで想定外の修繕が加われば、修繕費の増額や一時金の徴収は避けられないだろう。

修繕積立金をめぐるトラブルは多い。修繕積立金の増額は、管理組合の総会で決議が必要だ。災害などで建物の価格の半分を超える被害がある大規模滅失の場合、復旧は特別決議事項(区分所有者数の4分の3以上および議決権の4分の3以上の賛成が必要)になるが、それ以下の復旧や通常の修繕ならば議決権の過半数で可能。この決議をめぐって住民が揉めるケースが後を絶たないのだ。不動産業界に詳しい町田裕紀弁護士は、次のように明かす。

「若い世代は長く住むことを想定しており、修繕に積極的。一方、年金暮らしの高齢者は消極的な傾向があります。強引に決議すると遺恨が残るので、理事長がうまく取りまとめるのが理想的。しかし、理事長職が輪番制だと、事なかれ主義で先送りされがちです」

■滞納が続けば強制執行で競売も

決議後も楽観はできない。修繕費が増額された結果、経済的事情から滞納する住民が現れるおそれがある。督促後も未納なら、管理組合は訴訟を起こさざるをえない。

「和解できなければ強制執行で、ほかに財産がなければ不動産は競売にかけられます。じつはマンションの管理費や修繕積立金の債務は特殊で、区分所有法8条の規定により買い手にも承継されます。ただ、現実には売却代金から精算されることがほとんどです」

売却価格より住宅ローンの残債が大きいオーバーローン状態だと、競売が取り消されることがある。ただ、その場合も区分所有法59条(共同利益背反行為による競売請求)による競売が行われるため、最終的には滞納者はマンションから追い出される。

住居は重要な生活基盤。できれば追い出す形になる前に円満に解決したいところだ。町田弁護士は、修繕積立金を支払えずに困っている住民にこうアドバイスをする。

「分割で払ったり、多重債務で支払えないなら債務整理をする道もあります。売却が避けられないとしても、競売で売るより任意売却のほうが高く売れる。何かしら手はあるので、早めに管理組合側に相談してほしいですね」

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村上 敬(むらかみ・けい)
ジャーナリスト
ビジネス誌を中心に、経営論、自己啓発、法律問題など、幅広い分野で取材・執筆活動を展開。スタートアップから日本を代表する大企業まで、経営者インタビューは年間50本を超える。
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(ジャーナリスト 村上 敬 コメンテーター=西村・町田法律事務所 弁護士 町田裕紀 図版作成=大橋昭一)