イチョウとギンナン

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 ギンナンが落果する季節になりました。街路樹のイチョウからもギンナンが歩道に落ちるため、踏まないように下を見ながら歩く人も多いことと思いますが、時にはギンナンが踏まれ、独特の強烈な臭いが周囲に広がったり、ギンナンで歩道が汚れたりすることもあります。

 こうした、ギンナンによる影響があるにもかかわらず、イチョウが日本の街路樹の中で最も多く植えられているのは、なぜでしょうか。ギンナンの影響は考慮されなかったのでしょうか。国土交通省国土技術政策総合研究所社会資本マネジメント研究センターの舟久保敏・緑化生態研究室長に聞きました。

病虫害が少なく、見栄えもする

Q.現在、イチョウは全国でどれくらい植えられているのですか。

舟久保さん「国土技術政策総合研究所では、高速道路を除く、身の回りの道路を対象にした調査を行っています。2016年度末時点で取りまとめた調査結果によると、街路樹はイチョウが最も多く、約55万本が植えられています。なお、全国の街路樹の種類は545種、本数は約670万本となっています」

Q.なぜ、イチョウが街路樹として最も多く植えられているのですか。

舟久保さん「丈夫で美しく、管理に大きな手間がかからないということが一番の理由だと思います。街路樹に求められる性質として、乾燥や排気ガスなどに耐え、早く成長すること、病虫害が少ないこと、さらに萌芽力(芽を出す力)があり、姿を整えるための剪定(せんてい)によって木(あるいは樹体)が弱ることなく、見栄えがするといったことが挙げられますが、イチョウはこれらの性質を全て持ち合わせています。

また、かつて、関東大震災の大火の後に多く植えられたとも聞いています。イチョウは火に強く、防火帯(火を防ぐ帯)としての役割を期待されたようです」

Q.イチョウから大量のギンナンが落果し、歩行者が踏んで周囲に臭いが広がったり、歩道が汚れてしまったりします。ギンナンの臭いなどは、あまり考慮せずに植樹されているのでしょうか。

舟久保さん「イチョウは雄の木と雌の木があり、ギンナンを付けるのは雌の木のみです。そのため、雄の木だけ植えればよいのですが、雄と雌の違いが分かるのはある程度成長して花が咲いたときであり、幼木を植えたときには区別がつきません。

ただ、近年では、新たな木を植える場合や現在ある木を植え替える場合には、あらかじめ雄の木だと分かっている木の枝をもとに、接ぎ木や挿し木で複数のクローンの個体を作り、これらを植えていると聞いています」

Q.落下したギンナンの除去は誰が行っているのでしょうか。

舟久保さん「清掃は通常、落ち葉の処理も含めて道路の管理者(国や都道府県、市町村)が行っていますが、道路の補修などの維持管理もある中で、十分に手が回っていないのが実情だと思われます。地域によっては、ギンナンの実(種子)が食べられることを生かして、ギンナンを回収し、周囲の皆さんに持ち帰ってもらう取り組みを行っているところもあると聞いています。そうした工夫で問題を解決する方法もあるのでないかと思います」

Q.今後も、イチョウが日本の街路樹で最も多い状況は変わらないのでしょうか。

舟久保さん「私たちが調査を始めた1987年度の段階から、2002年度のデータの約62万本をピークとして減少傾向ではあるものの、イチョウが最多の本数であることは変わっていません。街路樹として優れた性質を持つイチョウについては、あくまで推測ですが、大きく状況が変化することはないのではないかと思われます」